5日目(木)

第15話 トレンド急上昇中

 翌日の授業もつつがなく終了。あとは部活でヒャッホイかな。昨日はミオンの初回動画チェック&リテイクでIROできてないし。


「……ょぅくん、ぃこ……」


「ん、行こっか」


 クラスの女子からの視線が生暖かい。そして男子からは痛い……


「?」


「いや、なんでもないよ。昨日アップした動画が気になってるだけ」


 誤魔化しつつも、本当に気になってる。

 さすがにアップしたのが午後11時前だったし、そこから今の放課後の時間までだから、二桁ぐらい、できれば三桁ぐらい再生されてると嬉しいんだけど。


「ああ、やっと来たわね!」


「ベ……香取部長、早いっすね」


「ちょっとすごいことになってるの! 詳しい話は中でしたいから、早く開けてちょうだい」


 なんだろ? ともかく部室の扉の鍵を開けて中に入る。やることは決まってるっていうか、VRHMDを装着して起動。リアルビューのままでおけ?


「これを見て」


「これって昨日アップした動画ですよね……はぁ!?」


 再生回数がすでに1万を超えてて、チャンネル登録者数も三桁後半。四桁になるのも時間の問題だよな。ってか、


「午前中はそうでもなかったんだけど、昼を過ぎたあたりから一気に増え始めたの。これから明日にかけて、もっとすごいペースで増えるでしょうね」


 マジか……ネタが強烈過ぎた?

 ミオンも驚いてるのか目をパチクリさせてるんだけど……


「大丈夫?」


『うん、大丈夫。えっと、別にやめろって言われてるわけじゃないんですよね?』


「ええ、ほとんど全てが好意的よ。ショウ君のプレイの続きを期待している人と、ミオンさんのファンになった人、その両方って感じね」


「良かった……」


 それを聞いてホッとする。まあ、特殊褒賞SPかなりもらったとはいえ、プレイ自体がすげえ厳しいし、誰かに助けてもらうことも、友達とも遊べない特殊プレイだし。


「サエズッターでも『無人島スタート』がトレンドに上がってきているわ」


「うわぁ……」


 SNS最大手のサエズッターでトレンドってマジか。


『ショウ君、サエズッターのアカウント教えて』


「あ、俺やってないよ」


「あら、今どき珍しいわね」


「ゲームのネタバレ見るの嫌なんすよ。ああいうのって悪気がなくても流れてきちゃうから、ゲームにマジになってる時はネットは見ないようにしてます」


 流石に一周クリアした後とか、どうしても詰んだ時は調べるけど……


『むぅ……』


 あとそんなさえずることないんだよな。今日の晩御飯は何作ったぐらいしかないし。

 そういや美姫はアカウント持ってたっけ? 帰ったら普段何を囀ってるのか聞いてみるか。


「ってか、俺がサエズッターのアカウント持ってたとしても、動画の内容話したりするのNGですよね?」


「当然よ」


 俺だってわざわざそこでIROの無人島スタートのネタバラシをするつもりもない。そんなことしたら、絶対にめんどくさいことになるし。


「俺は無しでいいとして……」


『私のアカウントは鍵してある』


「やるとしても別にアカウントを作った方がいいわね」


 そりゃそうだよな。仕事とプライベートは分けて当然か。仕事ってか部活だけど。

 そんな話をしていると、部室の扉が開いて現れたのはヤタ先生。走ってきた感じなのは、やっぱりミオンの初回動画が跳ねてることを気にして?


「先生、ちょうどいいところに」


「急ぎましたよー。まだ何もアクションは起こしてませんよねー?」


「はい。初回動画がこれだけ跳ねるとなると、次の一手はかなり慎重にならざるを得ないかと」


 さすが魔女ベル。一年弱でバーチャルアイドルの上位勢に登りつめただけあって、いろいろと考えてくれてる感じ。


「それでー、今は何の話をしてたんですかー?」


「SNS関連です。サエズッターでも『無人島スタート』がトレンドに上がってきているので、アカウントを作る方がいいのかという話を」


 俺がSNSやってない話やら、ミオンは鍵アカなのでそれを宣伝に使うつもりはないこととかを説明するベル部長。


「そうですねー。当面はSNSとかはやらなくていいんじゃないかとー」


「今一気に知名度を上げるべきではないと?」


「はいー。動画の方向性も無人島スローライフですしー、がっつかない方がゆるいファンを掴むにはいいかとー」


 ヤタ先生のイメージでは、週に二度ほどの動画投稿。お知らせ含め、情報はチャンネルのみだけにして、スローペースでまったり層狙いということに。


「それにしても、このペースで行けばすぐに収益化できそうね」


「急に収益化できてー、ベルちゃんとミオンちゃん二人同時にスターになっちゃうとー、学校から変に目をつけられちゃいますよー? まあ、美杜は私学ですしー、あまりうるさいことは言ってこないとは思いますがー」


「去年は学校への寄付が500万円でしたね。まあ、その金でこの機材を整えてもらったので文句はありませんが」


 500万円!? ってか寄付で500万円ってことは、ベル部長はもっと儲けてるってことだよな?

 そんな顔をしてるのがバレたのかベル部長が反論してくる。


「部員の皆には『魔女ベル』でどれくらいの収入があるかはちゃんと説明するわ。月末にでもね。あと美杜はバイトOKだから何の問題もないのよ?」


「アッハイ」


 ベル部長、収入はほぼほぼ貯金してるらしい。というか、ヤタ先生曰く、税金の払いとかがめちゃくちゃ大変だそうです。

 理事長から税理士を紹介してもらったりとかもしたので、今後も学校と仲良くやっていくために寄付金は必須っぽい。


「ほどほどにですよー。二年生は秋に修学旅行なんかもありますしー、学業や学校行事も大事ですからー」


「学校行事なんかよりもIROのライブ配信してたいんだけど……」


 そうぼそっとつぶやいたベル部長をヤタ先生が睨む。怖い。

 さすがに修学旅行をさぼってゲームは俺も無いなとは思うけど。


<ショウ君。今日はIROやりますよね?>


 !?


<う、うん、やるよ>


 急にウィスパーされるとビクってなる。

 妹の美姫や姉貴にだってそんなことされたこと無いし……


<何時ぐらいになりそうです?>


<8時半ぐらいからかな>


<わかりました。その前にバーチャル部室で待ってますね>


 普段の出雲さんと今のミオンとどっちが本物なのかわからなくなってくる。女子怖い……

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