第357話●アニメの二期制作会見へ出席

 今日はせまじょのアニメ二期に関する詳細を発表する会見がある。せまじょのアニメを担当されている岡田プロデューサーから太田さん経由で「収録でも良いので一言欲しい」という打診があって、それなら当日顔を出しますよ、というところから太田さんがノリノリになった結果、話がトントン拍子に進んで、バーチャルライバーのアバターを使用して参加をすることになった次第。

 今日は、二期発表のほかにブルーレイの発売が10月1日に決まったという発表も行われる。一般的なアニメに関してはあまり詳しくないのだけど、岡田さんによると最近のアニメはブルーレイの発売が前提になっていることが多いそうで、本来はオンエア終了からそんなに間を空けずに発売されるのだとか。岡田さんが担当しているほかのアニメでは、最終回の最速オンエアを済ませたばかりの当日10時からブルーレイの発売を開始したケースもあったというからすごい。せまじょは、オーディオブックの発売がオンエア前に決まっていたことなどもあり、話題が尽きない状況が続くことがわかっていたので、あえて二期が始まる少し前に発売するスケジュールとした、という話だった。こういうのって企業戦略みたいな話で面白いよね。


 地下の駐車場で華菜恵さんが来るのを待っている未亜に見送られ、4階の大崎ホールへ向かう。大崎がアニメの制作委員会に参加したこともあって、今回は大崎ホールを使うんだって。せまじょというコンテンツは商売になりそうだと大崎が思っているから所属作家以上の関わりを持つべく出資という形で深く関わることにしたんだろうけど、商売としての損得も考えた上で、俺や仲間たちのあれこれに対して対処してくれているというのが透けて見えて、むしろ安心なんだよなあ。だって、こちらが倫理的に問題のあることさえしなければ、大崎へ利益をちゃんと返していくことで、何かあっても引き続き全面的なバックアップをしてくれるということだからね。資本主義だもの、こういうのは大切。


 大崎ホールのある4階でエレベーターを降りると目の前に見たことのない黒い幕が!びっくりしていると声がかかる。


「あっ、先生こちらです。」


 待ち構えていたのはアニメの広報宣伝を担当されているブラジリアの久志くしさん。以前もらった名刺には「映像制作本部アニメーション制作部広報宣伝チーム」という肩書きが書かれていた。物腰がとても柔らかな女性なのだけど、仕事にはとても厳しい、と岡田さんから聞いている。ちなみに岡田さんの名刺には「映像制作本部アニメーション制作部主任プロデューサー」と書いてあった。

 誘導されて入ったのは大会議室。前に未亜が配信をしていた所だけど、もう1年以上前なんだよなあ。時が経つのは早い。大会議室は机が並べられて、いろいろな人が仕事をしているのがよく判る。


圭司「久志さん、皆さんはいまなにをされているんですか?」

久志「会見の前に最終調整ですね。映像や台本の最終チェック、ウェブサイトの公開時間の設定確認なんかも含めて多岐にわたります。配信の送り出しを担当されている大崎エンタさんもいらっしゃいますよ。」

圭司「すごいですね……。」


 自分が書いている作品のアニメ会見でここまで人がたくさん動いてくれていることを目の当たりにすると改めて気合いが入るな。

 楽屋となる仮設ブースも大会議室の中に設営されていて、そちらへ誘導される。仮設とはいっても割とちゃんとしたパーテーションで区切られた部屋だね。久志さんから最終確定版の台本を受け取り、楽屋へ入った途端、早速ノックをする音がする。


