第44話 祝福を受けし者

『ショウ君、このキャラ作成時に選べる種族が増えるっていうのは、気にならないんですか?』


 ルピにご飯を用意していると、さっきのアプデの内容が気になったのか聞いてくる。


「あー、それはリリース前から言われてたから。クローズドベータや限定オープン組はヒューマンしか選べないって」


『そうだったんですね。でも、他種族の方が有利とかだったりしないんですか?』


「種族ごとにステータスの初期値は項目によって違うけど、合計としては同じになってるっぽいよ」


『はあ……』


 ミオンがピンときてないようなので軽く説明。

 人間は全部のステータス初期値が10。

 エルフならDEXとAGIとINTが高くて他が低い。

 ドワーフならSTRとDEXとVITが高くて他が低い。

 ハーフリングはDEXとAGIとLUKが高くて他が低い。


 まあ、キャラ作成時、ステータスに10ポイントを好きに割り振れるので、デメリットは消せると思うけど。


『なるほどです。種族の特徴を表現してるけど、トータルとしてみれば一緒なんですね』


「そそ。あと、初期スキルポイントも人間は10ポイント好きに使えるけど、エルフなら精霊魔法のスキルを取らされてたりするみたいだし」


 エルフだと【精霊魔法:Lv1】を取得済みで、その必要SP4が減った6ポイントが、自由に使える初期スキルポイントになっている。

 まあ、ステータスの話もスキルポイントの話もナットからの受け売りだけど。


『前に部長が、初期キャラが神聖魔法をSP4で取ると、後のやりくりが大変って話をしてましたけど』


「うん。なんで、こだわりがある人でなければ人間を選ぶ方が無難なんだけどね」


 日本人、エルフ大好きだからなあ……

 そんな話をしつつゲーム内の食事タイムも終了。


「さて、じゃ、あの洞窟見に行くかな」


「ワフッ!」


『はい!』


 ………

 ……

 …


「やっぱりたいまつとかないと暗いな……」


 覗き込んだ洞窟の中は真っ暗。ゴブリンたちは夜目が利いてたから大丈夫だったのかな?


『長く燃えそうなものってなんでしょう?』


「うーん……」


 インベを探ってみて……雑魚ゴブリンが持ってた棍棒でいいか。これの先に……


「これもどうせ捨てるしいいか」


 ゴブリンマジシャンが着てたボロいローブ。あちこち擦り切れてるし、直して着ようって気にもならないし。

 切り目を入れてビリっとやってから、棍棒の先にぐるぐると巻きつける。<着火>の魔法で火をつけてっと。15分ぐらいもってくれればそれでいいや。


「よし、ちゃちゃっと調べような」


「ワフン」


 人が二人並んで入れるぐらいの洞窟を慎重に進む。気配感知や罠発見に反応はない。

 10mほど進んだところで少し広い空間に出た。ここからゴブリンがポップしてたんだろうな。


「あー、あれがセーフゾーンか」


 右手奥に薄っすらと光っている空間はセーフゾーンで間違いなさそう。とりあえずいったんその中に入っておく。

 この場所もここまでの道も暗くなければ、住居に改造するのも悪く無さそうなんだけどな。


『ショウ君、左奥に扉が』


「え? あ、なんだあれ……」


 セーフゾーンの反対側、洞窟の壁に全く似合わない金属製の扉が見える。

 たいまつ(仮)の明かりを鈍く反射し、表面に刻まれた複雑な模様が浮かび上がらせている観音開きの扉。


『この洞窟には似つかわしくない扉ですね』


「誘導されてるよなあ、これってやっぱり」


『そうなんです?』


「ゴブリンの集落を潰して、その先にってことは『行け』って言われてるようなもんじゃない?」


『確かにそうですね。前に北側に行くにはって話がありましたけど、この先がつながっているのかも?』


「あー、ミオン鋭い。となるとちょっとやばい場所かもな……」


 ここにセーフゾーンがあることを考えると、この扉の先は敵が出てくる可能性も高そう。


『でも、まず開くかどうかなのでは?』


「あ、はい」


 扉には直接触れないよう、念入りに確認してみたが、罠発見スキルにも反応はなし。あ、鑑定できるのかも?


【古代魔導扉】

『古代魔法によって施錠されている扉』


「わからん。古代魔法って何だよ……」


 スキルを魔法で検索しても、元素魔法、精霊魔法、神聖魔法の三つしかないよなあ。


『アップデートで増える要素とかでしょうか?』


「うーん『システムの都合』の方じゃないかな。とにかく、触ってみるしかないかな」


 たいまつ(仮)の明かりも心もとなくなってきたし、ダメ元で開けてみるか。

 左右それぞれの扉についている取っ手をぐっと握ると……


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠しますか?】


「え? はい」


 そう答えると、重かった手応えが急に軽くなる。解錠って言ってたし、鍵が外れたってことだよな。

 手前に開けるのは、洞窟の地面に引っかかりそうなので、そっと押し開くと、その向こうには淡い光に照らされた石の通路が現れた。


【古代遺跡を発見しました!】

【古代遺跡発見:5SPを獲得しました】


「あー……、今のってワールドアナウンスされちゃった?」


 なんか無人島のときと同じような気がする。


『ちょっと公式フォーラム見てきますね』


 その間に床やら壁やら天井やらを見回す。

 光っているのは天井かな。眩しい感じではなく、淡く光ってるので目には優しい。

 床も壁も石壁っぽいな……


『ワールドアナウンスされたみたいです。みなさん、何のことだかわからなくて慌ててますね』


「あちゃー。まあ、今さら無かったことにもできないし、さっさと情報開示した方がいいのかな」


 こんな無人島でも見つかるんだし、大陸の方にはもっとたくさん古代遺跡があるはずだよな。


『とりあえず先を見てみたほうがいいんじゃないでしょうか?』


「りょ。えーっと……」


 中は十分明るいので、たいまつ(仮)は不要そう。それを床に置いて火を消し、両方の扉を一番奥まで開き切る。

 古代遺跡から漏れる明かりで、洞窟の広間もまあまあ足元は見れるぐらいに。


「ルピ、危なくなったら、あのセーフゾーンまで走って逃げるぞ」


「ワフ」


 気配感知や罠発見に反応はなし。ゆっくりと進んでいくと左手側に扉があるが、先はもう少し続いて左に折れている模様。


「扉が先かな」


『通り過ぎてから何か現れたら怖いですよね』


「だよなあ」


 左開きの片側だけの扉だが、さっきの扉と似たような模様が刻まれている。

 取っ手を手に取ると、やっぱりというか、


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠しますか?】


「はい」


 そう答えることで扉が軽くなった。


『祝福を受けし者って何でしょう?』


「あー、IROでプレイヤーのことをそう呼ぶらしいよ。この世界の女神様から祝福を受けてるんだってさ。だから、死亡じゃなくてリスポーンするって設定」


『なるほどです』


 ちなみにその女神様は複数いて、プレイヤーキャラはそのうちの誰かに祝福されてるらしい。誰なのかはわからないらしいけど。


「よし、開けるぞ、ルピ」


「ワフッ!」


 ぐっと力を込め、扉を押し開けると……

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