■■■■〚Welcome to エグリマティアス〛■■■■
…私が魔法使い!?
さすがにさっき半分冗談でココアに「魔法使いなの?」と聞いた私でもそう簡単に信じられるわけがない。
「…あら?信じてもらえてないようね。まぁ、今は別に信じてもらわなくてもいいわ。その前に…」
女の人は気を失っているココアのもとへ行き、ココアの首に手をかけた。
「なっ…何する気ですか!?」
「怖がらないで頂戴。彼の意識を戻すだけよ。」
女の人がココアの首にきつく巻き付いた首輪に手を当て小さな声で何かをつぶやいた。
すると、さっきまで赤かった首輪の金具が紫色に落ち着いて、それからさらに青色になった。
「…ゲホッ…ゲホッ……ゴッ………」
その瞬間、ココアが咳込んだ後、はぁはぁと喘ぎながら目を開いた!!
「ココア!!大丈夫なの!?」
ココアはまだ答える余裕もないのか私を見て一回だけ頷いた。
「ココア、私情でこの娘の記憶を消そうとしなかったことには〚敢えて〛追求しないわ。…ただ、あなたはこの娘が普通じゃないって気づいていたんじゃないかしら? …そして、それを知りながらこの私に報告しなかった…。」
女の人がココアに厳しい口調で問いかける。
彼は数秒間、じっくり呼吸を整えてから答えた。
「お言葉ですがオーナー。僕はオーナーの〚魔法使いは全員戦いに参加すべき〛という考えに反対です。この〚オルゴール・ニア家〛からはすでに僕が戦いに参加しています。それだけで十分ではないでしょうか、わざわざルシアを戦いに参加させる必要はない。そう思っての判断です。」
ココアが反論すると女の人はあからさまに苛立ちだしてココアに言う。
「では、あなたは今の現状で、〚魔法生物〛を抑えきれていると思うの!?そんなわけないじゃない!!戦いに必要な人数が足りてないのはみんな分かっていることなのよ!!例え、何も知らなくても魔法の素質さえあれば…」
そこまで言って女の人はこの数分間、会話の流れに置き去りにされている私を改めてみる。
「…見苦しいところを見せたわね…といってもあなたは私たちの会話にほとんどついてこられていないでしょう?…だから、さっき言った通りついてきてもらうの、我々〚エグリマティアス〛の本拠地に…」
「オーナー!!」
女の人が言ったことにココアは反論しようとするとそれを女の人が遮った。
「…ココア、あなたの言い分も少しは理解できる。…どちらにせよこの娘の記憶を消さないんだったら話せるところまで話しましょう。これをこの娘…ルシア…だったかしら…も望んでいるはずよ。戦いに参加するかしないかはその後。」
女の人の言葉にココアは悔しそうに眼を伏せる。
女の人が「さぁ、行きましょう。」と声をかけると同時に周りにいた人たちも歩き出す。
それに合わせてココアが私に「…ついてきて」っといって歩き始める。
歩いているのは私たちの家の周りの森のはずなんだけど、今まで見たことがない道だ。
「ココア、…これから私たちどこへ連れてかれちゃうの?」
「…大丈夫。危険なところじゃない。…今まで内緒にしてきた僕のバイト先。」
ココアは私を安心させようとしてるのかいつにもまして優しく言った後、先頭を歩いている女の人を睨みつける。
深夜の森のなかを十分ぐらい歩くと、女の人が足を止める。
そこには、もりの中にあるにしては明らかに不自然な真四角の石があった。…いや、ただの石って言うよりは〚石板〛の方が正しいかも。
女の人が左手をその石板の上に置いた。
…その瞬間、女の人が煙のように消えてしまった!!
