第56話 タスク整理

『合宿があるとは思いませんでしたけど、楽しみですね』


「あー、うん。楽しみなんだけど、どうしたもんだかな……」


『何か問題があるんですか?』


「いや、ほら。うちって今は俺と美姫セスしかいないから……」


『セスちゃんも一緒に来ればいいと思いますよ』


「うーん、それができれば一番いいんだけど……」


 ベル部長もヤタ先生もノーとは言わないだろうけど、旅費ぐらいは出さないとだよなあ。……美姫から親父にねだれば大丈夫か。


 ベル部長たちが例の塔の探索に出発したところで、俺はIROへとログイン。ミオンもすぐに視聴を始めた。


 部活の時に仕込んだ鉄鉱石の精錬。気になっていたそれを確かめに、古代遺跡の廊下を進んで鍛冶場に入る。

 特に問題なくできてるはずだけど……


【古代魔導炉:精錬完了】


「よしよし」


 炉の扉を開くと鉄のインゴットが10本。

 取り出したそれを手に持つと、ずっしりとした重みが伝わってきて実感が湧く。


『10本でツルハシに足りそうですか?』


「んー、やってみないとかなあ。まあ、もう一回やっとくよ」


 ミオンに調べてもらって、鉄鉱石5個でインゴット1本になることはわかった。

 で、炉に入れられるのは鉱石50個が上限。消費MPは5個でも50個でも一緒だったんだけど、まあそうだよなって感じ。


 入りきらなかった分、45個の鉱石を放り込んで炉を再始動。ほっとけば出来上がるので、今のうちに別のことを……


「ワフッ!」


「ん、飯にするか」


 鍛冶場を後にして洞窟に戻り、薪代わりの流木を2本ほど抱えて広場に出る。

 そろそろ枯れ木やらを集めないとなんだよな。こっちの密林よりも、西の森で探す方がいい気はするんだけど……


 火をおこして兎肉を焼きつつ、ルピ用にミンチを作って皿に盛る。水も用意してやってそっちは準備完了。


「ルピ、先に食べていいぞ」


「ワフン」


 しっかり待てをしていたご褒美に。兎肉が焼けるまでもう少しかかりそうだし。

 しかし、この間のフラワートラウトは美味しかったなあ。また捕まえに行きたいところだけど、川の水位が下がらないとだろうし……


「味変したい」


『ショウ君、この前西の森で見つけてた葉野菜を忘れてませんか?』


「あ!」


 完全に忘れてたよ! っていうか、あの時なんで採集してこなかったんだっけ……ロープか!


「えーっと、クレソン……じゃなくて、レクソンを採ろうとしてロープの話になって、ロープ作ってたらどしゃ降りになって、雨水が入らないように土壁作ったら住居って言われて……マイホームで建国宣言って話まで飛んじゃったのか」


『そうですね。いろいろと重なってしまったので、忘れてたのはしょうがないです』


「ははは……」


 慰められるのも恥ずかしい話だけど、ちょっといろいろ立て続けすぎだよな。

 ここらで一度、積まれたタスクを整理して片付けていかないと。


 焼けた兎肉を頬張りつつ、ちょっと今日の予定を考え直す。


 天気の良いうちに、先にレクソンの採集とロープを使った罠を仕掛けに行った方がいいかな。鉱石堀りと鍛治は雨の日でもできるわけだし。


「ちょっと予定変更して西の森へ行くよ」


『はい。クレソンを採ってくるんですね』


「うん。それと、せっかく作ったロープで罠も仕掛けたいし、ちょっといろんな物の在庫が無くなってるし」


 仙人笹もポーションにしちゃったせいで在庫は0。蔓も全部ロープにしちゃったし、パプの実も皮の加工やらに使い切ったし……


「ルピ、西の森行くんで、ちょっと待ってて」


「ワフ」


 インベにある余計なものは、洞窟の広間に置いて行こう。できるだけ空きを作って、罠の材料とポーションだけでいいかな?

 あ、例のアーマーベアに通用するかわかんないけど、麻痺ナイフ持ってくか……


***


『今日は雰囲気はどうですか?』


「今日もゆるい感じかな。あのアーマーベアがいる時がやばい感じだったし、そう言う意味ではちょっと安心かも」


『油断しないでくださいね?』


「りょ。ルピ、鹿がいたとこまで行こうか」


「ワフン」


 気配遮断をしっかり発動し、気配感知を気にしながら進む。

 まあ、気配感知に関してはルピの方が絶対に優秀だろうし、ほどほどでも大丈夫かな。


 今日はしっかり地面を確認しながら歩くと、仙人笹だけじゃなくて結構いろいろと見逃してたのに気付いた……


 雑草だと思ってたけど、ちゃんと食べられる【キトプクサ】や枯れ木に生えている【チャガタケ】なんかを採集しつつ進む。


「ワフッ!」


「おお、偉いぞ〜」


 ルピが急に茂みに飛び込んだと思ったら、フォレビットを咥えて戻ってくる。うんうん、こういうのんびりしたのでいいんだよな。


「えーっと、この辺だったかな……。お、あったあった」


 レクソンを採集するんだけど、全部採っちゃうと鹿——グレイディアが来なくなるかもなので半分ほどは残しておく。

 ふと横を見ると、ルピが何かを嗅ぎつけたのかスンスンしつつウロウロ。


「ルピ、どした?」


「ワフ」


 これ見ろって雰囲気だったので近づくと、木に泥がこびりついていて、これって……


「バウッ!」


 ルピが吠え、気配感知に何かが引っかかった次の瞬間、獣道の先に現れたのは結構なサイズの猪。頭頂部にある太く短い角の上に【ランジボア】という赤いプレートが浮かぶ。


「フゥゥゥ……」


 ガツガツと前足で土を蹴り、突っ込んでくる気まんまんだ。

 お互いの距離は5m弱。今から逃げるのはおそらく悪手だろう。せめて、一撃入れて怯ませた後でないと……


『ショウ君!』


 ミオンが心配してくれるけど、あの熊——アーマーベア——ほどの脅威は感じない。

 自分のキャラレベが上がってるせいかもだけど、ただ突っ込んでくるだけの猪なら対処の仕方はあるわけで。


「フゴッ!」


「<石壁>!」


 ドゴッ!


「くっ!」


 突進してきた猪が突然出現した石壁に激突し、それを押し倒しそうになって慌てて両手で支える。


「バウッ!」


 石壁の裏から飛び出したルピが右後ろ足にガッチリと噛み付いて支えを奪うと、ランジボアは堪らず横向きに倒れた。


「ナイス!」


 こういう時に斧があったらなあと思いつつ、その首筋に<急所攻撃>を入れる。


「フギャアッ!」


 まだ暴れてるし、しぶといな! もう一回!


「ふー……」


【キャラクターレベルが上がりました!】

【元素魔法スキルのレベルが上がりました!】

【調教スキルのレベルが上がりました!】


 おっと、意外とレベル高かったのかな、こいつ。これでレベル9だっけ。

 元素魔法もようやっとレベルアップ。

 調教も上がって4になったし、そろそろアーマーベア、行けるか?


『大丈夫ですか?』


「あ、うん、大丈夫。思ったよりうまくやれたし。ルピのおかげだよ」


「ワフン」


 うんうん、ドヤ顔していいぞー。

 予想外の収穫だけど、これはいい感じの猪肉が取れそうな予感! 皮も骨も期待大!

 サクッと解体を……


【古代遺跡が発見されました!】


「ええー、またかよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る