第20話 お知らせとサーロイン

 IROをログアウトしてリアルビューに戻ってくると、いつの間にかヤタ先生が部室にいた。

 まあ、いつの間にっていうか、俺がIROしてる間になんだろうけど。


「お二人とも戻って来ましたねー。ちょうど良かったですー」


「……何かありました?」


「次の動画を上げる前にー、チャンネルの方でお知らせを出して欲しいんですー」


 お知らせ? 何それ? と思ったら、


『コミュニティーに投稿でいいんでしょうか?』


「はいー、文面はこちらで考えておきましたのでー、目を通してもらえますかー」


 と、ヤタ先生から送られてきたテキストに目を通す。えーっと、なになに……


『チャンネル登録をしてくださった皆さま、ありがとうございます。


 次の動画投稿をする前に、皆さまにお伝えしておきたいことがあります。


 知人より、ゲーム内や各種SNSなどで、私やショウ君やその友人を騙り、誤った情報を流布している人がいると聞きました。


 現在、私ミオンとプレイヤーのショウ君は、このチャンネル以外での情報発信はしておりません。

 誤った情報に騙される事の無いようご注意ください。


 今後とも、本チャンネルをよろしくお願いします。 ミオン』


 ……マジかよ。


「そんなことにまでなってるんすね……」


『ビックリです』


「愉快犯ですねー。キャラクリ時の名前が重要だとかー、そういう全然根拠のない話に踊らされた人がそれなりにいるようですー」


 まあ騙されたってのはすぐわかるだろうし、キャラ作り直しはできるけど、それでもムカつくよな。


『先生、一点だけ修正しました』


 ミオンの言葉で改めてテキストを読み直すと、最後が『ショウ&ミオン』って変更されてた。それいる?


「ショウ君は気になる点はありませんかー?」


「大丈夫す」


「じゃー、コミュニティーに記事として投稿しておいてくださいー。あ、動画も今上げてしまって大丈夫ですよー。私も確認しましたからー」


 というわけで、お知らせと次の動画をアップし始めるミオン。


 うーん……。個人的にゲームの外にまで影響が出るようなことは避けたいんだよな。攻略情報がリアルマネーでなんて話は本当に聞きたくないし。


「無人島スタートの方法は公開した方がいいんですかね?」


「それもいいけど、その前に確認しておきたいことがあるわ」


「ショウ君がいる島に新規プレイヤーが入れるかどうかですねー」


 ベル部長がIROから戻って来たのか会話に参加。そういやもう部活終わりの時間だから上がったんだった。


「ええ、製作側の意図として、無人島スタートはお一人さま限定の可能性が高いわ。何人も入れるようなら、プレイヤーが殺到しかねないもの」


「ゲームバランスの観点から考えてもー、一人しか入れなくしてある可能性が高いでしょー」


「なるほど……」


 そんなこと微塵も考えてなかった。ということは、最初に特殊褒賞でSPをガッツリもらえたのも、その辺を考慮してなのかな。


『でも、どうやって調べるんでしょう?』


 お知らせと動画の投稿が終わったっぽいミオンが質問する。

 それなんだよな。IROは今の所、1プレイヤー1キャラクター固定。サブキャラなしというガチ設定。


 キャラクターの作り直しはできるけど、もちろんその時は前のキャラを消さないとダメっていう……

 あれ? さっきの話、嘘情報を掴まされてキャラ削除までした人がいたのか? だとしたら御愁傷様って感じだけど……


 そうなるとベル部長はキャラ削除は絶対にしないだろうし、ヤタ先生がやるとか?


「ミオンさんはまだIROプレイしていないでしょー?」


『はい。でも、ソフトを持っていないんですが』


 今はクローズドベータと初期リリース限定プレイヤーの合計6万人に制限されてて、新規は受け付けてないはずなんだけど。


「新入部員用に限定オープンに参加できるソフトを一つ調達済みよ。ショウ君が無人島から出て来た時に、ミオンさんも一緒にプレイできる方がいいでしょう?」


『はい!』


 無人島から出れるようになっても、出るとは限らないっすよ?

 それはそれとして、


「えっと、無人島スタートって結構めんどくさいんですが、どうやって伝えれば?」


「ミオンさんにIROをグループ配信にしてもらってー、その場でショウ君がキャラクリエイトから無人島スタートする方法を教えてあげてくださいー」


「あー、なるほど。それなら多分大丈夫……かな」


 スタート地点を拡大して、たくさんある島からスタート地点として選択できる点を選ぶだけだし……


***


「ただまー」


「兄上おかえり! 肉はちゃんと買ってきておいたぞ!」


 あ、そうだった。今日はサーロインステーキってことで手を打ったんだった。


「おっけ。じゃ、さっそく夕飯の支度と行きますか」


 制服から普段着に着替え、その上にエプロンを。


「ん? お前、俺の分も買ってきてくれたの? その分でもう一段上の肉買えた気がするんだけど」


「目の前で兄上に羨ましそうな目で見られては、せっかくのA5牛が台無しゆえのう」


「……ありがとな」


 気をつかってくれたってことか。どうせ親父の小遣いが減るだけなんだけどな。


「か、勘違いしないでよね! 感謝されて嬉しいわけじゃないんだからね!」


「安っぽいツンデレやめろ」


 そう返してやるとケタケタと楽しそうに笑っている。ったく、しょうがない妹君だな。


 ………

 ……

 …


「ふう、食った食った。やっぱ高い肉はうめーな」


 人間って牛肉食べた時だけ、脳内に幸せ物質が出るとか聞いたことがあるけど、今日はそいつも特上だった気がする。


「ときに兄上、新しく上がっていた動画を見たぞ」


「お、どうよ?」


「ゴブリンを見つけても倒さず、後をつけたのはさすがであった。次が気になる展開ではあるが……」


 ゴブリンの一匹や二匹なら、キャラレベ1でも普通に勝てるらしい。けど、あそこには二十匹ぐらいいたはず。


「さすがに一対二十は厳しいんだよな」


「集落となると特殊なゴブリンもいそうよのう」


「まあクエストなんだろうな」


 ゴブリンを掃討せよ的なクエをベル部長もやってたし。倒せば何かしらお宝があったりしないかな。


「ふむ。我に一つ案があるのだが……」


「お、マジか」


 生意気な妹だが、ゲームは明らかに俺より上手いし、何より一人で考えるよりもよっぽどいい。


 そこから話し込むこと小一時間で八時過ぎ。『無人島スタート検証』をやる予定だったのを思い出し、慌てて洗い物をして、なんとかギリギリで間に合ったのだった。

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