「えっ…なんで…」
すると私たちの周りを囲んでいた人たちも次々と石板に左手を置いては姿を消していってついには私たち以外の全員がすがたを消した。
「…ココア、よくわかんないけど今だったら逃げられるんじゃ…」
「…いや、…今逃げてもどうせすぐ捕まっちゃうよ。」
ココアは悲しそうな目をした後私のてを持って石板の上に乗せた。
急にあたりが暗くなって気を失うような感覚を覚えたあと、私は明るい場所にいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
壁は銅色の金属でできていて、いろんな場所に歯車や、よくわかんない機械が取り付けられている。
…藍舞学園の体育館よりも広いかもしれない。
あれ?ここに来るまで私の隣にいたはずのココアがいない。
部屋の中にかかった橋の真ん中に仮面の女の人がいて私を見下ろしている。(女の人の横には猫耳をはやした人たちがずらりと並んでいる。)
「ようこそ、ルシア・オルゴール・ニア。ココアが私たちの本拠地〚対魔組織エグリマティアス〛よ。」
女の人がさっきまでとは打って変わった優しく親しみやすい声で話しかけてくる。
「私たち〚エグリマティアス〛はさっきあなたを襲った怪物〚魔法生物〛を退治しているの。いわば、正義の味方ってところかしら。…まぁ、あなたを襲ったのは〚魔法生物〛の中でも〚人形〛って言う厄介な類のものだけど。」
…全く言ってることが理解できない。
「…わかってもらえてないようね…。あぁ、まだ自己紹介をしてなかったわね。私の名前は〚オーナーモデル:イータ〛…まぁオーナーって呼んでちょうだい。この〚エグリマティアス〛の指揮官を務めているわ。」
女の人が仮面を外すとまるでモデルみたいにきれいな素顔が見える。
…なんでその顔で素顔を隠すのか……世の女性を煽っているのか…。
「ふふ、そういってもらえると嬉しいわ。でもこれには私なりの事情があるのよ。」
この女の人こと〚オーナー〛さんはすぐさまサッと顔に仮面をつけなおす。
……そういえば、私オーナーさんの素顔について声に出したっけ…。
「…それより、ここにあなたを招待した理由なんだけど、私たち〚エグリマティアス〛はさっき言った通り〚魔法生物〛の退治をしている。…だけど正直言って人手不足なのよ。…でも〚エグリマティアス〛のメンバーになれるのは〚魔法使い〛だけ、私やココア、そしてあなたのように。」
…今までに何回も私が魔法使い、魔法使いって言ってるけど全然実感がわかない…というか信じられない。
確かに、さっきまで起きたことは魔法がかかわっているって考えれば何となく納得できるんだけど、自分が魔法使いって言われたら話は別だ。
だって、今までに魔法なんて使えたことがないんだから。
「…そう思うのは無理もないわ。…ただ、魔法は条件が重なった時に〚覚醒〛するもので、別に生まれたときから魔法が使えるわけじゃないのよ。」
オーナーさんがまたしても私の心を読んだかのように答える。
「そうねぇ。…ココア、来なさい。」
オーナーさんが手招きをするとなぜか私の隣から消えてたココアが現れた。
…さっきは夜の森の中だったからよく見えなかったけどこの明るいところで見るとより一層ココアの頭に付いた猫耳が気になる。
「私たち魔法使いの証はそのネコ科の耳が本当の耳とは別についているってことなの。…なんでって言うのは聞かないで頂戴。話せば長くなるわ。」
…えっ。
じゃあココアやオーナーさん達についてる猫耳はカチューシャとかじゃなくて本物ってこと!?
「…てっきりココアがそういう趣味を持っているのかと…。」
「言ってくれるわね…。…じゃあココア、お願い。」
オーナーさんは苦笑いしながらココアに何かを言った。
「ルシア、こっち向いて。」
急にココアに呼ばれて振り向くと彼がすごい近距離で彼のオッドアイを合わせてくる。
私がどうすればいいのかわからずに目をそらすとココアが「逸らさないでルシア。」と言ってくる。
私は体が熱くなるのを感じる。
…これは…恋愛漫画でよくある双子恋しちゃったパターンの感じ!?
