■■■■〚事件多めの朝〛■■■■

 ピピピッ   ピピピピッ     ピピピピピピピピピピピピ… 


「…んん……ん?……うるさぁ………えっ!?もうこんな時間なの!!」ガチャン


 私、は時間がたつたびに音が大きくなる優れもの(?)の〚蒸気目覚まし時計〛をすさまじい速度で、はたき止めた。  


 …でも、目覚まし時計をよく見ると時針はいつも起きる時間の四時を示してる。私は分針と時針を見間違えたらしい。…しかも 


「…あれ?………秒針が止まった。……やらかしたな、これは。」


 見間違いによる力の入れすぎで朝から目覚まし時計をぶっ壊した私、ルシア・オルゴール・ニアは「はぁ~」っと大きなため息をつきながら「…許せ…時計よ。」とつぶやき、ベッドの上で伸びをした。


「そういえば今日は学校で〚蒸気機械類墜落時〛の避難訓練があったっけ…」


 私はふと今日の予定を思い出す。


 ほんの40年ぐらい前に開発された機械〚蒸気機械類〛は地上という鎖を超えて、今や空を飛んでいる。


 空を飛ぶタイプの〚蒸気機械類〛(〚飛行性蒸気機械類〛っていうらしい)が墜落することはほぼないけどそれでも年に数回確認されてるらしいから避難訓練が必要なのはわかる。 


 …でも私の通う学校で避難訓練をやるときは決まっていつも二時間目休みの時間なんだ。…そこだけが玉に瑕というかなんというか…


 その時不意にガチャリと寝室のドアが開いて長めの白髪くせ毛の男子が入ってきた。


「ルシア、起きてる?」


 私に話しかけてきたのは青緑と青のオッドアイとが特徴の私の双子、ココア・オルゴール・ニアだ。


 全体的に整っていながらもどこか幼い顔によって学校で開かれた〚兄にしたいランキング〛で一位、〚観賞用彼氏にしたいランキング〛

〚彼女にしたい男子ランキング(圧倒的矛盾)〛で二位を取った実力者(?)なんだ。


 彼はチャームポイントである白髪のくせ毛を左手でいじりながら話を続け…ようとした。


「朝ご飯ができたから呼びに来たんだけ………」


 その瞬間彼は私の横にある動かなくなった目覚まし時計を見たのだ!!


「………ルシア、目覚まし時計の秒針が止まってるんだけど………。」


 ココアはすご~く低い声(彼なりの)で私に問いかける…これは…ヤバイ。


「いやっ…これは…そのね、あの目覚まし時計があんまりうるさく鳴るものだからつい…いやほらぁね………………………大変スミマセンデシタ!!」


 ココアはジト~っとした目で私を見た後さっきの私みたいに「はぁ~」っとため息をついて


「………〚また〛あとで直しておく。」


 やけに〚また〛の部分を強調して部屋から出て行ってしまった。


 …そう、実は私が目覚まし時計を壊すのは今回で12回目なのだ。その度にココアに直してもらっている。(そのせいで目覚まし時計クラッシャーってあだ名をつけられたこともある。)

 

 私は鏡をみてココアと同じ白髪の髪を整えた後、ココアにどんな小言をグチグチ言われるのかを考えながら部屋から出たのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 キッチンに入ると食欲をそそるいい匂いがしてくる。


