第59話 ギルド設立の条件
「ショウ君は驚かないのね」
「あいつはそういうやつなんで。剣とか盾とか鎧の話って聞きました?」
「ええ、それを聞いたら、ちょっとしたクエストの報酬だって答えが返ってきたわ。詳しいことはあなたが知ってるそうだけど」
本人に説明させようと思って投げたのに、あいつ、めんどいから俺に投げ返しやがったな。
『クエストですか?』
「あいつ、チュートリアルが終わった後にいきなり特殊なクエスト?を引き当ててるんだよ」
俺が見つからなくて街をウロウロしてたところで人助けをした結果……っていうセスから聞いた内容をミオンとベル部長に説明する。
「そんなクエスト聞いたことないわよ……」
『すごいです。それって最初に持ってるお金を全部出さないとダメだったんですよね?』
「多分? そこで有り金全部叩きつけるのがセスらしいんだけどさ」
そのあたりはうちの血というか、俺はともかく、真白姉は間違いなく同じことをすると思うし。
「それで、セスちゃんが貴族にツテがあるっていうのも?」
「あいつが嘘を言うことはないんで……ちゃんとあると思いますよ。その武器防具をもらった商人ってのも、共和国の名のある人物とか言ってたし、そこからとか?」
持ち金全部って言っても、チュートリアル直後だから3万アイリスを立て替えただけ。
命の恩人とはいえ、そのお礼に金属鎧一式に大盾、長剣をくれるような太っ腹。
しかも、武器防具をさらっとくれるってことは、それを取り扱ってる商人って線が高いわけで、当然……
「納得が行ったわ」
「なんでまあ、セスがいいって言うんなら、そのツテを使っていいんじゃないすかね?」
「それなんだけど、セスちゃんから条件を言われてるのよ」
「条件?」
「ギルドにショウ君が入るならっていう条件よ……」
「はあ!?」
いやいやいや、俺が入るのは物理的に……ってのもおかしいか。ともかく、無人島から参加できるわけないじゃん。
「本当にギルドメンバーとして入るんじゃないわよ。今のところはギルド外取締役としてって形でいいって」
頭を抱える俺。抜かりなさすぎて困る……
「強敵……」
「ん?」
『いえ、なんでもないです』
ミオンがなんか呟いた気がするけど。
いや、それよりギルド外取締役ってなんだよ……
「俺が兄だってことも、その生産組の人たちにも伝わってたりします?」
「いえ、私だけよ。知らない人には言わないっていう約束をしてるって」
「あー、うん。約束してますよ。そこはちゃんと」
サーロインステーキ食わせたし!(親父の金で)
しかし、ギルド外取締役なんて何すりゃいいんだよ。
「どうかしら?」
「どうってことは、ベル部長は乗り気なんですね?」
「ええ。セスちゃんが言うには、ワールドクエストの達成率を上げやすくなるんじゃないかって」
「うーん。でも、プレイヤーズギルドで何ができるかって、まだ全然ですよね」
昨日あの後、どこか別の誰かがプレイヤーズギルドを作ったって話はないっぽいし、公式から『プレイヤーズギルドについて』みたいな告知なりヘルプなりも出てない、と思う。
「少なくともプレイヤーズギルドから『依頼』と言う形でクエストを発行できるはずよ」
「あー、それくらいは当然できて欲しいなあ」
『プレイヤーがクエストを作れちゃっていいんですか?』
「複雑なクエストではなくて、お使い的なものね。例えば薬草をいくつ集めてきて欲しいとかそういうものよ」
生産組としては、それができるだけでも随分と捗るんだろうな。
自分で行く時間分は生産に回せるわけで、その分の時給を報酬として上乗せする価値はある。
今までだって知り合いに頼んでたんだろうけど、それを不特定多数に頼めるならってことか。
『それでワールドクエストが進む?』
「ええ。生存圏の拡大っていう命題の中に『新たな街の開発』があるのだけど、それを円滑に進めるには、プレイヤーズギルドっていう存在が必須なんじゃないかって」
ベル部長の話では、今はお上からの指示で開拓を進めてるんだそうだけど、いまいち捗ってないらしい。
「捗ってない原因ってなんです?」
「上からくる開発関連のクエストがまわってないのよ。それらは当然、国主導で貴族が指示を出して進めてるんだけど、商業ギルドや冒険者ギルドを取り合ってるみたいなのよね……」
ベル部長の話だと、ウォルースト王国は三方向に生存圏を拡大しようとしているらしい。
一つが部長たちが昨日行ってた古代遺跡の塔がある南東方面。もう一つが雷帝レオナ様が古代遺跡を発見した北西方面。残りの一つは南西方面で、確かナットたちが行ってたはず。
『仕事がありすぎて、公共ギルドだけで処理しきれてない?』
「そうなの。かといって、急に職員を増やす訳にもいかないらしくて」
予算とか人員とかのさまざまな問題があるらしい。
ゲームなんだし「職員NPC増やせば対応できるじゃん」ってならないのが、IROすごいよな。
「で、セスはなんて?」
「公共ギルドを経由して開拓を進めると、どうしてもお役所仕事になって遅くなるから、プレイヤーズギルドがそこに置き換わればいいって言ってたわ」
「あー、つまり三つのうちどこかの貴族様と直接契約して、人の手配やら何やらを全部、そのプレイヤーズギルドでまわせってか……」
『すごいです……』
そんなこと可能か?
いや、可能かどうかは生産組のやる気次第って感じなのかな。さすがに事務のお姉さんNPCとか雇わないとキツそうだけど。
「ベル部長はそれでうまくまわる気がしてると……」
「そうね。最初から全てうまく行くとは思わないけど、何もしないで今のままでは改善されそうにないのよね」
つまり、このうまくまわってない状況をなんとかしろっていうのも、ワールドクエストの一部と考えてるのか……
「じゃ、いいっすよ。俺がそのギルド外取締役をやっても。ただ、生産組の人たちは納得します? さすがに納得しないままってのは居心地悪いし……」
「その心配はいらないわ。この前、ライブや陶器ビンのことを教えたのもあるし、アンチパラライズポーションの原料がパプの実だってあたりで、私の情報源がショウ君だったってバレてるもの」
「あ……」
そりゃそうか。ベル部長もちゃんと情報元は隠してくれてたんだろうけど、あのコラボライブ見たら気づくよなあ。
「むしろ紹介してくれって頼まれてるわ。ゲームでは会えないから、バーチャルルームで話がしたいそうよ」
まーじーかー……
『ショウ君、大丈夫?』
「あ、ごめん、大丈夫大丈夫。ともかく詳しいことは夜にって感じですよね? セスも入れて」
「ええ、大丈夫かしら?」
「りょっす」
まあ、あいつが一緒に遊びたいってのすっぽかしてるし、これくらいはしょうがないか……
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