第358話○東横映画さんとの打ち合わせ!

 いつもだと会議室での打ち合わせなのに今日は3階の立派な応接室に通されている。何度か使ったことがあるんだけど、応接室って、ソファも高級だし、絵とかも飾ってあるんだよね。しかも太田さんだけが立ち会うんだと思っていたらアイドルセクションリーダーの米花さんまでやってきてる。今日は一体何の打ち合わせなんだろう!?


端崎「初めまして、東横映画の端崎はしざきと申します。」

大嶺「同じく東横映画の大嶺おおみねです。今日はお願いします。」

未亜「早緑美愛です。こちらこそ、よろしくお願いします。」


 応接室での打ち合わせに加えて、初めてお目にかかる制作会社の方とのご挨拶も重なって、ドギマギしながら名刺を受け取る。


太田「端崎さん、米花からは今日は何やらありがたいお話がいただけるとだけ伺っているのですが。」

端崎「はい、昨日、社内決済が降りるまで厳秘だったので、詳細をお話しできずにすみません。先に結論だけ申し上げますと早緑美愛さんに『第43代目シーサイドレディ』になっていただきたいというお話です。」

未亜「ええっ!?」


 シーサイドレディ――テレビ有明で昭和の時代から50年以上続いている『トラベル刑事デカ熱血課』というシリーズもののドラマがあり、毎年年末には5時間スペシャルがオンエアされている。エンディングは毎年必ずこのスペシャル枠専用の「シーサイドセレナーデ」という楽曲が使われていて、毎年違う人がその歌唱を担当し、ドラマへワンシーンのゲスト出演をしている。それだけであればほかにも似たようなことをしているドラマはあるのだけど、「トラベル刑事熱血課」のエンディング枠は、通称「シーサイドレディ」と呼ばれ、演技力と歌唱力の両方を兼ね備えている若手の実力派女性タレントが厳しい審査を経て選ばれていて、マルチタレントの登竜門のひとつとされているんだよね。実際にこれまで何人ものタレントさんがこの出演を契機にスターダムになっていて、大崎だと尾上おのうえ美百合みゆり曽野その文那ふみなさんとかがここで注目を集めてスターダムになっていったんだけど、まさか、それに私が選ばれるなんて!


太田「やはりそうでしたか。」

端崎「太田さんは想定されていましたか。」

太田「この時期で東横さんですからまあそうかな、と。」

大嶺「さすがです。まあ、厳秘とはいってもご存じの通り、御社の担当部門長である米花様と早緑さんの所属レーベルであるブラジリアの澤島本部長には事前に内諾はいただいております。」

米花「はい、確かに。」

太田「なるほど、シーサイドレディでしたらそういう対応ですよね。」


 太田さんがそういうことならそうなんだろうなあ。


太田「ちなみに早緑を選んでいただいた選出理由などを伺ってもよろしいですか?」

端崎「もちろんです。決め手は声優としての演技を拝聴していてのポテンシャルですね。」

大嶺「声の演技がしっかりできる方はドラマに出ていただいても遜色ないというのは以前からある程度判っていたことではあるのですが、ここ数年、その辺の垣根がないくらいの状況になっていまして、NKHさんの大型時代劇や朝の連続ミニドラマでも欠かせない存在になっています。」

米花「確かに声優さんのドラマ出演はこのところ増えてますね。」

端崎「そうなんです。それで一昨年から声優としての活動も演技力評価の対象へ入れています。早緑さんの演技は、本当に幅広くて、選考に当たって確認した作品はそれぞれ全く違う特色を持つ役どころなのにどれもしっかりと演じ分けられていたのが印象的でした。」

大嶺「しかも今回ドルプロも決まったとのことで演技力評価は最後の一押しをもらった感じでした。歌唱力評価は紅白出場歌手という折り紙付き、昨日の最終選考は満場一致でしたよ。」


 声優としてのお仕事がまさかドラマにつながるなんて!嬉しいなあ。


端崎「ということなのですが、早緑さん、お引き受けいただけますでしょうか?」

太田「美愛、どう?」

未亜「はい!光栄です!よろしくお願いいたします!」

端崎「ありがとうございます。」

大嶺「それでは、出演いただけるということで話を進めさせてください。収録タイミングなのですが、10月でどこか1日を開けていただきたいと考えています。事前の米花様との調整で、早緑さんもかなりお忙しい時期と伺っておりまして、候補日をいただけますと幸いです。」

太田「ありがとうございます。別途調整の上、ご連絡いたします。」

大嶺「それとこちらが企画書です。台本はまだ制作中なので、いったんこちらで今回のストーリーや流れ、役どころをご確認下さい。表紙にもありますように宮崎と東京がメインのドラマとなりまして、早緑さんには宮崎でのロケをお願いすることになります。」

太田「承知しました。」


 いただいた企画書の表紙には「トラベル刑事熱血課年末スペシャル『日南海岸に消えた男』」と書かれている。「シーサイドレディ枠」と書かれた役どころは喫茶店の看板店員ということみたい。読んでいる間に細々こまごました話をして打ち合わせは終わった。エレベーターで端崎さんと大嶺さんをお見送り。そのまま別の打ち合わせへ出る米花さんとわかれ、太田さんのデスクへと戻る。太田さんが華菜恵に概要を話したら華菜恵もシーサイドレディは知っていたようで拍手された。


華菜恵「みあっち、すごい!」

太田「本当よねえ。ランは私が担当外れてから女優としての活動を本格的にはじめたんだけど、シーサイドレディの対象外だったのよね。」

未亜「シーサイドレディってそんな対象みたいなのがあるんですね。」

太田「うん。デビュー5年以内というのが暗黙の制限ね。」

未亜「そうなんですね。」

太田「それにしても華菜恵がまさかシーサイドレディを知っているとは思わなかったわ。」

華菜恵「父がトラベル刑事の大ファンで、スペシャルはもちろん、普段のドラマも欠かさず見てるんです。」

太田「なるほどね。」

未亜「年末のトラベル刑事スペシャル、年始のキュート刑事けいじスペシャル、どっちも毎年すごい新人女優さんやシンガー、アイドルが出ているのでまさか私が選ばれるなんて、びっくりしました。」

太田「ドラマの営業も掛けていたんだけどね。なかなかオーディションに行き着かなかったけど、これで流れが変わるかもね。」

未亜「瑠乃はいろいろなオーディション受けているみたいなので、私はなんでかなあ、と思ってたんですけど、私の演技力評価はオーディションも受けられない感じだったんですね……。」

太田「あー、違う違う。演技力の問題じゃないわ。瑠乃は世の中的にはまだ知名度がないからそれこそエキストラでも問題なくオーディション受けられるのよ。美愛は、世間的な知名度が高いからさすがにエキストラというわけにはいかないの。少なくともドラマの公式サイトで人物相関図に出るくらいの役じゃないと今後の活動に影響が出るから。」

未亜「そういうことだったんですね。」

太田「そういう役どころってほとんど指名オーディションだからなかなかお話がないのよ。でもよかったわ。頑張りましょうね。」

未亜「はい!」


 いよいよ本格的に女優デビューだ!うれしい、早く圭司に伝えたいな!!

 そのあとの始球式はワンバウンドで無事に終了!大歓声でそれも嬉しかった。始球式もまた機会があったらやってみたい!今度はノーバンで!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る