第54話 鉄インゴット=?鉄鉱石

「ワフッ!」


「おはよう、ルピ」


 飛びついてきたルピを抱え上げ、あぐらの中へ。

 設定を開いて配信を開始すると、すぐにミオンが視聴を開始した通知が出る。


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフン」


『外の天気はどうです?』


「あ、ちょっと見てくる。雨音は聞こえないけど」


 洞窟を出ると、昨日どしゃ降りだった雨はすっかり上がっていい天気。

 広場にできていた大きい水溜りが少しだけ残ってるぐらいで、他はすっかり乾き切っている。石窯もしっかり乾いているので、とりあえず飯にはできそうかな。


「飯にしようか」


「ワフ」


 ルピに兎肉を切り分けてあげ、自分の分は……まだ大丈夫だし夜でいいか。

 兎肉もそろそろ在庫切れになりそうなんだけど、今日は先にやっておきたいことがあるんだよな。


「部活終わりまで1時間ぐらい?」


『はい、それくらいです』


 あの後、ヤタ先生から「ちゃんと勉強もしないとダメですよー」っていうお小言をもらうことしばし。

 まあ、怒られてるのはベル部長だったんだけど、明日は我が身にならないようにしないと……


「ちょっと手分けして当たるか。ルピ、ご飯終わったらバイコビット2匹狩ってきてくれるか?」


「ワフン」


 任せろというドヤ顔を返してくれる。

 この密林の辺りにはルピが危険な相手はもういないと思うけど、それでもちょっとだけ心配。


「サローンリザードには気を付けてな。俺は奥で石掘りだから、あとは好きにしてていいぞ」


「ワフ」


 しっかりと兎肉を平らげ、やる気まんまんで出かけていくルピを見送る。

 この前ちょっと動画を見直したんだけど、拾った時に比べて二回りは大きくなってる感じかな。


「じゃ、俺は鉱石を掘るか」


『いよいよ鍛治ですね』


「うん、順番考えて効率よくやらないとね」


 まずはツルハシを作って、鉄鉱石を効率良く採掘できるようにする。

 その次は斧を作って、木を切り倒せるようにしたい。後は大工道具を作っていけば、ログハウスに近づける。

 いきなりログハウスは無理でも、とりあえず木箱とかが作れるようになれば、いろいろと捗ることも多いはずだし。

 いろんな道具が揃えば、弓の修理もできるはず……


 一応、妙な気配がないかを注意しつつ古代遺跡を奥へと進む。

 通路も鍛冶場も変わりなく、突き当たりの扉はやっぱり閉まったままだ。


「一番怖いのは、これが向こうから開くことなんだよなあ」


『開くかもしれないんですか!?』


「あ、いや、装飾とか見てもプレイヤーじゃないと開けられない扉だと思うけど、なんとなく?」


 ホラーゲームとかによくある展開というか……フラグっぽくなるからやめよう。


 階段を降りて採掘場に来ると、前よりも光苔が育っていてかなり明るい。

 入口の扉を開けっぱにしてたし、雨も降って湿気がここまで来たせいかな。


「さて、持てるだけ掘っていくか」


 採掘ポイントを錆びたナイフとカナヅチでガンガンやる。一つの採掘ポイントから鉄鉱石が数個取れ、複数あるそれを順にガンガンと……


 ………

 ……

 …


「ワフッ!」


「お、ルピおかえり。もう狩って来たのか。えらいぞー」


 足元に2匹のバイコビットを置いて、ドヤと胸を張っておすわりしているルピ。しっかりと撫でて、褒めて伸ばしていく方針で。

 ひとしきり褒めてあげたところで、バイコビットは解体してインベに放り込む。肉を少し切って、ルピへのご褒美とおやつに。


「いったん鉱石を鍛冶場に運ぶか。これ全部一度に突っ込めるかな?」


『一度、試運転した方が良くないですか?』


「あ、確かに……」


 いきなり容量一杯まで鉄鉱石を放り込むつもりだったけど、消費MPがどれくらいなのかも調べないとだよな。


「う、重っ」


 鉄鉱石の単体の重量があるせいか、体にずっしりと来るものが。

 インベントリ自体のシステムはゲームっぽく都合の良いものなのに、重量はちゃんと負荷かかるんだな……。これSTR上がればもっと持てるようになるんだろうか。


 鍛冶場の古代魔導炉の隣に採掘した鉄鉱石をぶちまける。これも木箱とかあればいいんだろうけど、今のところはしょうがない。


「えーっと、ここから入れるのか」


 実際の鉱石からインゴットを作る方法なんて知らないけど、古代魔導炉の前面にある扉を開いて、そこに鉄鉱石を放り込む。とりあえず5つ放り込んで扉を閉め、炉に手を添えてマナを注いでみる……


『大丈夫そうです?』


「多分? MPは2割ぐらい持ってかれたかな。これで動いてるんだよな?」


『鑑定してみるのはどうでしょう?』


 あ、うん、そうでした。


【古代魔導炉:作動中:完了まで約15分】


「よし! 動いてる!」


『やりましたね!』


 これも15分で済むのは助かる。どういう出来上がりになるのかわからないけど、とりあえずこれで放置するしかない。


「後はこれでどれくらいのインゴットができるかだな」


『ツルハシ作るのにどれくらい必要なんでしょう?』


「うーん、一般的なツルハシの頭のサイズってこれくらい?」


 手を肩幅ぐらいに広げる。もうちょっとでかかったっけ?


『集めてきた鉱石全部で足りないかもですね』


「だよなあ。こういう原石って鉄じゃない部分も混じってるし、インゴットになったら半分以下になってそう」


 でもまあ、それならそれで何度か掘りに行けばいいだけの話か。掘る場所も全然近いんだし。


「部活終わりまで30分ぐらい時間ある?」


『はい、35分ぐらいありますよ』


「おっけ。ちょっと散歩がてら川の様子でも見に行くかな」


「ワフワフ」


 散歩と聞いて俺を急かすルピ。

 行って帰ってくる頃には、ちょうどインゴットも出来上がってるはず?


 洞窟を出て川の方へと進むと、この前はあった河原が完全に水没していた。昨日のどしゃ降りでかなり水位が上がってる。

 水も前は魚も見える透明度だったのが、今は濃い緑で全然見えないレベルに濁っている。

 正直、ゲームでここまでやるんだって感じだ……


「あー、これじゃ、今日は魚は無理だな」


「クゥン」


 水浴びしたかったのか、ルピもしょんぼり。

 とはいえ、どうしようもないので、林の中を散策し、パプの実やら蔓やら採集して帰宅。


「さて、できてるかな?」


【古代魔導炉:精錬完了】


『終わってますね!』


「よしよし。扉を……熱くないよな?」


 恐る恐る取っ手に手をかけて開けると、そこには1本の鉄の延棒が鎮座していた。

 少しだけ熱気が出てきたが、炉の中も十分に冷めてるっぽい。


「えーっと、鉱石5個で1本っていう結果からして、3個か4個か5個で1本になったはずだよな。

 ということは、鉱石60個で試して、12本なら5個、15本なら4個、20本なら3個になるはずで……」


『あの、ショウ君。私、調べてきましょうか?』


「あ、うん、お願いします……」

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