第60話 普通じゃないこと
「ばわっす」
「待たせたの」
俺と
いつもの時間だが、既にミオンもベル部長も、そしてヤタ先生もいる。
『こんばんは』
「こんばんはー」
「やっと来たわね」
ベル部長、どんだけ待ってたんだって感じ。
夕飯の時にセスと話して、俺がギルド外取締役とかいうのになるのはOKしておいた。
俺がその立場で何をするのかについては、セスはちゃんと考えてあるとは言うものの、中身に関しては今からに取っておくとか言われてる状態。
「えーっと、ヤタ先生にはどういう話があったかは説明済みです?」
「はいー、聞いてますよー。ゲームの中身の話にどうこう言うつもりはないですしー、いいんじゃないでしょうかー」
とのこと。ただ、
「わざわざバーチャルルームを作って会議する必要はないと思いますよー。ベルさんがこのルームに限定配信して、ショウ君とミオンさんが音声チャットで話せば済むかとー」
『それがいいです』
ミオンはそうだよなあ。バーチャルとは言え、知らない人と顔を合わせてってのは苦手だろうし。
「それが良かろう。兄上もミオン殿も『無人島にいる』という印象がある方がやりやすいゆえの」
「了解よ。それでセスちゃんが紹介してくれる貴族について、先に教えてもらっていいかしら?」
「うむ。エドワード=アミエラ子爵、ウォルースト王国国防軍の武具調達を担当しておる御仁だな」
すらすらと答えるセスにしっかりとメモを取っているベル部長。そして、当然の質問。
「どういう経緯か聞いていいかしら?」
「兄上から我が助けたご老人の話は説明があったそうだの。そのご老人が懇意、いや、御用商人をしておるのがアミエラ子爵なのだ」
なるほど。セスがもらった奴も、その調達した武具だったってことか。
「その方は共和国の商人って話じゃなかったかしら?」
「表向きはの。あの商会は武具取引を装って、各国の軍備を調査するための諜報機関よ」
その言葉に唖然とするベル部長……。いや、ミオンもヤタ先生もか。
「適当言ってるわけじゃないんだよな?」
「うむ。アミエラ子爵の三女、エミリー殿と仲良くなったゆえな」
「お前、ホント……。いや、ドヤ顔はいいから説明しろ」
ケタケタと笑うセスに説明を促すと、その三女——10歳——と仲良くなった一部始終を話してくれた。
セスは、特にやりたいクエストが無い日は、王都にあるその商会で子飼いの護衛の人たちに稽古をつけてもらうそうだ。
で、たまたま稽古をつけてもらってた日に、そのエミリー嬢を連れて現れたのが、アミエラ子爵。
子爵と商会長が大人の話をしている間に、セスはそのエミリー嬢とすっかり仲良くなってしまったらしい。
「どうやって仲良くなったのか聞いても?」
「ん? 今習ってる勉強がよくわからんというので教えてやっただけだぞ。つるかめ算は久しぶりだったのう」
「……つるかめ算ってどんなだっけ?」
『えっと……』
「連立方程式ですねー。つるとかめの合計が40匹でー、足の数の合計は86本だとするとー、それぞれ何匹ずついるでしょー、とかそういう感じですー」
あー、やったような気がする。けど、方程式じゃなくてどうやって解くんだ?
ダメだ。方程式を使わないで解く方法を思い出せない……
「それがどうやらエミリー嬢のお父上、エドワード殿に伝わったようでな。時間が空いた時はエミリー嬢の家庭教師をしたりもしておる」
「お前、ホント無茶苦茶だな……」
てか、NPCに家庭教師するってなんなんだよ、このゲーム。
「で、子爵殿と直接話をすることがあっての。単刀直入に質問をぶつけてみたところ、否定はされなんだのでな」
「よくそんな直球で聞くわね……」
「エミリー嬢の護衛があれば頼みたいという話だったのでな。であれば、依頼主の素性はきっちりと知っておくべきであろうと。
ああ、この件に関してはここだけの話で頼む。生産組とやらにも、我とアミエラ子爵の繋がりはエミリー嬢と親しいからというだけで良かろう?」
「もちろんよ。私だって王国の貴族を敵に回したく無いもの」
呆れたようにそう答えるベル部長。
「で、プレイヤーズギルドを作るとして、俺は何すりゃいいんだ?」
「兄上はいつも通り無人島でゲームプレイすれば良い。ただ、何かを作った時に、それを配信する前に報告してもらいたいのだ」
「んー、それだけでいいのか?」
大したことないし、そんなの普通にベル部長に伝えてる気がするんだけど。
「兄上はわかっておらんのう。ミオン殿、兄上が最近やらかした……何か作って驚いたものがあるのではないか?」
『あ、はい。一番驚いたのはロープです。あと昨日はモンスターの骨から裁縫針と穴を開ける道具を。それと……作ったものではないですが、光る苔を増やしてたりしてます』
ミオンの言葉に目を丸くするベル部長なんだけど、それそんなに驚くことかな?
「ちょ、ちょっと待って。ロープって?」
「いや、括り罠が鹿とか猪相手は蔓のままじゃ厳しそうだったんで、素材加工してロープを編んだだけですけど。ロープなんて街の道具屋とかで普通に売ってますよね?」
その問いに首を横に振るベル部長。
……え?
『ロープって存在が無いわけではないんですよね?』
「ええ、この間のアップデートまでは売ってたわよ。ただ、ワールドクエストが始まって早々に、開拓に使われそうな道具はあっという間に店から消えたわ……」
「なるほどー。ロープはいろんな使い道がありますしねー。一気に需要が増えて供給が間に合わなくなりましたかー」
ベル部長の話だと、ロープの他にもずた袋や木箱、樽、甕といったあたりも品薄らしい。要するに『生存圏の拡大』に必要な消耗品がガンガンと買われてると。
「ショウ君がジンベエさんを紹介してくれたおかげで、甕では随分と儲けさせてもらってるわよ」
ジンベエさんって……誰? とミオンを見ると、
『フォーラムで陶工についてまとめてた方ですよ』
「ああ、師匠か」
そういえば教えたのすっかり忘れてた。
勝手に師匠って呼んでるので、話すことがあったら正式に師匠と呼ばせてもらおう。
「つまり、ショウ君がやらかしてるのを先に教えてもらって、それをネタにギルドを黒字化するということかしら?」
「うむ。いずれライブでばれようが、ギルドで先に販路を確立しておけば、安定した黒字が見込めるであろう。特に今のワールドクエストが続くうちはの」
「ミオンさん! ライブの後からのショウ君のやらかしをリストアップしてもらえるかしら?」
……やらかしやらかし言われてるの、泣いていいかな?
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