第52話 突然の雨とマイホーム

「えーっと、また見つかった古代遺跡の方は何かわかった?」


『はい。マーシス共和国の南、森の奥にダンジョンが見つかったそうです』


 いまいちピンと来ないけど、共和国の南って山脈だったよな。

 ということは、両方の国で古代遺跡が見つかったから、ワールドクエストが発生した? うーん……


『ちなみに、見つけたのはゲームドールズの人たちだそうで、やっぱり明日にでもダンジョン攻略をライブするって言ってました』


「あらら。ベル部長も大変だなあ……」


 同じ日に、多分、時間帯も同じぐらいだろう。

 そうなるとどうしても比べられちゃうんだろうけど、相手はそれが仕事みたいな人たちだしなあ。


『私たちやこの島には関係ないですよね』


「うん。実際、部長を手伝えることもないし」


 そんなことを話しながらロープを編んでいると……


 ゴロゴロゴロゴロ………


「ん? 雷?」


『少し暗くなってきてませんか?』


「やべ。せっかく干したのに濡れるのはまずい。ルピ、雨降るかもだし中へ入れ」


「ワフ……」


 残りの乾かした樹皮を取り込み、眠そうなルピを追い立てて洞窟の中へ。

 入口付近で外の様子を見ていると……


「うわっ! めっちゃ降ってきた!」


『ショウ君、水が洞窟に入ってきませんか?』


「あ! えーっとえーっと……<土壁>」


 洞窟の入口を膝丈ぐらいの土壁で塞いでおく。とりあえずはこれで。やばくなったら、また高くしよう。


「あーあ、石窯が外だから、料理も陶工もできないか……」


 火を起こす作業は中でやると死にそうだししょうがない。古代遺跡の鍛治部屋だと大丈夫なのかもだけど、まずは鍛治を試してからだよな。


 入口から見る外の広場は、滝のような雨のせいで、大きい水溜まりが二つ、三つとできている。


 ぼーっと外を見ててもしょうがないしと、洞窟内の広間まで戻ると、ルピはいつの間にかベッドに横たわってお休み中。やっぱちょっと育って大きくなってる気がする。


「とりあえずロープ作り終えるかな」


 ルピの隣に腰掛けると、


【住居の獲得:1SPを獲得しました】

【マイホーム設定が可能です。設定しますか?】


「は? 住居って?」


『この洞窟が住居ということでしょうか』


「うーん、そうなんだろうけど住居って言われると……」


 とりあえず寝るスペースがあるから? それ以外はほぼ何もないんだけど。


「このゲーム、わからないこと急に聞いてくるの多すぎない?」


『それなんですが、設問やアナウンスの文言にヘルプを出せるそうですよ』


「はい……」


 そういうの全く知らないままゲームしてるな、俺。今度落ち着いて、その辺りの説明を読み直そう。

 マイホーム設定についてはいったんスルーして『住居の獲得』の方に触れると、ちゃんと説明表示が現れる。えーっと……


【住居の獲得】

『人が生活を営む空間を、祝福を受けし者が所有した場合に得られる褒賞』


 どうやら合ってるっぽい。ということは、この洞窟は俺が所有したことになるのか。


「なんで今のタイミングって気がするけど、あの<土壁>のせいかな。あれで正面玄関が定義されたような気がする……」


『なるほどです。でも、そうすると古代遺跡はどっちなんでしょう?』


「うーん、どっちだろ。とりあえずこれの説明も見てみるか……」


 もう一つの『マイホーム設定』に触れてみると、


【マイホーム設定】

『祝福を受けし者が所有する住居のうち、自宅に設定した場所のこと。リスポーン地点として直近のセーフゾーンかマイホームかを選択可能になる』


「まあ、普通にゲームしてる人には便利かな」


 直前セーフゾーンか自宅かって選択は、まあまあ使われそうな気はする。

 俺もこの島のもっと広い範囲で活動するようになったら使うかも?


『ショウ君、その表示を出したまま、歩いてみるというのは? 住居じゃないところまで行くと、その表示が消える気がします』


「なるほど!」


 というわけで、さっそくウロウロしてみる。

 このセーフゾーンも家の中扱いなんだ。いや、普通は街全体がセーフゾーンだから、別におかしくないのか。


「やっぱ遺跡の中は違うっぽい」


『地続きなのにダメなんですね』


「あの途中の扉が開いてたら違ったのかな? まあ、そんな広くてもしょうがないし、そもそも島に俺しかいないから一緒なんだけど」


『マイホームというよりは自分の国ですもんね』


「じゃ、島の全体を把握したら国名でも考えるか」


 そんなやりとりをしつつ、洞窟の入口、土壁をちょっと超えてみると『マイホーム設定〜』が消えた。


「うん、この土壁までっぽい」


『基準がいまいちわからないですね』


「普通は土地を買って、家とか建てるからわかりやすいんだろうけど、ここは洞窟だもんなあ。まあ、不都合もなさそうだし、マイホーム設定しておくかな」


 いずれちゃんとした家を建てたら、そっちをマイホームに設定しよう。さすがに変えられないってことはないだろうし。

 ってことで「はい」を選ぶと、


【建国宣言が可能です。宣言しますか?】


「……」


『冗談のつもりだったんですけど……』


「プレイヤーが建国可能って、どこまでサポートしてるんだよ、このゲーム……」


 そのまま表示をそっと閉じる。


『しないんですか?』


「やるといろいろと問題というか、面倒なことになりそうな気がするんだよな」


 ワールドアナウンスはほぼ確実に出ると思う。SPも結構もらえるだろう。

 けど、そうなると、マップ画面でこの島の位置がバレるんじゃないかと。ひょっとしたら、この島がスタート地点として選択できるようになるかも?


 まあ、そういう話にならなくても、国になったからっていう理由でNPCが急に現れたりするのもなんか違うというか……

 ゲーム内は可能な限り一人ぼっちなソロプレイを通したいんだよな。というようなことをミオンに説明する。


『誰か別の人が来ちゃうのは絶対ダメです!』


「だよな。なんで、動画にする時もさっきの部分はカットして欲しいんだけど……」


『もちろんです!』


 で、これはベル部長にも知らせとかないとまずいかな?

 ワールドクエストでの生存圏の拡大、『新たな街の開発』とかが進むと、きっと誰かが俺と同じようなことになるはず。


「ベル部長ってIRO中?」


『です』


「じゃあ、明日の部活の時にでも話すか」


 話してどうにかなるものでもないとは思うけど、せめて部長の周りの人たちがめんどくさいことにならないように。


『急がなくても大丈夫です?』


「うん。建国なんてワールドクエストが進んできてからだと思うし」


 実際にユーザーが建国とかなると燃える展開なんだけどなあ……

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