第55話 プレイヤーズギルド
「んー、やはり兄上の作るオムライスは絶品よの!」
毎度喜んでくれるのは嬉しいんだけど、口についたケチャップを拭け。
「そいや、今日はベル部長と古代遺跡の塔に行くんだよな?」
「うむ。部室で待ち合わせてから向かう手はずとなっておる。兄上の見送りを期待したいところだのう」
「わかったわかった。それより、部長にも話したんだが、気をつけておいて欲しいことがあるんだ」
タブレットを持ってきて、例の『建国宣言が可能です』っていう動画を見せる。
「なんだ、兄上はまたやらかしたのか。そろそろ『俺、何かやっちゃいました?』と言うセリフを練習をしておくべきではないか?」
「お前なあ……。それよりノリで建国宣言とかしないでくれよ。ベル部長も一緒なんだし」
「うむ。ワンセッションなゲームであればノリでやっても良いのだが、流石にMMORPGで周りに知り合いがおる状況ではの」
それを聞いてほっとする。
「で、どう思う?」
「ふむ。『IROの運営がどこまで考えておるのか』という話であれば、かなり本格的に建国が可能なのではないか?」
「本格的ってどれくらい?」
「そうよのう。簡単に言えばプレイヤーズギルドの豪華上位版というところではないか?」
「なるほど……」
よくあるMMORPGのプレイヤーズギルドだと、ギルドの管理運営はある程度自動でやってくれるもんなあ。
プレイヤーに国を丸ごと任せるのは現実的に無理だろうし、内政面の実務的な部分はNPCを雇ってやってくれるとか?
「でも、プレイヤーズギルドがまだなのに、そこまで実装してあるかな」
「それなのだが『まだ』ではなく誰もその機能に気づいておらんだけかもしれんぞ」
「ああ、そういうことか……」
何かしらどこかに手続きを出せば、実はもうプレイヤーズギルドも作れるかも?
俺のいる無人島なんかを作り込んでる余裕があるくらいなんだし、普通のプレイヤーがやりたいと思うようなことは、実はもう実装ずみで気付いてないだけとか……
「ごちそうさまでした! 兄上、そろそろ急がんとだぞ」
「あ、やべ。洗い物やっとくから、お前は先に行っとけ」
「うむ。件の話は私からしておこうぞ」
「おう、頼む」
こういう時は頭の切れる妹で助かるよ、ホント。
***
「ばわっす。遅くなりました」
『ショウ君』
バーチャル部室に入るとミオンが手を振って迎えてくれる。
時間は午後7時45分。そろそろベル部長も
「ああ、来たわね。セスちゃんから話は聞いたわよ」
「あ、はい」
その隣にはヤタ先生もいて、
「実装済みだけど誰も気付いてない可能性は十分ありそうですねー。ともかくー、今はベルさんのライブに集中しましょー」
とそうだった。ライブ開始まで後10分切ってる。
「はい。じゃ、行ってくるわね」
「兄上、またの」
「おう、頑張れよ」
『いってらっしゃい』
二人を見送ってから席につく。
「ちょっと冒頭だけ見てからでいい?」
『はい!』
開かれているライブ配信予定地にはすでに1万人弱が待機中。
知ってはいたけど、自分の知り合いだと考えると、やっぱとんでもないよな……
「本番まで後10秒ですー……5、4、……」
と午後8時になって、すぐ放送が始まった。
『いえーい! 魔女ベルのIRO実況はっじまっるよー!』
……
知り合いがやってるって思うと、やっぱとんでもないな。
そしてすごい勢いで流れていくコメント欄……1000円ぐらいの投げ銭もちょくちょく流れて行くのが怖い。
『さて、今日はこの前見つけた古代遺跡の塔にチャレンジするわよ! メンバーにはいつものゴルドお姉様と、前回に引き続きセスちゃんに来てもらってるわ!』
『よろしくね〜ん』
『よろしくの!』
ゴルドお姉様。
魔女ベルの初期からのコアファンなんだけど、スキンヘッドの筋肉親父でさらにオネエっていう属性てんこ盛りで、この人にもファンがついてるっていうレベルの人。
IROでは神官戦士をやってるらしく、丸太ほどもある腕から繰り出される
「気になってたんですけど、ゴルドさんってリアルの知り合いなんです?」
「沖縄にいるベルさんの叔父さんですねー。そうそうー、夏にはゴルドさんが営まれてる民宿に合宿に行きますよー」
え? 叔父? 沖縄? 合宿?
衝撃的なことをいっぺんに言うのやめて欲しいんですけど?
『合宿はいつごろですか?』
「8月の初旬ですよー」
時期も決まってるってことは本当に合宿するんだ。文系の合宿なんてガチな吹奏楽部とかだけだと思ってたのに。
……待て。俺が合宿行ってる間、美姫はどうすりゃいいんだ? 真白姉が帰って来てればいいけど。って、それもちょっと怖いな。家の中がグダグダになりそうな予感。
『追加のパーティーメンバーは現地で募集するわ。っとその前に……』
ベル部長、もとい魔女ベルが足を運んだのは冒険者ギルド。
何かクエストを受けるのかなと思ったら、
『ごめんなさい。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかしら?』
『はい、なんでしょうか?』
空いている窓口の職員を捕まえて何を聞くんだろうと思ったら、
『ギルドを作りたいと思ってるんだけど、どうすればいいか知ってるかしら?』
『えっと、少々お待ちを……。実績もあるようですし、お教えしましょうか。簡単な説明でよろしいでしょうか?』
『ええ、すぐにと言うわけじゃないから』
マジかよ。ライブ中にぶっ込んでくると思わなかった。って、
そして、またすごい勢いで流れ始めるコメント欄……
『ギルドを立ち上げるには、まず白金貨10枚——1000万アイリスが必要です』
『随分とお金がかかるのね』
1000万……。いやまあ、一人10万で100人いればいいのか?
『はい。今お持ちのギルドカードですが、それと同じものを発行する魔導具を購入していただく必要がありますので。加えて、毎年、白金貨5枚を王国に収める必要がありますよ』
うわ、上納金もまたキツいなあと思ったら、コメント欄も「搾取しすぎ!」って感じのコメントが流れまくる。
『それ以外にも?』
『はい。王国でギルドを立ち上げるには、加えて貴族様からの推薦状が必要になりますよ。しっかりした人でないと困ったことになりますからね』
若干、威圧気味ににっこりと告げる職員さん。ベル部長も軽く引いている。
それにしても、いろいろとハードル高いなあ。どこかで貴族様にコネを作らないとなんだろうけど……
『ありがとう。参考になったわ』
『いえいえ。ギルドを作られる際はお声がけくださいね。私も優秀でお給金の良いギルドであれば移籍を考えますので』
『そ、そう……』
つまりNPCも雇えってことかな?
それにしても、一人一人のNPCに個性があって自己アピールしてくるとか、どれだけ作り込んでるんだろ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます