第64話 やっと本格的な鍛冶
「ごめんな、ルピ」
「ワフ〜」
兎2匹分のお肉とレクソンをぺろりと平らげて満足したルピ。もう気にしてないよと頭を膝に擦り付けてくれる。
そしてもう一人。
『良かったですね。ルピちゃん』
「ワフッ!」
ルピが許してくれたので、ミオンの機嫌も直って一安心。
「さてと……」
古代遺跡の鍛冶部屋には、出来上がった鉄インゴットが19本。
最初に作るものはツルハシの頭と決めている。なんだけど、
「前に言ってた大きい感じはやめて、もう少し小さいのにするよ」
『小さい?』
「うん、えーっと……これくらいかな?」
インゴットを叩くハンマーを手に取って見せる。
イメージの参考に画像でも見ておこうと『ツルハシ』で画像検索してたら、片手持ちの実物画像を見つけたので。
「ナイフとカナヅチで掘れたし、最初から本格的な両手持ちツルハシはいらないかなって」
『なるほどです』
「あと、多分、初めてだから出来悪いだろうしね」
大きなものは鍛冶スキルが5ぐらいになってから。まずはツルハシ、手斧、ノミは大きさ変えて三つぐらいかな。
おっと、先に水桶に水を張っておかないと。
「ワフ?」
「ここの水は飲んじゃダメだぞ? あと、ちょっとやかましくするし、部屋が熱くなるかもだから、ルピはベッドに戻っててもいいからな」
火の粉が飛んで火傷とかされてもと思ったけど、ルピは賢いから大丈夫かな?
「あ、ミオンもゲーム音がうるさくなるかもだから、音量下げてもいいよ」
『はい』
鍛冶でガンガンやってる間に雑談はあんまりできないかな。
見てる方も飽きるんじゃないかって気がするけど、こればっかりはしょうがない。
元素魔法の<浄水>で水を張り終えたら、耐熱エプロンと手袋をはめて、古代魔導火床にMPを流し込む。30ほど持ってかれたかな?
「おお、すご。ってか熱っ!」
『換気は大丈夫そうですか?』
「あ、そうだった。うん、アレで排気してるっぽい」
見上げた先にあるダクト?に吸い込まれていく熱気。
新鮮な空気は洞窟の方まで扉を開けっぱにしてるし大丈夫だよな。
「さて、やりますか……」
………
……
…
【鍛治スキルのレベルが上がりました!】
「キツい! 熱い! 休憩!」
ツルハシの頭、手斧とノミ(大)の刃の部分を作ったところでギブアップ。
VIT結構あると思うんだけど、鍛冶そのものに慣れてないからなのかな。腕の疲れとかよりも熱さがキツい……
『お疲れ様です。見ててすごく楽しかったです』
「マジで? 結構、暇なんじゃないかって心配だったんだけど」
『ショウ君が鉄の塊を叩くたびに、形が出来上がっていってすごかったです!』
それは俺も思ったけど、この辺はゲームならではかな。リアルなら数時間、いや半日とかかかるんだっけ?
「あとはこれに柄をつけて完成かな」
『柄はゴブリンが落とした棍棒ですか?』
「うん。あれにちょっと手を入れれば大丈夫のはず」
って、あれ洞窟の広間に置きっぱなしだったな。取りに戻るか。
鍛治以外の作業もこっちでやる方が集中できていいのかな?
「ワフ」
「ん? どした?」
古代遺跡を出たところでルピが何かをスンスンと嗅いでいて……あっ!
『どうしました?』
「あ、うん、これ」
手に取ったのは検証のためにおいた魔石。だったんだけど、
【魔晶石(極小)】
『魔石からモンスターのマナを抜いたもの。
元素魔法:MPを溜めることが可能。精霊魔法:精霊の棲家となる』
なるほどね。
『え? それって?』
「あー、うん、ミオンが調べ物してくれてる間に」
古代遺跡が関係あるんじゃないかと思って、出入り口の近くと遠くと真ん中に置いてみた話をする。
『そうだったんですね』
で、真ん中に置いたのを確認すると、まだ魔石のままっぽい。
「やっぱ古代遺跡の不思議パワーで魔晶石になってるのかな」
『ショウ君、調べてると部活が終わりそうなので上がりませんか?』
「あ、もうそんな時間か。上がってからベル部長に聞くよ」
『はい。でも、その前に精霊魔法のことを報告しないとですよ?』
……
ルピを呼んで、ベットにごろん。
まだ固いこのベッド、せめて何か敷かないとなんだよな……
***
「で、精霊魔法を取得したのね?」
「です」
「はあ……」
そんな大きなため息つかなくてもよくないですか?
『ショウ君以外に、精霊魔法を自力で取った人っていないんですか?』
「そうね。新規でエルフのプレイヤーが増えたから、精霊魔法自体は見るし、精霊石も初期装備してるから見たことはあるわよ」
ヒューマンの初期装備にあった『初心者の指輪』はエルフにはなくて、代わりに『精霊石のペンダント』というのを持ってるらしい。
ちなみに、元素魔法がすぐ取れるのはその『初心者の指輪』に<浄水>とか<着火>の魔法が刻まれてるからなんだとか。
「でも、精霊石の鑑定結果に『精霊が宿った魔晶石』ってありましたよね? 魔晶石が手に入らないとか?」
「いえ、手に入るわよ。魔石に神聖魔法の<浄化>をかければいいだけだし」
ちょっとすごい発見かなと思ってたけど、もう普通のことだったのか。
まあ、俺自身は神聖魔法取れてないから、それはそれで有用なんだけど。
『えっと、じゃあ、精霊さんを見かけないということですか?』
「そうね。厳密には『誰とも契約してないフリーの精霊を見かけない』かしら」
「うーん、島に俺だけで棲みやすいからとか?」
俺以外に人がいないはずだし、自然あふれる場所なのは間違いないはず。
『でも、それなら今開拓に出てる人たちも遭遇してそうです』
「なのよねえ」
とベル部長がため息をついたところで、さっきの動画のアーカイブを見直していたヤタ先生から指摘が。
「やっぱりこの光る苔でしょうかねー。暗い場所に光るものがあればー、光の精霊は当然そっちに寄っていくんじゃないかとー」
「ええ、おそらくそうかと」
『そのまま近くに落ちてた魔晶石に宿ったということですか?』
「それが自然な気がしますねー」
実際に光の精霊が光苔に寄ってきて、その近くの魔晶石に宿るところまで観察できればいいんだろうけど、さすがにそれはちょっと……
「この話も今日の会合でしていいかしら?」
「いいっすよ。っていうか、俺も他にやることたくさんあるんで任せたいです」
『部長。すごいリスト更新しておきました』
すごいリストはやめてください。
めちゃくちゃ恥ずかしいです……
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