第65話 キックオフミーティング

 いつものバーチャル部室にいるのは、俺とミオンとヤタ先生の3人。

 ベル部長とセス美姫はすでにIROに行っていて、あと5分ほどでこの部室限定の配信を始める手はずになっている。


「会議中は私は何も喋りませんよー。いないことになってますしねー」


 ヤタ先生がそう言ってからマイクをミュートしたようで、アバターに×マークのついたマスクがついた。

 そして、


【何かあったらこれで伝えますねー】


 そう書かれたフリップボードを見せる。

 そこまでする必要あるのかな? というか長音書かなくてもいい気がするんだけど。国語の先生でしたよね?


『二人とも準備はいいかしら?』


 聞こえてきたベル部長の声にミオンが頷いたので、俺の方から返事を返す。


「おけーっす」


『じゃ、開始するわね』


 ということで魔女の館のライブに……ちゃんとここのグループ限定になってるのを確認して繋ぐ。


『どう? 見えるかしら?』


 映し出されたのは会議室っぽい大きい部屋。

 長方形の大きなテーブルの上座にはベル部長。その左右後ろに、ゴルドお姉様とセスが控えるように座っている。

 テーブルの左右に3人ずつで6人。合計9人かな。


「はい、映ってますよ」


『今のはショウ君!?』


『紹介するから少し待って』


 なんだか大変そうだなあ……という目でミオンを見ると何故かニッコリされた。


『こほん。じゃ、ギルド設立のキックオフミーティングを始めたいと思います。

 まずはお客様のミオンさんとショウ君、自己紹介お願いできるかしら?』


 そういう流れになるとは聞いていたので、俺が先に自己紹介。


「ども、無人島プレイしてるショウです。よろしくお願いします」


『ショウ君の実況をしてるミオンです。よろしくお願いします』


 余計なことがバレないように最低限の自己紹介。なんだけど、


『おお! 本物!』


『ミオンちゃ〜ん』


 聞いてたとはいえ、歓迎されてるようで一安心。

 なんだけど、配信カメラに向かって手を振られてもどうしたものやら……


『はいはい、こっちも自己紹介よ。私とゴルドお姉様、セスちゃんは知ってるからパスね。生産組はリーダーからお願い』


『じゃ、私からね』


 つらつらと6人分の自己紹介が続く。

 ゲーム内でも関わりがないし、顔と名前を覚えるのに一苦労だなと思ってたら、ミオンがちゃんとメモしてくれてる。


————

席順時計回り

・ユキ:リーダー。槍、料理、素材加工、会計。真面目そうなお姉さん。

・ゼルド:戦槌、鍛治、木工、細工。髭もじゃで大きなおじさん。

・ジンベエ:剣、小盾、陶工、素材加工、細工。本物の陶芸家みたい。

・バッカス:斧、木工、大工、伐採、細工。マッチョなお兄さん。

・シーズン:細剣、裁縫、素材加工、細工。セスちゃんと同じぐらいの女の子。

・ディマリア:農耕、園芸、調薬、陶工、素材加工。優しそうなお姉さん。

————


 俺にも見えるように置いてくれたので目を通すんだけど……細工持ち多い?

 俺も細工は裁縫の針を作るのに取ったけど、やっぱり他でも有用なのかな?


『じゃ、自己紹介も終わったし、ギルドを設立するのは決定事項なので、今日はその後の話ね』


 この会議が終わった後、セスがベル部長やゴルドお姉様を連れて、アミエラ子爵にお願いに行くそうだ。


 お願いがダメだった場合、ギルド設立自体はいったん保留。

 ギルドっていう体裁が整わないと国から——この場合は開拓を仕切ってる貴族とかだけど——直接依頼を受けられないので、別のコネを探すとのこと。

 セス美姫のやつ、ホントに大丈夫なんだろうな……


『今配ったのがミオンさんが作ってくれた、ショウ君のやらかしリストよ』


『すごいリストです』


『……すごいリストよ』


 女性陣が大ウケして、カメラにサムズアップしてる。

 男性陣は苦笑い? めっちゃ恥ずかしいので、俺もう帰っていいですか?


『ゴブリン集落の掃討はライブで見たが、それ以降もいろいろ発見してるようだ』


 渋い声はジンベエさん。これはすぐ覚えた。俺の陶工の師匠だし。


『じゃ、一人一つずつ順番に質問してくか?』


『うん、そうね。じゃ、男性陣からどうぞ』


 これも予定通りかな。

 リストにあることの質問が向こうから来るので、それに答えるだけ。どうやって商売に活かすかは、あちらで考えてもらう方向。

 こっちからの質問ももちろんオーケーで、できる限り答えてくれるとのことだけど……


 ………

 ……

 …


 質問が1周したところで、


【そろそろ時間ですよー】


 ヤタ先生がフリップを見せてくれる。

 もうそんななのかって感じ。一人5分ちょいって結構短い。


『そろそろ時間じゃないですか?』


『ええ、そうね。この後もあるし、今日のところはこれで終わりにしましょうか』


『ありがとう!』


『いろいろ教えてくれて助かったわ!』


『これからもよろしく! 聞きたいことはいつでも聞いてくれ!』


『ミオンちゃん、頑張ってね!』


「こちらこそです。お疲れ様でした」


『お疲れ様でした』


 配信が終わって、ホッと一息。

 ベル部長とセス以外は社会人だよなあ。


『ショウ君、大丈夫ですか?』


「大丈夫って言いたいけど……。正直、気疲れしたかな」


【しっかりした人たちのようで安心しましたー】


「ヤタ先生、もうフリップはいいんで」


「そうですかー。これ結構楽しいんですけどねー」


 なんか他にもいろいろ書いてあったっぽい。その【コロンビアー】ってなんすか……


『でも、光の精霊の話以外はみなさん驚きませんでしたね』


「だね。なんか『ああ、なるほど』って感じだったかな。ロープとか縫い針なんかは、知ってたのに気づいてなかっただけみたいだし」


「普通にゲームしてる人たちはー、まずゲームのお約束の方に引っ張られますからねー」


 確かにそうかも。俺も普通に王国スタートとかしてたら、今頃はナットやいいんちょと普通にクエストとかしてたんだろうな。


 結局、新しくギルドの売り物になりそうな話としては、光苔、ロープ、骨製の縫い針と目打ちなどなど。

 特に光苔は光の精霊を呼び込めるという話が確実なら、かなり儲かるんじゃないかという話。


「俺が見つけたことが先に出回ってくれれば、ミオンの実況もゆるい方向に行きやすくなるかな」


『じゃ、土曜のライブは光の精霊さんは見せない方がいいでしょうか?』


 確かに……

 今日教えたけど、明日すぐ検証が終わって、土曜までにみんなが知ってるって話にはならないよなあ。


「そのあたりは明日相談しましょうー。話してると10時になっちゃいますしー、少し遊んできたらどうですかー?」


「あー……」


『そうですね。ショウ君、行きましょう』


「りょ。せめて今日のうちにツルハシぐらいは完成させときたいもんな」


 てか、ルピがほっとかれて機嫌悪くしてないか心配……

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