第36話 全て自分で用意する

「ほう! では、あの狼は今は兄上のペットなのだな」


「ペットってよりは相棒って感じかな。雑魚モブなら余裕で勝てるっぽいし、俺より強いかもな」


 夕飯が終わり、とりあえず食器を片して美姫にアイスを出してやる。


「ふーむ、羨ましいのう。我も相棒が欲しいところよのう。やはりドラゴンを従えて竜騎士に……」


 なんか妄想が膨らんでるようだけど、ゲームならいいか。

 それよりも忘れないうちに聞いとかないといけないことがあった。


「美姫、また俺に配信してくれたりする?」


「ん? 別に構わんが何を見たいのだ?」


「いや、何かを見たいっていう話じゃないんだけどさ……」


 ミオンが美姫と話してみたいんだけど、まずは美姫のライブ観戦からっていう、ややこしい話を説明する。


「うちに遊びに来ればいいだけな気がするのだが?」


「そうなんだけど、本人、リアルだとすごい人見知りっていうか恥ずかしがり屋なんだよな」


 普段はほぼほぼ喋らないし、喋るときの声もすごい小さいことを伝えると、アイスを食べる手を止めて首をかしげる。


「ふーむ、合成音声とはいえ、動画ではあれだけ達者に喋れておるのに不思議よのう……」


 俺的には、アイスのスプーンを咥えてプラプラさせてるお前が天才のことのほうが不思議なんだけどな。


「で、今日にでもやれば良いのか?」


「あ、いや、来週で頼む。今週末にライブやるって話になってな。その準備で今週は無理」


「ついにライブをやるのか!」


 楽しみなのはわかったから、椅子の上に立つのはやめろ……


***


「ワフッ!」


「はいはい、ちょっと待ってくれ」


 いつものようにミオン限定配信を開始。すぐに視聴者数が1になる。


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフン」


 いつものも終わって、さて、部活で放置してきた壺は出来上がってるかな?

 テントを出て、少し離れたところにある石窯へと向かう。


「おおー、出来てる!」


【陶工スキルのレベルが上がりました!】


 なるほど。放置してても出来上がりを確認したところでレベル上がるのか。

 まあ、放置してて狩りの最中に通知来てもびっくりするしな。


『いい感じですね!』


「小学生の工作から、中学生の工作ぐらいにはなったかなあ」


 とはいえ、本当にただの座りの良い広口の壺。蓋は後からってことで作ってないし。


「えーっと、まずはトカゲの皮加工からやってみるか」


 パプの実を取り出して果汁を……握りつぶすの大変だなこれ!


『木皿二枚で挟んで潰すほうが早い気がしますよ』


「あ、なるほど……」


 バカ正直に手で握りつぶそうとしてた。というか、ハンドジューサーみたいなものを作ればいいのか……

 まあ、今日のところはいいか。皮のほうを確認するのが先ってことで。


 パプの実を取り出しては絞り、果汁を壺へと溜めていく。と、皮も入る分だけ放り込んでいくかな。


 作業っぽくなってきたので、今のうちに美姫のオッケーがもらえた件を話しておくかな。


「妹のライブ見る話だけど来週でいい? 今週はゴブリン戦の準備に専念したいし」


『はい!』


「……土日でゴブリンに勝てたらね」


『大丈夫ですよ』


 ぐだぐだとそんなことを話しているうちに、壺がトカゲの皮とパプの果汁で満たされる。

 蓋はあったほうがいいのかな? さっきの木皿で蓋しておくか……


「これってどれくらい待つんだろ?」


『生産系での待ち時間はだいたい15分みたいです』


「へえー」


 ミオンがフォーラムで調べてくれた話だと、待ち時間が長いものはだいたい15分ってことになってるらしい。

 もともと15分以下で済むものは、ちょっと待てばってぐらいに短縮されてるんだとか。ま、そこはゲームだしな。


「ワフ」


「あ、ごめん! ご飯まだだったな」


 いつの間にか狩りに行ってたらしいルピがバイコビットを咥えて戻ってきた。微妙に寂しそうな顔をしてて申し訳無さが……


『ルピちゃん、もっと怒っていいですよ』


「すいませんでした」


 解体して得た兎肉をミンチにし、ルピの皿へと盛ると美味しそうに食べ始める。

 水も用意してやってホッとしたところで、


【素材加工:皮処理が終わりました】


【素材加工スキルのレベルが上がりました!】


 と通知が来た。あとはこれを綺麗に洗えばいいらしい。

 現実の皮のなめし方とはまるで違うんだろうけど、そこはゲーム。一応、パプの実が柿っぽいし、タンニンでどうこうってぐらいは合わせてるのかな。


「それにしても、よくこの方法わかったね。公式フォーラムに書いてあったの?」


『実際に自分でランジボアっていう猪の魔物の皮をなめそうとした人がいたんです。

 大きな街には生産施設があって、そこで教えてもらえたそうですが、その漬け込む薬品は手数料に入っていて、何かはわからなかったようです』


「へー、生産施設か。革細工のスキルがあって、自分で狩ってきた皮で鎧作ろうってなっても、薬品まで自前で用意したりはしないよな」


 何かをするために、他のスキルがあれもこれもってありすぎるのもなあ。


『生産施設では薪なんかの消耗品も込みでレンタル料になってるみたいですよ』


「だよなー。全部を自前で調達してる俺がおかしいって……」


 俺は一体MMORPGで何をやってるんだって気になってきたが、これ以上考えるのは危険なのでやめとこう。

 今日の皮の加工も器作ったりするのも楽しいし。更に充実した生活を送るために、まずゴブリンを排除しないと。


『ショウ君。果汁を絞ったパプの実ですが、種は残ってないですか?』


「あ、残ってるはず。っていうか……」


『種を植えて実がなる木にまで育つでしょうか?』


「どうなんだろ。育てることはできそうだけど、桃栗三年柿八年っていうもんなあ。とりあえず持っとくよ」


 8年が8ヶ月は長すぎだろうし8週間ぐらい? 安定してパプの実を収穫できるようになるなら、育ててみる価値はありそう。


「ワフッ!」


「ん、ちょっと散歩行くか」


 しばらく見に行ってない西側へ行くかな。


『罠の見回りですか?』


「ううん、西側行ってみるよ。素材加工のスキル取ってから行ってないし」


『なるほどです』


 仙人笹もルピの手当てに使ってから全然使ってないし、多分ヒールポーションとかになってくれるはず。

 あれ? 罠関連のスキル取ってからも行ってないんだっけ? 笹の葉っぱだけじゃなくて、本体の方も何か使えないかな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る