第21話 検証と島の西側

「あー、もうちょい左。その辺、もう少し拡大して……」


『あ、この島ですか?』


「いや、その左。えーっと西南西にもう少しスクロール」


 はい。現在、ミオンがキャラを作り終えて、スタート地点選択画面。


 普通にやると、マップの大陸にある三つの国、グラニア帝国、ウォルースト王国、マーシス共和国をポチッと選ぶことになる。


 が、そのマップを拡大し、スクロールし、拡大し……大陸から離れた海上にある孤島を一つずつチェックして行くことで無人島スタートが可能になるわけだが……


「あ、うん、それそれ。その島の南端をズームしてみて」


『はい。あっ! 選択でき……あれ?』


「できなくなってるっぽいわね。これはやっぱり島には一人しかスタートできなくしてあると見るべきかしら?」


「っぽいすね。それなら、この情報は公開しちゃっていい感じです?」


 やり方を知ったところで、キャラを作り直して突撃される心配もなさそうで一安心。なんだけど、


「少し待ってもらえますかー? ショウ君が見つけた無人島スタートのポイントはここだけでしょうかー?」


「あ、いえ、もう十何箇所かはあります。その中で一番良さそうなここを選んだので」


「どこかもう一つ別の場所を教えてもらえますかー?」


 という話になって、もう一つ、次点候補だった場所をミオンに教えると、


『あ、ここは選択できます』


「なるほどー。これは伏せておいた方がいいかもですねー」


「なぜでしょう?」


 とベル部長。


「こういう場所は百箇所ぐらいしかないと思うんですよー。今、明かすと無人島スタートラッシュが始まってしまうんじゃないでしょうかー」


 あー……、やり方がわかれば、根気さえあればできるもんなあ。


「なるほど。流行りに乗って無人島スタートを始めてはみたものの、続かなくて放置されると困るのは運営側でしょうね」


 とベル部長。せっかく用意した無人島が無駄遣いされちゃうのか。まあ、それも覚悟の上なんだろうけど。


「それで何か問題が起きてー、ミオンさんのせいにされるのも嫌ですしねー」


「そうですね。公開は無しにしましょ。そういう質問はスルーということでよろし?」


「りょっす」


『はい』


 じゃ、検証は終わりかな。この後、ベル部長は当然IROやるっぽいし、俺はまたルピと遊ぶかなー。


「ミオンさんはウォルースト王国でスタートしておく? アクション系が苦手でも生産系とかもあるし、楽しみ方はいろいろあるわよ」


『えーっと……これって中断できますか?』


 中断? と思ったけど、ミオンはIROをプレイする気はあんまりないんだっけ。


「中断できますよー」


『じゃ、中断しておきます。ショウ君の島にすぐ行けるようになるかもしれないので』


 ……はい。


***


「ワフッ!」


「おっと、おはよう。ルピ」


 飛びついてくるのを受け止めつつ配信開始。


『こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフン」


 ん? ルピもカメラ見えてる? まあ、俺の相棒になったから見えててもおかしくないのかな。


『今日はどういう感じですか?』


「西側の探索はまだ浅い場所だけだし、今日は奥の方まで行ってみるつもり。ルピを連れてって案内してもらおうかなって」


『なるほどです』


 ルピが怪我して伏せってた辺りは前に調べたんだけど、特にモンスターがいたりもせず時間切れだった。

 あそこから奥は結構森が深かったんで、モンスターが出るとちょっとやばいかもなんだよな。


「ルピ。西側行くから案内よろしくな?」


「ワフ」


 任せろと言わんばかりに先頭を歩き始めるけど……大丈夫かな?

 ルピを怪我させた相手がいるだろうことは間違いないんだよな。まあ、気をつけつつ進んで、危なくなったら抱えてでも逃げよう。


 西側の森を進むことしばし。


「ここだったかな、ルピを見つけたのは」


「ワフン」


『奥の方、暗くて……なんだか怖いですね』


 ミオンの言葉に頷く。この前に来た時よりもなんかこう威圧感があるような……


「じゃ、ちょっと奥へ行ってみるよ」


『はい。気をつけてくださいね』


「ワフッ!」


 樹々の間が狭く、生い茂る葉に日光が遮られていて暗い。気配遮断スキルを発動し、ルピは後ろに従えて慎重に探索を始めた。


 ………

 ……

 …


 北へまっすぐと進むが特に変わったことはなし。一応【フォレビット】っていう長毛垂れ耳の兎がいて逃げていったぐらい。ノンアクなのかな?


 で、正面には切り立った崖。東西に伸びるそれは高さ20mぐらいある。

 一応、登れるか試してみたが、さすがにスキルなしでは無理そう。登山とかそういう系のスキルがあればワンチャンなのかもだけど。


「この崖、西の海岸までは続いてそうだなあ」


 左手側は崖がそのまま続いて、崖の高さがどんどん高くなってる雰囲気。

 逆の右手側は島の中央に向かって上りなので、崖は相対的に低くなる感じだ。


「やっぱり真ん中の方に行くべきかな。……ん?」


 その右手側、気配感知に何か引っかかって近づいてくる。


「ウゥゥ……」


 ルピが急に唸り出したその先に……


「グルアァァ!」


 熊!? デカすぎ! 身長2メートルぐらいあるぞ!?

 ポップした赤いネームプレートには【アーマーベア】と書かれている。


「まずっ! 無理無理無理!! 逃げるぞ、ルピ!」


「ワフッ!」


 ルピが突っかかっていかないか心配だったが、ちゃんと聞き分けてくれ、しかも前を走って逃走経路を導いてくれる。

 樹々の間をすり抜け、倒木を飛び越えて南側に必死に走っていると、どうやら諦めたのか気配感知から反応が消えた。

 油断は禁物ってことでセーフゾーンの砂浜まで戻ってきたところで、ようやっと足を止めて腰を下ろす。追いかけられたせいで気配感知と気配遮断のレベル上がってるし……


「はー、助かった。めっちゃ怖かった……」


『大丈夫ですか!?』


「大丈夫大丈夫。でも、ルピがいなかったら道を選び間違えて捕まってたかな。ありがとな、ルピ」


「ワフー」


 んー、この熊に追いかけられるのもクエストの一部なんだろうか? 本当に偶然なのかな?

 マップを開いて遭遇した地点に『アーマーベア』と書き込んでおく。


『あの熊がルピちゃんを怪我させたんでしょうか?』


「あ、そうか。ルピ、あいつにやられたのか?」


「ワフン」


 どうやら当たってるっぽい。


「じゃ、あいつにはいつかリベンジしないとダメだな」


「ワフッ!」


 今のレベルとか装備じゃ、かなりキツそうだし、いつのことになるやら。でも、あいつ倒さないと木を切りにも行けないよな。


「あの熊ってモンスター的にどれくらいの強さなんだろ。ミオン分かったりする?」


『ちょっと待ってくださいね。……モンスターレベル12〜15だそうです』


「逃げてよかった……」

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