4日目(水)

第12話 幼馴染か腐れ縁か

 駅について改札を抜け、ホームに駆け上がったところでミオンさん……出雲さんに気づいた。


「おは」


「ぉはよぅ……」


 ざっと見回して昨日の臭いおっさんがいない列を見つけたので、そこに出雲さんを先にして並ぶ。

 こういうの後ろからガードしといた方がいいし。というか……


「登下校が一緒になる友だちがいるといいんだけどなあ」


「……」


「ん? ああ、俺か。俺は全然いいんだけど」


 俺がそう答えるとうんうんと頷いてくれた。どうやら解読に成功したらしい。

 いや、俺でいいの?


 程なく電車が到着したので二人して乗り込むわけだが、今日はそんなに混んでない。

 この混み具合なら大丈夫だろうとは思うが、一応、出雲さんの隣に陣取ってはおく。

 ふと、視線を感じて軽く見回すと……隣の車両でベル部長がこっちを見てニヤニヤしていた……


***


「おは」


「ショウよ。お前やっぱり……」


「はいはい、フラグフラグ」


 ナットを軽くあしらって席につくと、今度は神妙な顔をしたいいんちょがやってきた。


「伊勢君、あなた……」


「おいおい、何を勘違いしてるんだ、いいんちょまで」


 ともかく、変な勘違いをされて出雲さんの居心地が悪くなったら申し訳ない。

 昨日あった出来事を軽く話して、いいんちょの誤解を解いておく。

 ちょうどいい機会だし、いいんちょと出雲さんをくっつけとくか……


 そう思って教室の前の方を見ると、出雲さんがこっちを凝視してた。

 うん、ごめん、なんか俺のせいで申し訳ない……

 軽く手招きすると、スッと席を立ってこちらにトテトテと小走りで来てくれる。


「出雲さん。まあ、知ってると思うけど、委員長してるいいんちょ」


「伊勢君、説明になってない。えーっと、鹿島恭子です。その……クラス委員長をしてるので、困ったことがあったら気軽に話しかけてね?」


 いいんちょ、なんかもうちょっとこう……素直に「友達になりましょ」とかでいいんじゃない?


 言われた出雲さんは、俺といいんちょの顔を交互に見ている。

 ん? どういう関係なのかって?


「俺とナット……柏原と鹿島さんは小中と同じだったんだよ。で、いいんちょはずーっと委員長してるからいいんちょって呼んでる」


「むしろ委員長でないいいんちょはいいんちょではないな」


 ナットが何か真理を言った気がするがスルーしておこう。

 それを聞いて納得したのか、出雲さんは、


「ょろしく……」


 と小さく呟いた。

 いいんちょはホッとしたご様子。俺もまあ一安心。


「はいー、ホームルーム始めますよー」


 チャイムとともにヤタ……熊野先生が現れる。

 俺と出雲さんの方をチラッと見て、ナットやいいんちょがいたのを見て少し嬉しそうだ。

 うん、まあ、先生としても気になってたんだろう……


 ………

 ……

 …


「じゃ、俺は部活だ。また明日な、ショウ!」


 ナットは帰りのホームルームが終わった途端に駆け出して行った。ホントに走るの大好きだな、あいつ。

 さてさて、俺も部活に行きますかね……

 荷物をまとめていると、スッと出雲さんが目の前に現れる。


「ん、行こっか」


 コクコクと頷く出雲さんが俺にぴったりとくっついて……やっぱり誤解されてないか?

 なんだか残ってたクラスメイトの視線が生温く感じる。とはいえ、ここで変な反応すんのもなあ。

 まあ、そのうち、いいんちょがちゃんと説明してくれるはず……


「伊勢君ー、出雲さんー、これから部活ですよねー」


「はあ、そうですけど」


 教室を出たところで、さっき出て行ったはずの熊野先生が待ち構えていた。

 えーっと、用事があったんなら教室で良かったのでは?


「部室の鍵を渡そうと思って忘れてましたー。いつもは職員室に香取さんが取りに来るんですが、今日からはお二人に渡すことにしますねー」


 なるほど、そういうことならと、俺が部室のカードキーを受け取る。


「私が部活に顔を出した日は回収できますがー、そうでない場合は職員室に返しに来てくださいー」


「了解なんですけど、職員会議とかしてるとお邪魔なんじゃ?」


「いいんですよー。もうそんな時間かって思ってもらえるのでー」


 ……はい。


***


「まあ、鍵がここにあるんだし、まだ誰も来てないか」


 文化部部室棟の二階奥、電脳部の部室の鍵を開けて中に入る。

 出雲さんはそそくさと自分の席へ座ってVRHMDを被ると、俺にも早くそうしろと目で訴えかけてくる。

 ゆっくりする必要もないので、俺もそれを被り、リアルビューで起動した。


<ショウ君、鹿島さんを紹介してくれてありがとう>


 いきなり出雲さん……ミオンさんからウィスパーで囁かれてぞくっとする。


<いいんちょは面倒見良いし、頼られて喜ぶタイプだから、ミオンさんも遠慮しなくて良いよ>


<うん……。柏原君と三人でずっと一緒だったの?>


<だね。クラスもずっと一緒なのはあの二人だけだったはず>


<どんな関係?>


<どんなって。うーん……>


 俺とナットといいんちょは、駅の南側の学区で小中とずっと同じクラスだった。

 小学校では、俺とナットがバカやるたびにいいんちょに怒られるというパターンのせいでセット扱いされ、さすがに中学では俺らが多少大人になったものの、相変わらず?

 この美杜大附属を三人揃って受けることになると、いいんちょは「またアホ二人の面倒を見にいくの?」とか言われたとかなんとか……

 ざっくりとそんなことを話し、


<まあ、腐れ縁っていう奴じゃないかな>


 とまとめると、


<ふーん……>


 あれ? 何かお気に召しませんでしたかね?


<ショウ君。私のことミオンって呼んで>


<え、いや、流石にそれはまずいんじゃない?>


<何もまずくない。ナットとかいいんちょとか呼んでるのに、私だけ出雲さんなのは他人行儀>


 いや、なんか、それと「ミオン」呼び捨てはちょっと違うんじゃね?

 だいたい、出雲さんは澪って名前なんだから、一歩間違えなくても名前呼び捨てにしてるみたいな……って言おうと思ったら、彼女の目線から圧を感じた。


<じゃ……ミオン>


<ん、ショウ君>


 あれ? リアル肉声でほとんど喋らない出雲さ……ミオンは俺のこと呼ばないし、なんかこれは俺が損な取引だったのでは?

 そんなことを考えていると、


「ごめんごめん、遅くなっちゃったわね」


 と、俺の思考を遮るように香取部長が現れた。

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