第14話 完璧は目指さない

 チャーハンっていう即席万能夕飯も食って宿題も終えて、9時前ぎりぎりにバーチャル部室にイン。

 そこに待っていたのはミオンとベル部長だけでなくヤタ先生も。


「遅くなりました」


『ショウ君』


「体育系の部活じゃないし、5分、10分の遅刻ぐらいなら気にしなくていいわよ」


「ですねー」


 そう言ってくれるのはありがたいけど、部活終わりとかライブ終わりの時間に結構厳しかった気が……


「じゃ、みんなでミオンさんが編集してくれた動画を見ましょうか」


「りょっす」


 ミオンから受け取った動画をパチンと指を鳴らして再生開始するベル部長。


『IROの奇跡を見た!! 人跡未踏の孤島に唯一降り立ったプレイヤーを発見した!!』


 ……タイトルがすごく何かを意識したような感じなのはわざと? いやまあ、実際タイトル通りなんだけどさ。


 で、登場するミオン。探検家スタイルが似合ってて可愛い。これは内容次第ではめちゃくちゃ人気出る気がする。


『初めまして。私はゲームミステリーハンターのミオンです。よろしくお願いします』


 ペコリとお辞儀するミオン。いいね。礼儀にうるさい人って意外と多いし。


『今回は私が偶然発見した、IROソロプレイヤーの生態に迫りたいと思います。動画が面白かった方、続きを見たい方は是非、チャンネル登録をお願いします』


 うんうん、テンプレテンプレ。


 そこから後はアーカイブ済みのプレイ動画をうまく編集して繋げ、無人島の海岸から東側を要所要所に解説していく。


 サウスネーク、バイコビットを倒して解体し、その肉を焼いて食ったりとか、見つけたゴブリンに気取られないように追跡し、集落を見つけたあたりまで。


 途中で俺とミオンのやりとりなんかも挟みつつ、いい感じにまとまってて、帰宅してからの短時間で作ったとは思えない出来栄え……


『今回の動画は以上になります。ご意見ご要望はコメントにてお伝えください。それではまた次回の動画でお会いしましょう!』


 ニッコリ笑顔で手を振るミオン。

 やべえ、クオリティー高すぎじゃない、これ!?


「いいわね! これは再生数跳ねると思うわ!」


『ショウ君はどう?』


「すごく良かったと思う。盛りだくさんで飽きるタイミングも無いし、最後までずっと面白く見れた」


『良かったぁ』


 そのふにゃっとした笑顔、可愛くてドキッとするので勘弁して欲しい。


「ヤタ先生はどうです?」


「うーんー、素晴らしい出来なんですけどー、素晴らしすぎて問題がありますねー」


 顎に指をあてて小首を傾げる仕草。それは二十歳過ぎた女性がやる仕草ではないと思ったり思わなかったり……

 と、仕草はスルーしてミオンから疑問が投げられる。


『先生、どのあたりが問題ですか?』


「まずー、初めての動画にしては尺が長い気がしますねー。15分ほどをしっかりレポートできるミオンちゃんはすごいんですがー、どう見てもプロっぽいですねー」


「な、なるほど……」


 そう言われてみると、進行も編集もクオリティーが高過ぎて『新人バーチャルアイドル』とは思えない出来。

 勘のいい視聴者なら「あ、これ仕込みだな」って思いかねないし、そうなると勘ぐりだけが先走って良くない気がする。


 それに、ヤタ先生にはまだ続きがあるようだ。


「動画内に今までの情報を目一杯詰め込んでますがー、それだと次から大変ですよー。ショウ君のゲームプレイに進展がないと動画が出せないー、ってなっちゃいますしー」


「うっ……、それはキツいっすね。正直、手探りすぎてゲームが進むかどうかも怪しいし」


 現状、動画の最後に見つけたゴブリン集落をどうするかって段階で止まってるし。


『ショウ君、無理は良くない。先生、どうしたらいいですか?』


「もっとゆるーくー、ショウ君の無人島スローライフのペースと同じくらいでどうでしょー?」


 ヤタ先生曰く、今回の動画は最初に無人島に降り立ったところから、ミオンに出会って落ちるまでぐらいでいいんじゃないかとのこと。

 特に初日のアーカイブにはきっちりと特殊褒賞SPを獲得しているところが映っているので、それだけで動画の価値があるだろうと。


「確かに詰め込みすぎると、次回も同じぐらい内容がないと不満に思われがちね……」


 さすが経験者というかベル部長も思い当たる節があるのか頷いている。一方のミオンはちょっと不満そうかな?

 まあ、これだけ完璧に作ってきたけど、完璧すぎてダメって言われると凹むよなあ。


「攻略動画だと思って見に来る人たちは、新しい情報がないと早々に離れていきますからねー」


 たしかにそれだと継続して見てくれる人のために必死にならないとって感じでつらいな。スローライフどころじゃなくなる。


「ミオンさんがショウ君のスローライフを見守ってるって感じの方がいいのかしら?」


「そうですねー。動物園とかで飼っている動物の日常が可愛いーって感じのがあるじゃないですかー。そういう方向性でどうでしょー?」


 なんか酷い方向に話が進んでる気がするんだけど……泣いていいですか?


『ショウ君はそれでいいの?』


「うーん、俺がミオンとだべりながらプレイしてるだけってことですよね? それだけでいいなら……」


 そういう解釈にさせてください。さすがにペット動画扱いはキツいっす。


「無人島スタートはかなり特殊で僻みとかも来そうだし、辛いところも映しておいた方がいいでしょうね」


 あー……、確かにナットも来たがってたし、おいしいところばっかり出すとやっかみがキツくて運営側に迷惑になる可能性もあるか。それがミオンに行くのはまずい。


「りょっす。泥臭いところも含めて無人島サバイバル日記的な方向で」


『ショウ君、ありがとう』


 ま、実際、キツいゲームプレイなのを見てもらう方が、変な憧れとか妬みとかもなくていいよな。俺としては普通に遊ぶだけだし。


 結局、その後、ミオンとヤタ先生がすごい編集能力を発揮して、1時間ほどで初回動画リテイク版が完成した。


『じゃ、アップします』


「宣伝はどうしましょう。私のチャンネルから誘導……はまた仕込みと思われるかしらね」


「そうですねー。動画のタグをIROにするぐらいでいいでしょうー。その辺りも視聴者さんの反応を見ながらでー」


 まあ、じわじわと再生数が増えて、チャンネル登録者数も増えて、慣れたところでライブってことになれば良いよな。


 そう考えてた時期が俺にもありました……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る