「違うわ。」
「むぇ!?」
急にオーナーさんにツッコミを入れられて私は変な声を出す。
やっぱりこの人は人の心を読めるんだ。
「…そんなことはないわ。」
…やっぱり。
「それよりまずは、これを見なさい。」
オーナーさんが手を振ると手鏡が飛んできて私はギョっとする。
私は私の前で減速した鏡を手に取って自分を見る。
…そこにはココア達みたいに猫耳をはやした私がいた。
「これで納得してもらえるとは思ってないけど、とにかくルシア。あなたは魔法使い理解できてないと思うけど理解して。」
私は頭に生えた猫耳を触る。
思っていたよりもフサフサしていて変な感じがする。
「さて、あなたが魔法使いってことを理解してもらったうえで本題に入らせていただくわ。」
この部屋のなかの空気がガラリと変わった。
「さっきも言った通り私たち〚エグリマティアス〛は人手不足なのよ。…そこで、あなたにも〚エグリマティアス〛に入団してもらいたい。…というわけ。ココアはあなたを入団させたくないらしいけど。」
「…私は……」
私は、…どうすればいいんだろう。
「…ルシア、わざわざ自分の身を危険にさらす判断はしないで…。」
ココアがどこか懇願するように言う。
確かに危険だよねよくわかんないけどあのバケモノみたいなのと戦うんだから、…でも、今までココアに、ココアだけに戦わせてきちゃったってことだよね。
なら、私もやっぱり戦うべきなのかもしれない。
もしこのまま私が入団せずにココアだけに戦わせて、万が一ココアが死んじゃったら私はずっと後悔すると思う。
…あの時から私もココアと戦っていれば…って。
「…考えがまとまったようね。じゃあ早速宣言してもらおうかしら。」
オーナーさんがまた手招きすると今度は分厚い本が飛んできた。
表紙には魔法陣みたいなものが描かれていて変な文字が書いてある。
「ルシア!!もう一回考え直して!!〚エグリマティアス〛はすごく危険なんだ!」
ココアが私に今までに見たことがない剣幕で叫んでくる。
「シッ!…入団するかしないか結局はこの娘が決めることよ。」
オーナーさんが「クルヴィ」と唱えるとまたさっきみたいにココアが首がしまったような動作をする。
顔を苦しそうに歪ませながらココアは私にまた、「考え直して」と小さな声で言う。
「さぁルシア、その本の表紙に手を置いてこう言いなさい〚オルキゾメ・ルシア・オルゴール・ニア〛と」
オーナーさんが私とココアを交互に見ながら急かしてくる。
私が入団しないならもっとココアをひどい目に合わせる。
…そんな考えが自然と頭に浮かんできた。
私は意を決し、本に手を置いてできるだけ素早くで言った。
「〚オルキゾメ・ルシア・オルゴール・ニア〛」
…あたりが白い光に包まれて私は自然と目を閉じる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私が目を開けるとココアはオーナーさんの〚クルヴィ(?)〛から解放されたらしく、涙目で息を整えている。
「…これで、今日の目的は達成ね。…さっきまでの失礼な態度、許してもらえるかしら?」
いつの間にか親しみやすい口調に戻ってる。
…もしかしたらオーナーさんもココアみたく性格が変わる病気なのかもしれない。
ふと手元を見ると本の表紙の魔法陣の真ん中に金色で変な文字が浮かんでいた。
…たぶん私の名前が変な文字で記されてるんだと思う…何語だろ?…初めて見た。
「あら…ルシア、あなたその文字を見たことがないの?ココアは歴史の授業で習ったらしいけど。」
歴史の授業?
…あっ!〚古代語〛か!!
〚旧世界〛の言葉で普通の人には全然読めないって言う…。
「…〚魔法生物〛を倒すのに〚魔法〛を使う上で〚古代語〛は切っても切り離せないものなのよ。」
つっ…つまりこれから〚古代語〛の勉強をしろと?(絶望)
「う~ん…。そこまでは言わないけどある程度はね。」
オーナーさんが私が持っている本を自分の方にひきよせながら、ニヤリと笑った(ような気がした)
周りを見渡すとさっきまでの緊張感はすっかり消え去って場の雰囲気が和んでいるような気がする
あの…シリアス展開はいったいどこへ…。
「さて、入団宣言も済んだことだし今日はもう帰っていいわよ…と言いたいところだけど、そうねぇ。あなたの〚スィドロフォス〛を紹介しておこうかしら。」
〚スィドロフォス〛?
