水曜日
第58話 秀才と天才
「で、いいんちょは結局エルフで始めたんだよな?」
「
「さすがってか『そこまできっちり調べてくるか?』って感じでさ。教えることもあんまなかったぜ」
いつものメンツでの昼飯。今日は雨なので屋上ではなく教室で。
ナットが机からタブレットを取り出して見せてくれたのは……
「昨日撮ったSSな」
ナットといいんちょのツーショット。
革鎧の一部、胸当てと肩部分が金属の鎧を着て、背中に大剣を背負った金髪イケメン。その隣には革鎧に短弓を持つ、銀髪を腰までのポニーテールにしてる美人エルフ。
なんだこのお似合いのカップルは……っていいそうになったのを、グッと飲み込んでおく。
「いいんちょ、全然雰囲気違うなあ」
その言葉にこくこくと頷くミオンだけど、あの実況してるミオンもリアルのミオンと全然雰囲気違うからね?
「やっぱ弓道やってるだけあって、弓めっちゃ当たってたぞ」
「あれはスキルアシストっていうのがあるからだってば」
そう答えるいいんちょだが、少し頬が緩んでるのが微笑ましい。
それにしても、弓が上手いってのはいいなあ。こっちはやっと短弓が手に入ったはいいけど、矢が用意できてないし……
「矢ってどこかで買うんだよな?」
「おう。武器屋に普通に売ってるぜ」
ナットといいんちょの話だと、1500アイリスと結構いい値段がするそうだが、ちゃんと回収して手入れをしてれば繰り返し使えるそうだ。
と、ミオンがちょいちょいと袖を引っ張る。
「ああ、そっか。弓も矢も木工で修理できるし、いいんちょは取っておいた方がいいかもな」
こくこくと頷くミオン。あってたらしい。
なんだけど、
「ええ、その辺は事前に調べてあったから」
「俺が教える前にもう取ってたぞ」
と呆れ顔のナット。まあ、いいんちょならそうだよな。
予習復習も完璧っていう秀才タイプ。ゲームでも一切手を抜かないってことか……
少し不安なのは、そういうのと相容れない人たちも多い点なんだよな。というか、多少失敗するのも楽しむエンジョイ勢の方が普通だと思うし。
ちらっとナットを見ると軽く頷いてくれた。俺の思うところは伝わってるっぽいし、任せておけばいいか。
「そいや、木工にも道具が必要なんだよな? それも街で買える?」
「商業ギルドでおすすめの道具屋を教えてもらったわ」
「道具屋ってどんなの売ってんの?」
「えーっと……」
ノコギリ、カナヅチ、ノミなんかのごく普通の道具は売ってるそうだ。
ざっくりと鍛治で作るべき道具はその辺かな。カナヅチはゴブリンからの戦利品もあるけど。
「俺より詳しいじゃん。MMORPG初心者とは思えないんだけど」
「わからないことは、大抵はギルドの職員に聞けば教えてくれるもの」
なんでもチュートリアルにそういうのがあるらしく、困ったらギルドに行って聞けって話だそうだ。
ナットが「そうだっけ?」みたいな顔をしてる。俺もお前も説明書読まないタイプだもんな。
「ま、無人島にギルドなんてねーし、ショウはチュートリアルもやってねーしな」
「加えて所持金も0だぞ」
使い道がない金を持たされてても、それはそれで「どっかで使えるのか?」って気になるし、無くて良かった感じかな。
「それで、さっきの話からして伊勢君も弓を?」
「ライブの時にゴブリンアーチャーを倒したんだけど、その戦利品を直したんだよ。今は矢が無くて作らなきゃって段階」
「その辺、全部自前でやらないとってのも大変だよな」
「いいんだよ。それが楽しいんだから」
その言葉にミオンがまたこくこくと頷いていた。
***
「へえ、結構、本格的なダンジョンって感じの塔だな」
『セスちゃん、頑張ってますね』
「贔屓目で無くてもゲーム上手いんだよな、あいつ……」
俺と姉貴も「親の良いところは全て美姫に行った」ってことで意見は一致してる。
それを妬んだりする気は1ミリもないし、むしろ大変なものを押し付けちゃったなって感じなんだけど……できればもうちょっと大人になって欲しい。
ベル部長たちのパーティーは古代魔法の塔を順調に攻略していく。
塔のフロアは敷き詰められた部屋とそれを繋ぐ通路に分かれていて、それぞれにモンスターが出てくるという一般的なもの。
第一階層はゴブリンばかりで、最奥のフロアにボス。ゴブリンリーダーとその取り巻きのセットは俺が洞窟前で倒した連中に似てるんだけど……
「6人パーティーだとあっさりだなあ」
『1人で倒しちゃったショウ君がすごいんですよ』
ミオンがそう言ってくれるものの、似たような敵をわずか5分ほどで倒してしまうベル部長たち。
視聴者参加ってことでパーティーに入ってる3人もなかなかできる人たちっぽいし、その辺、ゲーマーファンが多いんだよな。魔女ベルの館は。
戦利品を回収して奥の小部屋……っていうか、
『ご利用ありがとうございます。行き先階ボタンを押してください』
と部屋の天井付近からアナウンス音。
「エレベーター?」
『ボタンもパネルもそっくりですね』
当然、ベル部長たちもそれに突っ込んでいる。
『完全にエレベーターなんだけど、古代魔法って言いつつ実は最先端科学とかそういうオチかしらね?』
『クラークの三法則だな。「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」というお約束よの』
なんか、
あいつはいつどこでそういうネタを仕入れてくるんだか。
『あら〜ん。でも、行けるのは途中までみたいよ〜ん』
パネルの前でくねくねしつつ告げるゴルドお姉様。
ボタンどうやら30階まであるっぽいが、ボタンの明かりがついてるのは10階まで。
『じゃ、1フロアずつ順に登って行こうと思うけど……よろし?』
ベル部長ならそうだろうなと。ダンジョンの未踏地域は順番に埋めていきたいタイプだろうし。
ゴルドお姉様が②を押すと、次の瞬間、小部屋がふっとブレる。
エレベーターっていうか転送っぽかった? コメント欄もそんな感想で溢れていて……
「お待たせ。あら、昨日のライブ見てくれてるのね。良かったわ」
スッと部室の扉が開いてベル部長が現れ、そのまま自分の席についてVRHMDをかぶる。
あとはヤタ先生だけど、水曜は職員会議が長引くんだっけ……
「それで、相談ってなんでしょ?」
「昨日、ライブの最初にギルドについて話を聞いたでしょ?」
「もう実装されてるみたいすね」
「それで、懇意にしてる生産組とギルドを作ろうってことになったのよ」
マジか……。確か設立するだけでも1000万ぐらいかかるって話だったような。
とはいえ、ベル部長が懇意にしてる生産組は、俺からアンチパラライズポーションの製法が流れて儲けてるはずだし、不思議でもないのかな?
ただ、
『お金だけでなく、貴族様の推薦状が必要という話がありませんでしたか?』
ミオンがそれを言ってくれる。
どういう手段だかわからないけど、いや、多分クエストなんだろうけど、貴族様とコネを作ってどうこうって話が必要そうなんだよな。
「ええ、それに関してなんだけど、セスちゃんが既にあるみたいなのよね」
あー……、あいつならあっても不思議じゃないか……
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