第13話 まずは動画投稿

「さて、今日は私も配信はしないし、どうしましょう?」


「どうしましょうって部活勧誘週間なんすけど……」


『体育館、行かなくていいんですか?』


 うん、放置していいことじゃないと思うんだけど?


「体育館の方には『入部希望者は部室まで』と書き置いてきたわ」


 ……まあ、俺も勝手にここに来たしな。

 だいたい、この部が何してるかなんて、結局この部室に来ないとわかんないしなあ。

 ただ、


「部員多いほうが部費も多いとかないんです?」


「部費は部員の数よりも実績ね。ま、うちは私が稼いでるから問題ないわ」


 そうでした……

 まあ、VRHMD含めて残りの席は一つしかないので、あんまりたくさん来られても、それはそれで問題か。

 来年は妹の美姫が入るんだろうし、それでちょうどなんだよな。


「そういえば今日はヤタ先生は来ないんですか?」


「今日は職員会議が長引く日だから、部室の方には来ないんじゃないかしら」


 さっきのまんまかよ!

 まあ、返すときはベル部長に頼も。


「じゃ、配信の練習かな。俺はIROに行けばいい?」


『ショウ君、待って』


 俺はさっそくIROに潜ろうと思ったんだけど、それをミオンが止める。


『提案なんですけど、最初からライブ配信する必要はないと思って』


「あら、どういうことかしら?」


『ショウ君の無人島のプレイに解説をつけた動画を投稿すれば、見てくれる人がいると思うんです』


 ああ、確かにそうかも。っていうか、最初からライブするメリットないよね。

 ミオン……的にもいきなりライブよりは安心かな。


「そうねえ。未だに無人島発見のワールドアナウンスは謎のままだし。その情報をまとめるだけでも十分価値はあるかしら」


『いきなりライブでやると、無人島スタートが目立ちすぎて良くないんじゃないかなって。最初は編集動画をアップして、落ち着いたところでライブじゃダメですか?』


「たしかにその方がハプニングも起きづらいし、慣れるためにもいいかもしれないわね……」


 苦情とかリアルタイムで来ると怖いよな。

 まあ、その方針は全然いいんだけど……


「えーっと、その場合って誰が動画編集するんでしょ?」


「もちろん二人ででしょ?」


 あっさりとベル部長に丸投げされた。

 そう言われるとやるしかないんだけど、俺自身、動画の編集なんてあんまりやったことないからなあ。


 ミオンを見ると、満足げというかやる気まんまんというか、普段の気弱そうな感じとはちょっと違う。

 まあ、この部に入るぐらいだから、そっち方面が好きなんだろうとは思ってたけど、動画編集とか得意なのかな。


「えーっと、それで俺はどうすればいいの?」


『昨日と同じ配信設定でIROをプレイしてください。私も同じグループ設定で配信します』


「グループ限定配信はするけど、アーカイブされたのを後から編集するってことね」


『です』


 なるほど。俺のアーカイブだけだと、あとでスタジオに取り込んでって二度手間になるからか。


『ベル部長はどうされますか?』


「じゃ、私はミオンさんの配信をリアルビューで見てることにするわ。ひょっとしたら誰かくるかもしれないものね」


 あ、まだ、入部希望者が来る可能性があるんだった。


***


 目を開けると見慣れた天井って奴だった。

 昨日に続き、丸一日ここにいたことになるが、テントも俺も大丈夫なので、この辺りにモンスターが出ることはなさそう。


「とりあえず、テントの外に出るか……」


<ショウ君、まだですか?>


 すいません、今配信開始します……

 俺はミオン限定公開になってることを確認し、配信を開始する。


<開始したよ>


<ん>


 すぐに視聴者数が0から1になった。


『こんにちは』


「はい、ミオンさん、こんにちは」


『さんはいらないです。「ようこそ、ミオン」でもう一回お願いします』


「はい……」


 ダメ出しもらいました。

 なんかベル部長が笑ってる気がする……


『こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


『今日はIRO初の無人島プレイヤーを紹介したいと思います。よろしくお願いします』


「よろしくー」


 何かした方がいいかなとカメラの方に手を振ってみる。


『いいですね。あとは普通にプレイしててください。たまに話しかけるので、無理のない範囲で答えてくれれば』


「りょ。とりあえず前に見たゴブリンの様子でも見てくるよ」


『はい、いってらっしゃい』


 尺的にも最初の動画はスタートした砂浜から東側の紹介動画とかが良さそうかな。


 俺は自由にIROして、合間合間にミオンから質問があって答え、それを編集でうまく繋いで動画にするって感じなんだろう。


 好きにプレイするだけだから楽でいいけど、編集作業が結構大変そうだよなー、とか考えながら、前回と同じ東側の探索を始めた。


 ………

 ……

 …


『ショウ君、そろそろ時間です』


「りょ。上がるよ」


 急いでテントまで戻って就寝ログアウト。

 目を閉じてシステムからの通知音を確認し、目を開けると当然そこは部室だった。


「二人ともお疲れ様。一応、5時40分には通知が飛ぶようになってるから、ピリピリする必要は無いわよ」


 そういうことは先に言っておいて欲しかった。

 IROはシステム画面を開かないとリアル時間がわからないから、ミオンが時間って言った時はもう45分になってたかと思ったよ。


『お疲れ様でした』


「お疲れ。とりあえず素材は撮れたと思うけど、俺はどうすればいいの?」


『私が編集するので、ショウ君はそれを確認してもらえば良いですよ』


「え? 俺、手伝わなくて平気?」


『大丈夫です。9時ぐらいに部室に持って行くので見てください』


「じゃあ、そのくらいにバーチャル部室の方に行くよ」


 ミオンが自分でやりたいって言うなら任せちゃうかな。さっきの感じもあるし。

 正直、俺には動画編集の才能なんてないし、彼女のチャンネルで配信することになるなら、彼女が好きなようにするべきだろう。


「先生にも見てもらった方がいいと思うし、私から連絡しておくわね」


「ああ、そうですね。お願いします」


『お願いします』


 同時に「午後5時40分になりました。ログアウトしましょう」という通知が目の前に流れる。

 昨日はこんな通知来たっけ? いや、その前にVRHMD外してたのか。ともかくVRHMDを外して帰宅準備。


 今から帰って午後6時半ぐらい。夕飯とかいろいろあると最速でも午後8時にはなっちゃうか。

 食材は愚妹が買って来てるとして、晩飯、何作れって言われるんだろ……

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