「…なんですか?…その…それ?」
「…ルシア。」
後ろから声をかけてきたのは今日、ずっと散々な目にあっているココアだ。
泣いた後が少しかぶれたのか目の横がすこし赤くなっている。
「〚スィドロフォス〛って言うのは〚エグリマティアス〛で担当の地域を保守するチームみたいなもの」
ココアが何となくわかるように説明してくれる。
「まぁチームって言うのとちょっと違う気がするけどまぁ、そんなところね。」
…オーナーさん、違うことははっきり違うって言ってくれないとモヤモヤします。
「別にそんなに急いで理解する必要ないわ…それじゃあ早速紹介するわね。あなたがこれから担当する〚神久音市〛の〚スィドロフォス〛の仲間よ。…リゼル、ヴァズ」
オーナーさんが声を上げると部屋の中にかかった橋から二人、私とココアのもとに飛び降りてきた。
一人は小柄で白黒のパーカーと〚まだ夏〛なのに膝より上の短パン、メガネをかけたこげ茶色の髪の男の子。
もう一人は背が少し高くてツギハギだらけのボロボロの服を着た黒髪男子。
「ルシアさん…でしたっけ、これからルシアさんと一緒の〚スィドロフォス〛になる。〚リゼル・プロドスィア・ニア〛です!!これからよろしくお願いしますです!!」
変な敬語を使いって話しかけてきたのは、小柄な男の子の方だ。
まだあどけない顔をしていて…なんというか夜道を一人で歩かせちゃいけないような、そんなタイプの子だ。(危ない人に連れていかれちゃいそう)
「よろしくね!え~と、リゼル君でいいのかな。」
私の質問にリゼル君は大きく首を縦に振った。
「…同じく、同じ〚スィドロフォス〛になる〚ヴァズ・ハルヴァード・ニア〛です。…よろしくお願いします。」
黒髪男子の方はすごく不愛想。
…例えるなら…そう昼間の冷たいモードのココアレベルに不愛想。
「よっ…よろしく。…ヴァズ君で良い?」
「…ヴァズで良いです。」
…出会って数十秒で呼び捨て…
リゼル君と同じで誰にも敬語を使うタイプの人みたいだけど、リゼル君とは対照的にヴァズの方は何というかあまり会話が弾まなさそうというか…。(服装とのギャップがすごい。)
「…まぁ、そこに関しては私も同情できるわ…初めてヴァズとあった時は人にそっくりなロボットかと思ったくらいだもの。」
ふとオーナーさんが会話に入ってくる。
「まぁ、不安なことはたくさんあるでしょうけど、今日はここまで、詳しいことはまた明日から話すわ。じゃあココア、ルシアを連れて帰っていいわよ。…それと、悪かったわね。この子を入団させるため散々〚クルヴィ〛を使って。」
「………」
オーナーさんの謝罪にココアはジトーっとした目でオーナーさんを見ながら「お構いなく…。」と短く言った。
…かれこれ十数年いっしょに暮してきた仲だからわかる、これは絶対怒ってるやつだ…。
「…そうそう、一応言っておくけどルシア、あなたが魔法使いだという事…もちろん私やココアも魔法使いだということ…というか魔法使いが存在すること自体秘密よ。」
「はっ…はい!!」
オーナーさんから忠告を受けたあと、私はココアの指示に従って、森の中であっきみたような石板に左手を乗せる。
視界が暗くなっていく中オーナーさんが
「…あっ!もう一つ言っておくことがあったわね。…それ、絶対に外さないで頂戴。…まぁあなたには外せないでしょうけど、〚一応ね〛」
と私を指さしながらそれだけ言い残した。
森の中に戻されたあと、私は不意に首に違和感を感じて手で触る…とベルトみたいな手触り。
「…ココア…これって…。」
ココアが言葉が無いといった様子で目を伏せたのを私は見逃さなかった。
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