火曜日
第53話 歴史はゲームで学ぶもの
「……」
俺が出してしまった『建国宣言しますか?』を見てフリーズするベル部長。
この人、ちょくちょくフリーズするんだけど大丈夫なのかな?
『部長、大丈夫ですか?』
「え、ええ、大丈夫よ」
動画を見終えて、ゲーミングチェアに深く沈み込むベル部長。
「ワールドクエストの内容を見たんですけど、確実にこれと関係ありますよね?」
「あるでしょうね。私たちが今日のライブで行く塔のあたりも王国の領土じゃないのよ」
「へー、ってことは開拓して入植すれば建国宣言できるかもっすね」
『魔女ベルの館で建国とかすごいことになりそうですね』
俺もミオンもそうなると面白そうだなって感じなんだけど、ベル部長はいまいち乗り気じゃ無い感じで眉間を揉む。
「それはそうなんだけど……。今のこの状況で建国宣言なんかしても面倒ごとしか無いでしょ?」
「なるほど……」
塔の場所は王国の南東、帝国から見ると南西。確かに微妙な場所。
「二人は今王国内がどうなってるか知ってる?」
「昼にナットから聞きましたけど、NPCの難民が街の外まで溢れてるらしいっすね」
「彼らのために早めに新しい街を作る依頼が、冒険者ギルドに並び始めたわ」
地域一帯の魔物の駆逐、安全の確保、開拓、そのための物資の輸送やら何やらと初級者から中級者向けの依頼が張り出されてるらしい。
『部長たちも依頼をこなしてるんですか?』
「ええ、王国のトップ組は私たちの南東、レオナ様の北西に分かれてるわね。それで一番奥まで行ったところで古代遺跡を見つけたのよ」
「へー。そういえば結構高い塔なんですよね? 遠くから見えたりしなかったんです?」
「ああ、それね。塔の近くまで行かないと見えないらしいのよ。古代魔法で隠蔽されていたって話だけど、システム的なものかしらね」
古代魔法って洞窟の奥の扉もそうだったっけ。まあ、プレイヤーじゃないと見つけられないとかそういうのかな。
『その塔までずっと開拓するんですか?』
「そうね。途中に大きめの川があったから、そこを中心に一つ街ができることになると思うわ」
「そこで誰か建国宣言したりしません?」
「……可能性はあるわね。まあ、私の周りには止めておくように言うわよ。
普通は勝手に国を作ったりしたら、軍備が整う前に隣国が攻めてくるでしょ。それに負けて『三日天下』『金柑頭』とか称号が付いたら洒落にならないわ」
さすがに不名誉称号は無い気がするけど、他のプレイヤーからはそう呼ばれるのは俺もやだなあ。
『あの……依頼で開拓してるなら、その土地は依頼主の物になるんじゃないでしょうか?』
「あ……」
「……そういえばそうね。確かウォルースト王国の伯爵家だったかしら」
そんな話をしているところにヤタ先生が現れる。
「みなさん揃ってますねー。今日はミオンさんが動画を上げる日ですけどー、準備は終わってますかー?」
「あ、やべ、そうだった」
『動画はできてますので、確認お願いします』
ミオンから渡された動画を確認。今回は罠を作って仕掛ける話と、それをチェックに行く話かな。
ライブで雑魚ゴブリンの相手をしてくれたり、麻痺ナイフで活躍してくれたサローンリザードも収録されてる。
「おっけ」
「このオオトカゲ、王国の周りでは見かけないわね。環境的にもっと南の方に住んでるのかしら?」
「はいはいー、質問タイムは後にしましょうねー。問題ないと思いますしー、これをアップしましょうかー」
『はい』
アップ作業に入るミオンとそれを見守るヤタ先生を横目に、ベル部長から「説明せよ」っていう視線が……
「島の南東側は温帯? 亜熱帯? なんかそういう感じですね。南西側は普通に温帯って感じで……グレイディアっていう灰色の鹿を見かけました」
「グレイディアは王国のあちこちの森で見かけるわね。狩猟の依頼もあるけど、弓のスキルがそれなりに高くないと厳しいらしいわ」
「なるほど。弓か……」
ゴブリンアーチャーからゲットした弓があるけど、あれ壊れかけだったよな。修理しないとと思って忘れてた。っていうか、やらなきゃいけないことが溜まりすぎてる気がする……
『投稿終わりました』
「あ、うん」
ちゃんと再生されるかなって見に行くともう再生数が二桁。どんだけチェック早いんだよ。
『今日の部長のライブは見に行った方がいいですか?』
「ああ、気を使わなくても良いわよ。お互いがお互いのライブを見てるとゲームする時間がなくなっちゃうもの。
それに、ショウ君の嫌いなネタバレを見ちゃうかもしれないわよ?」
「うっ、すいません」
もうちょっと島での生活が落ち着いたらベル部長のライブも見に行きたいんだけど、さっきの弓の件もそうだし、タスクが積まれ過ぎててやばい。
「その前にちゃんと勉強しましょうねー。中間・期末で一教科でも赤点があったら、補習が終わるまで部活禁止ですからねー」
『はい』
「うっす」
「……」
……ベル部長?
「ベルさんは理系教科は優秀なのにー、文系教科は全然なんですよー。私が国語教師なのにひどいと思いませんかー?」
その言葉にプイッとそっぽを向くベル部長。
姫カット和風美人——ただし胸は大きい——なんだから、普通は逆じゃないの? 国語は現代文はもちろん、古文・漢文完璧ってイメージなんだけど。
『意外です』
「英語が苦手ならわかるんですけど、国語はめちゃくちゃ得意そうに見えますけど」
「だいたい『この時の作者の気持ちを答えなさい』なんて……」
「それは『締め切り延びろ』っていうお約束ですよね」
そういうと不機嫌そうな顔になる。
『社会とかも苦手なんですか?』
「日本史と世界史は完璧よ。いろんなシミュレーションゲームで勉強したもの!」
そういえば、IROのライブをやる前は古いシミュレーションゲームのライブとかもしてましたね……
序盤で『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』とか言われて叫んでた気がする。
「選択教科はいいんですがー、国語や英語はもう少し勉強しましょうねー。赤点の回数が多いと美杜大へのエスカレーターに支障が出ますよー」
「はい……」
うへ、そうなんだ。俺も気をつけよ……
<ショウ君は理系と文系どっちですか?>
<え? うーん、まだ決めてないかな。どっちも普通だし……>
<そうなんですね。決めたら教えてください>
<あ、うん>
俺のINTボーナスは全て美姫に行ったからなあ。
うん、まあ、来年考えよ……
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