「…あれ?この匂いって五目御飯!?しかもキノコ入りの!!」


 …数十年前の人が聞いたら驚くかもしれないけど今の時代、キノコは超超超希少な食材なんだ。理由についてはいろんな科学者の人が研究してるけどまだわかってないらしい。


「あぁ~それ? 朝とってきたんだ、すぐそこで。」


 私とココアの家は小さな森の中にある。そのおかげで結構珍しい食材がよく手に入るんだ。


 …っていうかキノコは毒キノコとの見分けがすごく難しいって聞いたことがあるんだけど…まぁ、ココアなら問題ないんだろう。


「ルシア、いつまでも立ってないで座ったら?…別に目覚まし時計のことはいいよ。

あれを直すのにも慣れたし。」


 すでにテーブルには五目御飯、サラダ、スープが置かれていて、ココアが私に気を使ってくれた。   …なら、


「よし、反省やめ!!早速料理をいただこう!!」


「…それはどうかと思う。…反省はして。」


 …ココアに素早くツッコミを入れられた。


「いただきます!!」


 私は五目御飯から頬張る。


「うん、めっちゃくちゃおいしいよこれ!!」


「そう?ならよかった。」


 …会話しゅーりょー。無言での食事もアレだから私は朝ご飯を食べながら話題を探すことにした。


「そういえばココアがこの前〚空中図書館〛で借りてきた〚ディファレンス・スチーム〛って言う本は面白かったの?私には全然面白そうに見えなかったんだけど…」


 〚空中図書館〛は四年前にできたその名の通り空中に浮いていて、飛行バスでしか行けないんだけど、私たちの住む地域で一番大きい図書館なんだ。(私とココアもよく通う、私はマンガしか借りないけど…)


「うん、結構面白かったよ。もし〚再生蒸気機関〛が開発されずに人類がそのまま、電気を使っていたらっていう内容をもとにした異世界小説で、発展した〚電子機械〛が登場してたり、小さいコップみたいな〚電池〛と呼ばれるパーツでいろんな電子機械を動かせるっていう内容なんだけど、災害がおきたときの電力が…………」


 …まずい…意識が遠のいてきたし頭も痛くなってきた。


 こういう時に本当に私とココアは双子なのかを疑ってしまう。


 ココアは運動はできるし料理もうまいし頭はよくて、そしてこの顔だからもうどこをとっても完璧って感じなんだけど、私は運動音痴だし料理をするとゲテモノができるし頭もよくないからココアとまるっきり正反対。


 親がいたらほんとうに双子なのかって聞くところだけど残念ながらそれもできない。


 私とココアの親は私が物心ついたころにはいなくってココアもほとんど覚えてないから私たち自身について何の情報もないんだ。


 まぁ双子が絶対似るって保証はないからね。


「ルシア?さっきから顔が暗黒だけど大丈夫?」


 …顔が暗黒…? そんな表現をされたのは初めてだ。


「…うん。大丈夫、なんでもないよ。」


 私は短く返す。


「そうそうルシア、今日は〚蒸気機械類墜落時〛の避難訓練と朝の学長の講話があるからいつもより四つ早いバスに乗るよ。」


 …マジか、学長講話もあるのか。たしかに私達の学校では週一ぐらいで学長講話が開かれる。


 それは別にいい。(学長先生の話が長いのはアレだけど)でも、学長講話はなんと朝の休み時間に開かれるのだ!!(しかも超早い時間!!)


 今日はただでさえ避難訓練で二時間目休みがつぶれるって言うのに朝の休み時間までつぶされることになるとは…


「…ってココア!!四つ早いバスって時間やばくない!?」


「………あと、15分ぐらい………かな。」


 ココアはとんでもないことを淡々と答える。


 こっからバス停まで10分はかかる。………五分で支度を済ませろと!?


 …いや、いろいろ言ってる暇はない。不幸中の幸いというかなんというか私はとっくに朝ご飯を空にしていた。ココアももう着替え終わってるし私が光のような速さで着替えれば問題は無い!!


「ココア!!私速攻で着替えてくるからカバンの支度お願い!!」


 私はそう言い残し尋常じゃない速さで自分の部屋に向かって着替えた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ギリギリ五分で着替え終わってから玄関でココアと合流した…でも、ココアは全然焦ってる様子もなく。


「…じゃあ、行くか。」


 っと言って私にカバンを渡す。

 ………もしやあと十五分でバスが来るってのは…


「ココア~?まさか私に嘘を言ったわけじゃないよねぇ?」


 私は顔を引きつらせながらココアに(超)優しく尋ねる。


「そのまさかだけど。…いつも誰かさんの準備が遅いせいで遅刻しそうになるこっち

の身にもなってほしいよ。」


 …それを言われるとぐうの音も出ない。


 それに、話を聞けば、後15分でバスが来るっていう事じゃなくて今日学長講話があるってことそのものが嘘だったらしい。


 私の死に物狂いの五分間はいったい………


 そんな私に目もくれずココアはスタスタと先に行ってしまう。


 だんだんと態度が冷たくなっていくココアを見て私は〚また〛ため息をつく。


 実はココアは〚日光性思考変換症〛にかかっていて。日光の強さで雰囲気や態度が変わっちゃうんだ。

 日が出てない時は積極的に話しかけてくるし、いつも楽しげな

〚可愛がれるタイプ(優しいモードって呼んでる)〛なんだけど、日中はこのありさまで人とのかかわりを裁った無口な奴になるんだ(こっちは冷たいモードってよんでる)。


 こうなるのは全部日光のせいだから、できれば太陽には地球の環境を変えない条件で消滅してもらいたい。(とんでもないこと言ってるな…私。)