岡田「先生、岡田です。」

圭司「どうぞ、開いています。」

岡田「失礼します。……先生、今日はありがとうございます。」

圭司「いえいえ、せっかく声出し解禁したので、こちらこそありがたかったです。」

岡田「そういっていただけると助かります。登壇者の楽屋入りはギリギリの予定なので10時半からのリハで改めて紹介させて下さい。」

圭司「判りました。」

岡田「あと、先生にはもう話して良いということなのでお伝えしておくとヤン聖の製作委員会主幹はせまじょと同じく弊社が担当することになりました。」

圭司「おおっ!そうなんですね!」

岡田「はい、参加社が最終確定次第、大崎さんからあらためて連絡があると思います。」

圭司「ありがとうございます。楽しみにしています。」

岡田「では、また後ほど。」


 そういうと岡田さんは楽屋をあとにした。わざわざプロデューサーに来てもらうなんて原作者としては本当にありがたいよなあ。ヤン聖のアニメ化も着々と進んでいるみたいで楽しみ。


 岡田さんが辞去された後、ふとスマホを見ると太田さんからご主人が寝込んでいるので午後は自宅からリモート作業とのメッセージがTlackへ来ていた。ありゃ、太田さんも心配だろうなあ。ご主人にはお体をお大事になさってほしい。


 スマホをおいて、台本をチェックしたのち、「雨東さん家のご飯」の校正上がりを確認していたらリハーサルという声がかかる。もう10時半か、早いな。


今日華「先生、おはようございます!今季もよろしくお願いします!」


 楽屋を出たところで声を掛けてきたのは駒元さん。ちょうど楽屋を出たところだったらしい。


圭司「こちらこそ、よろしくお願いします。今シーズンのオリーブも楽しみにしています。」

今日華「ありがとうございます!」


 スタッフに誘導されつつ、駒元さんと話をしながら大崎ホールへと向かう。


久志「おはようございます!駒元さんは壇上0番へそのままお願いします。雨東先生は壇上脇ブースへお願いします。」


 ブースに入って、椅子に座ると目の前にモニタが3台設置されている。それぞれ「生映像」「配信映像」「舞台映像」と書かれている。「舞台映像」には舞台上から客席側を見ている映像が流れてるんだな。スタッフの方と話をしながらポップガード付きのマイクの位置を調整していると次々と偉そうな感じの人たちが壇上へやってくる。いよいよかな、と緊張しながら待っているとマイクを手にした久志さんが客席側からステージを見上げる形で話を始める。


久志「皆様、おはようございます。本日の進行を担当いたしますブラジリアの久志です。改めて本日はよろしくお願いいたします。まず本日の登壇者をご紹介しますが、時間の関係で一言は無しにてお願いします。上手かみてからKAKUKAWA第一出版事業部の小西部長、日本BSテレビジョンアニメビジネス局の森迫局長、ジャパンテレビアニメ制作局の松田局長、オクダイナンコエンターテインメント制作本部の木下本部長、センター位置にオリーブ役キャストの駒元様、カメラ位置を一つ開けまして大崎エージェンシー経営企画部新規事業開発室の村木室長、大崎エンタテインメント事業推進本部の深尾本部長、弊社映像制作本部アニメーション制作部岡田、下手しもてはしがMCをご担当いただく枩沢まつざわ智秋ちあき様になります。本日あちらのブースには原作者の雨東先生にお越しいただいております。先生には声のみで参加いただくのですが、いまカメラを設置してある場所に先生のアバターを合成して配信などへ送出する予定です。」


 バーチャルライバーのアバターが本当に大活躍だなあ。技術の進歩なのだろうけど、すごい。ちなみに枩沢さんは、大崎のアナウンサー気象予報士セクションに所属しているベテランのフリーアナウンサーで、アニメやゲームなどの所謂サブカルチャーに造詣の深い方。前回は別の方がMCだったからこのへんにも大崎が出資したことへの配慮があるよね。

 久志さんは続けて、今日の段取りなどを説明してくれる。コンセプトや各社のアニメに関する思いなどを発表するということで淡々と段取りの説明がある。俺は後半のフリーセッションでようやく出番があるらしい。そこまで大変だけど乗り切らないとな。さて、11時まで赤入れと格闘していますかね。

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