第46話 アップデート解説ライブ

「ばわっす」


 バーチャル部室に入ったのは8時ジャスト。

 いろいろあってライブが始まる時間ちょうどになってしまった。


『ショウ君』


「お疲れさま」


「来ましたねー」


 ミオンだけでなく、ベル部長もヤタ先生もしっかりいるし。


「もう始まってます?」


『まだです。15分からだそうです』


「稀によくあることよ。修正しましたからの直ってないとかね」


「この手のゲームの運営さんはー、だいたい時間にルーズですよねー」


 ミオンはともかく、ベル部長とヤタ先生は手厳しい。

 で、それはいいとして、


「ちょっと相談なんですが、俺の妹をここに呼んでいいですか?」


『え?』


 その言葉に真っ先に反応してソワソワするミオン。


「……理由を聞いていいかしら?」


 なんか前も妙な間があった記憶があるんだけど、俺は別にシスコンじゃないので勘違いはしないで欲しい。というか、


「あいつが『俺とプロデューサーライブを見るつもりだったのに』って拗ねてるというか……」


 本当に中3なのか? って感じなんだけど、夕食中も鍛冶で何を作っていくか考えてぼーっとしてた俺も悪いわけで。


「美姫ちゃんでしたよねー。真白さんから聞いてますしー、ここは学校内でもないので、部長のベルさんが良いならかまいませんよー」


 真白姉も美姫に甘いんだよな。なんかもう面談とかで「うちの妹可愛い」を熱弁してる姿が目に浮かぶ。


『先生も知ってるんですか?』


「ん、ああ、俺の3つ上の真白姉の担任が熊野先生だったんだよ」


『そうなんですね』


 そのことはまだ話してなかったっけ。

 で、肝心のベル部長は未だ思案中。確実ってわけじゃないけど伝えとくか。


「今、中3なんで来年は美杜に来るし、この部に入るって言ってるんで」


「わかったわ。そういうことなら許可しましょう。でも『魔女ベル』のことは黙っておいてもらうわよ」


「りょっす」


 ミオンが俺の配信してることもバレてて黙っててくれてるんで、それは大丈夫だと思う。


「じゃー、呼んであげてくださいー」


 というわけで、美姫にメッセを送ると、もうそこで待ってたとばかりにやってきた。


「伊勢翔太の妹の美姫といいます。よろしくお願いします」


 出迎えた面々にぺこりと頭を下げる美姫。外向きの猫をかぶった喋り方だ。


「美姫、普段の口調で良いから。来年、この部に入るんだろ?」


「おっと、そうであったな。まあ、よろしく頼む」


 その変わりように驚いている女性陣。すいません、変な妹で。

 最初に復活したのはさすがというかヤタ先生。


「顧問でショウ君の担任の熊野ですがー、ここではヤタでー。お話は真白さんから聞いてますよー」


「こちらも姉上よりお噂はかねがね」


 ちょくちょく姉貴と連絡を取ってるのは知ってるけど、何を話してるんだ一体……


「部長をやってる香取よ。えっと……」


「なるほど。先日のコラボライブはそういうことであったか」


「え、ええ。そういうことなの……」


 何とも言えない顔で俺を見るベル部長。

 すいません、そいつ天才となんとかは紙一重ってやつなんです。


『ショウ君と同じクラスの出雲です。よろしくお願いします』


「こちらこそ。時にミオン殿。兄上には気をつけた方が良いぞ?」


『え?』


「お前なあ……」


 軽く頭を小突いてやると、面白そうにケタケタと笑う美姫。キョトンとするミオン。ホントごめん……


「はいはいー。そろそろ始まりそうですしー、座ってくださいー」


 美姫は必然的に空いている席、ベル部長の隣へと座り、皆が見える位置にどーんと画面が用意される。


 実際、アップデート解説って何話すんだろうな。まあ、ほとんどは俺と関係なさそうな話だろうけど……


『あーあー、入ってます? あ、大丈夫そうですね。

 はい、皆さんおまたせしました。

 IrisアイリスRevolutionレヴォリューションOnlineオンライン、アップデート解説ライブを始めていきたいと思います。

 司会は私、ゲームマスター統括の雑賀さいかちよこ――GMチョコ。

 解説に総合プロデューサーの山﨑やまさき美沙みさ――ミシャP。

 私たち二人でお送りしていきます。最後までよろしくお願いします』


『よろしくお願いします』


 始まった放送はリアル映像ではなく、バーチャル空間に本人アバターというスタイル。

 というか、ゲームマスターいたんだ。それにプロデューサーさんもだけど若い女性って珍しい。


『それではさっそく、本日お昼に適用されたIROのアップデートについて、上から順に解説していきましょう。まずは……』


 メインシナリオ関連のアップデートは、やっぱり皇帝の崩御からの後継者争いがって話だそうで。この辺はナットから聞いてた話。

 下に質問やらのコメントがガンガン流れていくんだけど、正直読める気がしないスピード。


『ちょっと質問を拾っていきましょうか。えーっと「プレイヤーキャラはこの内戦に参加できますか?」はどうでしょう』


『はい、参加できます。ただ、正規軍に編入されるのはかなり難しいと思ってください。今のプレイヤーレベルでは一瞬でやられちゃいますしね。

 プレイヤーが傭兵部隊として参加できる方法がありますが、それは各自探してみてください』


 なるほど。やりたかったら方法はあるけどってぐらいなのか。


「普通に考えて、ぽっと出の冒険者が正規軍なんぞに入れるわけがないしのう」


「使い捨ての傭兵部隊がいいとこでしょうね。どれくらい報酬があるのかわからないけど、あのデスペナと引き換えはわりが合わなそうだわ」


 と妙に会話の噛み合ってる美姫とベル部長。


『次はこの質問……』


 そんな感じで需要が多そうな質問を拾うGMチョコと、ネタバレしないように丁寧に回答していくミシャP。

 キャラリセや新規種族なんかにも質問ピックアップ&回答タイムが入り、なんだかんだで1時間近く経過。

 とはいえ、俺がいる無人島に絡む話は無く……


『そろそろ最後の質問にしましょうか。この「古代遺跡ってなんですか? アプデと関係ありますか?」ですが』


『あー、今日ワールドに流れましたね。アプデとは直接関係はないんですが、新規制限が解除されることでいずれはと思ってたことです。

 ちょっと予想より早かったですが、あちこちにそういう遺跡がありますよ、とだけ回答しておきますね』


 その回答にコメント欄の勢いが更に増す。

 あの無人島ですらあったんだし、大陸の方にはもっとたくさんあるんだろうなあ。

 今日増えた新規さんが育ってくれば、プレイヤーたちの活動範囲が広がって、そのうちってことだったのかな。


「で、今日のワールドアナウンスは兄上なのだろう?」


「あー……はい」

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