第37話 壮大なネタバレ
アーマーベアが怖いので、西の森の浅いところを散策。
鑑定、気配感知、気配遮断、採集のスキルレベルが5に。
フォレビットっていうすぐ逃げる兎がいたんだけど、見つけた瞬間にルピが襲いかかって仕留めてた。
肉と皮が取れたんだけど、肉はバイコビットよりも美味そうな予感……
「今何時ぐらい?」
『もうすぐ11時です』
「じゃ、キリもいいし終わるよ」
『はい。あ、ベル部長が落ちる前に部室で話があるそうです』
「りょ。部室寄るよ」
改めて話ってなんだろ。今日の部活で週末にライブって話になったけど、部長も賛成してたしなあ。
『ショウ君、お疲れ様です』
「お疲れ。んで、ばわっす」
「終わったところに悪いわね」
ミオンとベル部長がいてヤタ先生はいないのか。
まあ、生徒が遊んでるのにずっと付き合う義理はないよな。部活って言っても、怪我するような活動でもないし。
「話ってなんでしょ?」
「土曜のライブ、中止にしたほうがいいかもしれないのよ」
……え?
何か聞き間違えたかなとミオンの方を見ると、
『中止ですか?』
あ、聞き間違いじゃなかったっぽい。
「えっと、学校ではベル部長も賛成だったような」
「もちろん覚えてるわよ。でも、そうも言ってられなくなってきたのよ」
ベル部長がミオンのチャンネルを開いて見せてくれる。
今日アップした動画はルピもいるし、再生数は跳ねるんだろうなと思うけど……
「は? チャンネル登録者数が15,000人超えてるんですけど!?」
『部活のときは7000人ぐらいだったのに……』
「これから、まだまだ増えるわよ。一気に5万まで行くんじゃないかしら?」
マジか……
まあ、ルピ可愛いしなあ。可愛いは正義ってやつなのかな。
『ルピちゃんのせいでしょうか?』
「そうなんだけど、こっちを見てもらえるかしら」
続いて見せてくれたのは公式ページのトップなんだけど、ページを開いた瞬間にムービーが流れ始める。新規制限解除とアプデの宣伝PVかな。
やたら暗い一室で「いよいよだ」みたいな意味深なセリフから始まる。話してるのは商人と貴族? なんか越後屋と悪代官みたいだな……
カメラが切り替わって帝国? 兵士たちが進軍する様子。『帝国動乱編』って話だったし、内乱でも起きるのか?
次に映ったのは大きな城門。これは確か王国の城門だよな。ということは帝国vs王国? そのままカメラが進んでいって森の中。
「あ! ベル部長! っていうか、この隣にいるのってレオナ様なのでは?」
「ええ、この間、たまたま一緒になってパーティー組んでた時だと思うわ」
へー、まあトップ組ならその場で共闘って感じだよな。双剣の戦士に魔術師っていう『いかにも』な美女の組み合わせ。
そこから先は、今いるプレイヤーたちの楽しそうなゲームプレイをうまく編集してつなげてる感じ。お? 今ちょっと映ったのナットっぽい……
「はあっ!?」
『ショウ君とルピちゃんですね……』
俺がルピに顔をなめられたり、砂浜で取ってこいしてる様子ががが……
「わかったかしら?」
「めっちゃネタバレされてるじゃん!」
まあ、そりゃ「なんだあれ?」ってなって「ああ、あれは」って今日アップした動画に殺到するよな。
『ライブ、思った以上にすごいことになりそうですね……』
「ええ、もし不安に思うなら今回は見送りでもいいと思うわ。次の動画を出して、調教スキルが伝われば、プレイヤーも落ち着くでしょうしね」
確かに次の動画でルピが相棒になるあたりは確実に入る。
そうなれば、一気に調教スキルが伝搬していくんだろうし、その後はどうやって対象を見つけるのか? って話になるだろうし。
「あー、ちゃんと皆さんいますねー。明日でもいいかと思いましたがー」
「先生もすいません、遅くに」
「いえいえー、まさか公式に晒されるとは思いませんでしたからねー」
晒されるって……
一応、ゲームプレイ中の映像に関しては、IROの開発&運営であるシックス・エレメンツ・ソフトウェアが自由に使っていいという話になっているので文句は言えない。
もちろん、本人と本人が許諾した人なら、好きに使っていいし、営利目的の利用も可能でもある。
「プレイ前の利用許諾契約に同意したならそういうことよ」
と以前、ベル部長に懇切丁寧に説明されました。普通読まないよね? いや、ちゃんと読めよって話だけど。
「土曜のライブは延期も視野にって話をしてたんですが」
「ミオンさんはどうしたいですかー?」
『私は……やりたいです』
その言葉にヤタ先生とベル部長が俺を見る。
「ミオンがやりたいなら俺は賛成で」
ミオンのチャンネルなんだし、彼女がやりたいようにするのが一番。あと、俺的にもせっかくやる気になってたし。
まあ、ライブにせずにゴブリンたちを殲滅するってのもありだけど……
「おせっかいになっちゃったみたいで、ごめんなさいね。当日は私も裏方でサポートするから」
『いえ、教えてくれて助かりました。それで……部長にお願いがあるんですが』
「何かしら?」
『土曜のライブの時に、解説役として一緒に出てもらえませんか?』
はい? 解説役?
「それいいですねー。ショウ君が返事ができない状況になると、ベルさんに解説してもらうと間も持ちますしー」
「なるほど。そういうことですか……」
と納得するベル部長。ミオンもうんうんと頷いている。
スポーツ実況みたいなってことかな。IROの普通の戦闘はミオンもあんまりわからないだろうし、その部分はベル部長に解説してもらう感じの。
『ダメですか?』
「いえ、やらせて頂戴。新しいスタイルには挑戦してみたいもの」
ということで、良かった良かったって話かなと思ったら、
「だとするとー、ベルさんは今週の木曜の配信はパスですねー」
「え?」
「ライブ週三回制限ですよー。日、火、木ですよねー。土曜の解説で出るとするとー、木曜はオーバーですー」
あー、うん、そっすね。
後輩のヘルプに出るとは言っても、そこはきっちりしてるっていうか、ちゃんと先生してるよな。
「せ、先生! 前の日曜はメンテでライブしてませんから!」
「ダメですー。やる気でしたしー」
「じゃ、次の日曜を休みで! 火、木、日の日曜の方をなしで!」
涙目ですがるベル部長。いや、アバターだから本当に泣いてるのかわかんないけど。
「しょうがないですねー。それを破ったらー、来週は部室出禁にしますよー」
「は、はい!」
ベル部長、普段っていうかリアルだとキリッとした美人なんだけどなあ……
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