日曜日

第43話 動乱の始まりは他人事

「ふぁああぁ、おはよ……」


「おはよう、兄上! 昨日は大活躍だったな!」


 朝9時過ぎにして美姫のテンションが高い。昨日のライブ見てるよなあ、そりゃ。


「お前のおかげだよ。ありがとな」


「謝礼はいずれ形のある物での!」


 はいはい。てか「謝礼はいずれ」って俺が言うセリフな気がするんだが。


「お前、朝飯はまだなんだよな」


「うむ、兄上を待っておったのだぞ?」


「はあ……。食パンはあるし、ベーコンエッグとかでいいか」


 雑に朝食の用意をしていると、リビングでタブレットを見ていた美姫から声がかかる。


「兄上、IROが10時からお昼までメンテらしいぞ」


「あれ? ノーメンテで新規制限解除じゃなかったっけ?」


「我もそう聞いておったのだがの。どうやら新規の数が想定以上らしく、サーバーの増強を行うとのことだ」


「あー、なるほど」


 ベーコンをよく焼いた上に目玉焼き、いい感じに半熟。

 トーストにバターを乗せて……緑が足りないんだよな。とはいえ、冷蔵庫の中身が微妙。プチトマトでいいか。


「ほれ、運べー」


「わーい!」


 オレンジジュースのパックとグラスを2つテーブルに置いて。


「「いただきます」」


 昼と夜の食材を考えると買い物行かないとダメだよな。


「んー、どうせなら、IROメンテ中に買い物行っとくか。何が食べたい?」


「昼は適当で良いが、夜はビーフシチューが食べたいのう」


 と、ベーコンをあぐあぐしつつ答える。

 ビーフシチューか。そんなにめんどくさくないし良いんだけど。


「ライス? パン?」


「ガーリックトースト!」


「……いいけど。じゃ、昼はパスタにでもするか」


 それなら今日はご飯炊かなくて済むしな。


***


 昼飯はカルボナーラにコンソメスープ。さすがに面倒になったのでレトルト類で済ませた。

 メンテは正午に終わってるはずだし、新規のラッシュもそろそろ落ち着いてるかな?

 とりあえずはバーチャル部室の方へ。


「ちわっす」


『ショウ君』


「来たわね」


 手を振ってくれるミオンとベル部長はなんか待ってたっぽい?


「どうかしました?」


「メンテ開けて、アプデのせいで大変なことになってるわよ」


「ああ、新規制限解除だけじゃなくて、アプデも一緒にあったんだっけ」


 無人島だと関係なさすぎて、すっかり忘れてたな。


『はい、これを見てください』


 と、ミオンが公式の発表を見せてくれる。


――――

【アップデート Ver 1.1.12 概要】

◇メインストーリー『第一章 帝国動乱編』◇

・新規キャラクターのスタート地点としてグラニア帝国の帝都がなりました。

・新規キャラクターのスタート地点として以下が追加されました。

 ・ウォルースト王国の街・村

 ・マーシス共和国の街・村

・グラニア帝国の帝都にあったセーフゾーンを撤去しました。

 ・帝都内でのプレイヤーキャラクターの安全は保証されません。

 ・死亡時は全アイテムをロストし、最寄りの村にてリスポーンします。


◇新規制限解除にともなうシステム変更◇

・キャラ削除後の再作成に最低6時間のクールタイムが必要となります。

・キャラ再作成のたびにクールタイムが3時間ずつ延長されます。(最大24時間)


◇新規制限解除にともなう種族選択の追加◇

・キャラ作成時にヒューマン以外の以下の種族が選択可能になりました。

 ・エルフ

 ・ドワーフ

 ・ハーフリング

※ヒューマン以外のキャラクターは初期ステータス・初期スキルなどに偏りが発生します。


◇不具合の修正◇

 ………

 ……

 …

――――


「うわっ、いきなりすごいことしてくるな……」


「興味本位で帝国に残ってたプレイヤーから悲鳴が上がってるわね。ショウ君のお友だちは帝国にいるって話だったけど大丈夫かしら?」


「あー、ナットは木曜に王都に着いたとか言ってたんで大丈夫かと」


 聞いた話だと『帝都から出ろ、王国か共和国へ行け』っていうストーリー的な圧がすごかったらしい。

 まともそうなNPC商人の「内戦が始まる前に逃げるので護衛を」っていう依頼に乗っかって脱出してきたとのこと。


『帝国で内戦が起きると、王国と共和国の行き来が難しくなりますね』


 大きなグラニア帝国領を挟んで、西にウォルースト王国、南東にマーシス共和国っていう感じだもんな。


「私が懇意にしてる生産組にはなんとか王国の方へ来てもらったわ」


 逆に王国から共和国に行った人もいるらしい。

 共和国のほうがヒールポーションなんかは潤沢らしいし、魔王国と接してる関係で人獣族のNPCが見れたりするそうだ。


「なんか大変そうですけど、俺を待ってたのはなんでです? 無人島には全く関係ないことですけど……」


 ベル部長やナット、セス美姫なんかは、これからメインストーリーに巻き込まれる形でゲームすることになるんだろう。

 けど、そもそもどこの国でもない無人島にいる俺は、それを傍目に一人のんびりを満喫するつもりだし。


「昨日、あの後、生産組の会合に呼ばれたでしょ。そこで、ショウ君が使ってた笹ポ……ヒールポーションの容器について質問されたのよ」


「うわ、目ざといっすね」


 映ったの火球食らった後の一瞬だけだったと思うけど。


「それでも『ガラス瓶じゃない何か』ってわかっただけよ。私もわからなかったから答えられなかったんだけど、あれは?」


「陶器です。ってか、焼き物してる話は部長にもしましたよね」


「えっ、ポーション用の小瓶を焼き物で作ったってこと?」


「はい。別にガラスである必要ないですよね。まあ、中身の色がわからないとってのはあるんでしょうけど」


 売り物のポーションはそれがあるからガラス瓶なんだろうなあ。


「その小瓶の作り方って教えてもらえるかしら?」


 え? 俺が独力で調べたわけじゃなくて……とミオンを見る。


『部長。公式フォーラムのここに』


 ミオンが前に調べて教えてくれたスレッドを見せると、部長はそれに釘付けになる。


「俺、結局読んでないんだけど、その人まだいろいろ書いてくれてるの?」


『はい。陶器の納品クエストもいろいろ種類があるみたいですね』


 ミオンの話だと、酒場で使うピッチャーだとか、油を保存するための壺だとか、やたらでかい花瓶だとか……


「俺の陶工スキルの知識はこの人の受け売りなんで、この人にコンタクト取るほうが良いと思いますよ」


『王国で活動されてるみたいですし』


「そうね。一人でここまで調べてる人なら、直接会って話したいと思うわ。ありがとう! 皆に伝えてくるわね!」


 とIROへと行こうとするベル部長。


「あ! 迷惑かからないようにお願いしますよ? 個人的にお礼がしたいくらいなので」


「わかってるわよ! そんなことで大事な職人の機嫌を損ねるなんてありえないでしょ!」


 ホントに大丈夫なのかねえとミオンを見ると、小首をかしげて苦笑い。

 まあ、それが可愛かったからいいか。

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