幼馴染みが俺に秘密でライブ配信してるけど、恋話で俺について熱く語っているんだが?
東雲 零
短編:ライブ配信中…
俺こと、霜月燈馬には一人の幼馴染みがいる。
霧島初音――17歳で、同級生。
初音とは幼稚園の頃から関わりがあり、今でもよく話たり遊んだりしている、そんな関係だ。
彼女のことはただの友人だとしか思っていないし、彼女も俺のことを同じように思っている。
そう思っていた。
少なくとも、この配信を見るまでは。
『それでそれで、彼って意外とドジでね? 何もない場所で転んだ挙句、カバンのチャックが開いてて教科書が全部地面にバッてね! あははっ、ホント可愛くって』
画面越しに聞こえる初音の声が、今日の俺の失敗談を
『それに昨日なんて、弁当を家に忘れて来るんだよ? それで購買に行ったと思ったら、全部売り切れてたって!』
笑いながら話す初音に、俺は顔を赤らめる。
聞いているこっちが恥ずかしかった。
『そこで私がおすそ分けをしたんだけど、彼ってば鈍感でね!? 間接キスしてるのに、何にも言わないんだよ!』
いや、「美味い」と言ったハズだが――?
『「美味い」の一言しか言わなくってね! 確かに嬉しかったけどさ? もっとこう……言うことあるじゃん!』
何だよ、言うことって……。
『ん? コメント――彼のどこに惚れたんですか?』
――ブッ、と。
コメントを読み上げる初音の声を聞いて、俺は酷く動揺していた。
惚れた、だと?
追い討ちをするかのように、初音が話し出す。
『んー、彼を好きになったのは小学四年生の頃かな?』
めっちゃ昔だし!
ってかそうだったの!?
などと、内心ツッコミを入れる。
『私が公園で遊んでた時に、ボールで転んじゃったんだよね。それで、その時に彼が優しく慰めてくれて……結局、恥ずかしくって、まだお礼は言えてないんだけどね。まぁ、その時に好きになったのかなぁ〜。その時はすごくかっこ良かったけど、今は立場が逆みたいになってる』
微笑を合間合間に入れつつ、そんな過去を振り返る初音。
けど、俺の脳にそんな記憶はなかった。
忘れてしまっていたのだろう。
小学四年生の頃の話なので、仕方ない。
『さて、では次のコメントっ! えーっと、「告白はしないんですか? それとも、告白待ちですか?」』
少しの沈黙が流れ、ゆっくりと息を吸う初音の声がかすかに聞こえる。
次に聞こえたのは、いつも通りの初音の声とは少し違った、落ち着いた声だった。
『振られたら怖いし、振られた結果関係が悪くなるのはイヤかなぁ……。私は今の関係でも満足してるし、ここで想いを語っていることだって、面と向かっては話せないからだと思ってる。だから、告白とかは考えてないかなーなんて』
コメント欄に流れる巨額のスーパーチャットも気にも留めず、俺はただ、黙り込んでいた。
確かに、彼女との毎日は楽しい。
けど、それは友人仲での話だ。
恋人になって、何が変わるのだろうか。
関係や距離がより近くなって、連絡の数も増えて、喧嘩の数だってきっと増えるだろう。
それで?
それで、二人は幸せだろうか。
俺はただただ、一人悩んでいた。
『はい! では次のコメントです! 「もし彼と付き合ったら何がしたいですか!」――何でもしたい!』
この質問に、初音は即答だった。
『ずっと遊んでいたいし、毎日寝るまで電話とかしたり、休みの日にはお泊まりとかしてみたい! 彼のことをもっと知りたいし、彼にも私のことを知って貰いたいですっ! 私って感情っぽいから喧嘩するかもだけど、彼と喧嘩だってしてみたい! それだけ、許し合える関係になりたいかな〜』
初音は、そこまで考えていたのか。
喧嘩だって仕方のないもので、迷惑なんて日常茶飯事で。二人はいつも楽しくて、笑っている。
思えば、彼女との時間で、つまらないと思ったことは一度もなかった。
喧嘩しても次の日には二人で笑って、失敗しても相手を咎めることはしない。
言ってしまえば、幸せだろう。
ただそれだけの日常で、俺にすれば友人との毎日だと思い込んでいたのかもしれない。
『あっ、彼から連絡が! えっ、「昔よく遊んだ公園に来てくれ」って……。と、ということで! 配信はここまでです! ご視聴ありがとうござ――』
そこで、初音のライブ配信は終わった。
幼馴染みが俺に秘密でライブ配信してるけど、恋話で俺について熱く語っているんだが? 東雲 零 @Shinonome_R
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