 私たちの家がある森の中を歩いていくとだんだんとごちゃごちゃした街並みが見え

てくる。


 あれが私たちの学校のある〚アヴリオン帝国カグネ市東ブロック〛。


 〚蒸気機械類〛をたくさん製造・使用しているせいでいつもどこからか煙が立ち上っているしあちこちに意味があるのかもわからない歯車がたくさんついてる。(たくさんついてる歯車の九割は飾りだと思う)


 この町で暮らす私たちにとっては普通の光景なんだけど、ほかに国の人からはよく〚蒸気機関之世界スチーム・パンク・ワールド〛と呼ばれるんだって(ココアか

ら聞いた。)


 その街並みの中に私はいつもちょっとした疑問を持っている。


 〚カグネ市東ブロック〛の真ん中にはなぜか赤い大きなタワーが立っているんだ。


 ただの観光資源なのかなと思ってたけど、たまに科学者みたいな人達がタワーに入っていくのを見かける。


 ココアやいろんな人に何であの大きなタワーがあるのかを聞いてみたけど誰一人として理由を知らなかった。


 まぁでも、あのタワーがあって困ることなんて別になんにもないからにないから気にするだけ無駄なんだけど。


 そんなことを考えてるといつの間にかバス停についていた。バス停って言っても一昔前みたいなただの小屋じゃなくって、都会の方にあった駅みたいな形をしてるん

だ。


 何を隠そうこれをバス停って呼んでるのは四年前にここにバス停があったことを知っている私とココアぐらいで、ここの正しい名前は〚帝国立鉄道神久音市東ブロック

レグラ駅〛………つまりは駅なんだ。(だからいつも私たちがバスって呼んでるものも実は蒸気機関車。)


 …にしたって私たちからすれば家を出て森の出口に向かったら急に近代的な建物があるわけだからね。最初の時は圧倒的な違和感に全然慣れなかった。


「………バス、早く来ないかな。」


 全然しゃべらなかったココアが急にポツリとつぶやく。


 私は一応、「誰かさんのせいで、いつもより〚か・な・り〛早く来ちゃったからね。」と皮肉を込めて返しておいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 私が半分眠りながら〚蒸気機関車〛を待っていると遠くの方から


 ブオオオオォォォォオオォォォォ  ブオオオオオオ  ブオオォォ 


といった感じの音がして空に大きなクジラの影が見えた。


 よ~くみるとクジラではないソレは〚クジラ型可飛行蒸気機関車〛、クジラの形を模したアヴリオン帝国製の〚蒸気機関車〛と呼ばれる〚運搬蒸気機械類〛だ。

 〚クジラ型可飛行蒸気機関車〛(私とココアは勝手にクジラバスって呼んでる)

は少しずつ高度を下げて、着陸した。


 私やココアを含め数十人の人がクジラバスに乗り込んでいく。


 ココアは乗車して席に着くや否や早速読書を始めてしまった。


 乗客が全員クジラバスに乗り終わるとポオオオオォオォォォっと汽笛を鳴らしてその大きなひれで空気をかき分け空へゆっくりと浮上した。


 クジラバスはよくわかんないけどしっかり計算されて造られているらしく空を飛んでいるけどほとんど揺れないから、バス酔い(飛行機酔い?)になることもほとんどないんだ。


 広い、歯車と蒸気の街と雲の上を進んでいるうち、だんだんと大きな物体が見えてきた。まず目につくのは大きな時計塔、そしてその両サイドに棟が二つ付いたこの町では珍しい左右対称の建物


 …ここが私とココアが通う〚カグネ市立ライヴ学園〛。十二年制の学校で、〚初等部〛〚中等部〛〚高等部〛にわかれたこの街で一番大きな学校だ。

 

                                   

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