第350話●大渡さんとの食事会での発見
無事に契約が自動更新されたという連絡がTlackのDMで太田さんから届いたのを確認しながら心療内科へやってきた。既に月一回になっていたのだけど、次の予約はついに半年後となった。あれからまだたった一年なのにここまで来られたのは未亜とみんなのおかげだよな。本当にありがたい。実はこの経験をエッセイとかで活かしていくのもいいんじゃないかって最近思っている。同じような苦しみの渦中にいる人へ向けて、文章という形で残せるのは作家の特権であり、義務でもあるって思うんだよね。いまはまだぼんやりとした構想だからきちんとした形にしたら未亜と太田さんにも相談してみよう。
心療内科のあとは渋谷へと移動している。今日は19時から紗和さんが主催する大渡さんとの食事会があるのだ。同じく今日からスタートしたコラボカフェの一日店長に向けて、現地の様子確認と最終的な打ち合わせをしてくる未亜とは現地で待ち合わせなのだけど、今日行くレストランは大渡さんの指定とのことで、どんな店なのかとても楽しみ。本当は明貴子さんと慧一も来る予定だったんだけど、慧一は歌い手復帰へ向けた極秘(!)プロジェクトが進行中で急遽参加不能、明貴子さんも急遽出版社との打ち合わせが入ってしまって、来られなくなってしまった。まあ、また機会もあるだろうということで、今日は四人での食事会となる。
圭司「待った?」
未亜「私もいま来たところだよ。」
圭司「なんかこんな感じで待ち合わせするのも新鮮だな。」
未亜「本当だよね!」
圭司「たまにはこういうのもいいかもしれない。」
未亜「そだね!」
未亜とそんな会話をしながら神泉駅のほど近くにある「ひゅうがや」という宮崎料理のお店の近くで少し待っていると大渡さんと紗和さんが一緒に……えっ、二人で一緒?!待ち合わせの前にもうあってるってこと!?
大渡「すみません、お待たせしました。」
圭司「いえいえ、今日はよろしくお願いします。」
お店に入ると店員さんは特に名前も確認することなく、スムーズに個室へ誘導してくれる。おお、大渡さん、この店の常連さんか!個室に入るとメニューがない。あれ、注文はどうすれば、と思っていたら大渡さんが早速説明をしてくれる。
大渡「今日はもうコースを頼んであるので、楽しみにしていてください。飲み物のメニューはこのあと持ってきてくれます。」
圭司「すごいですね、常連さんっていう感じです。」
大渡「ここ、料理がとても美味しくてリーズナブルなんです。」
紗和「私も何度か連れてきてもらったんだけど、8品に飲み放題が付いて5000円だからね。すごいよ。」
未亜「ほへー!それはリーズナブルだね。」
大渡さんってすごい活躍していてヒット曲を何本も書いているから相当稼いでいるだろうけど、こういう庶民的なところはうちらと変わらないんだなあ。なんか親近感を持つ。
大渡「それじゃあ、乾杯!」
圭司・未亜・紗和「「「乾杯!」」」
大渡さんの発声で食事をはじめる。大渡さんは既に成人になっているので、宮崎のいも焼酎を頼んでいる。
大渡「いやあ、実は前々からお二人とはお話ししてみたかったんですよ。甘巻さんからお二人のお話はお伺いしていたんですけどね。」
圭司「光栄です。」
未亜「あっ、大渡さんに本名教えていたんだね。」
紗和「あれ?話してなかったっけ?」
未亜「うん、聴いてなかった。」
紗和「6月に
未亜「そうだったんだね!」
大渡「まあ、筆名はこの世界、結構ありますからそんなに驚きもなかったです。」
圭司「確かに。私も筆名ですから。雨東なんて名字はもちろん、晴西なんて名前はなかなかないです。大渡さんは本名ですよね?」
大渡「はい、私は本名でやっています。両親が本名で活動しているのでペンネームにするのもおかしいですからね。」
圭司「本名で活動できるならそれはそれでありですよね。」
未亜「うん、そう思う。」
その後も和気藹々と会話が進む。去年の学祭で講演会を現地観覧していたという話には大渡さんも驚いて、照れていらっしゃった。まあ、まさかべた褒めした本人が目の前で聴いているなんて思わないもんね。
会話をしていてよく判ったんだけど、紗和さん、我々仲間内と同じくらい大渡さんにかなり信頼を寄せているんだなあ。この短期間にすごい。そして、なんか違和感があるなあ、と思ったのは、たまに目線が合うと二人ともさっとずらしたり、醤油を取ろうとして同時に手が出て触れたらさっと引っ込めて二人して赤くなっていたり、なんかラブコメみたいなことをしている。これ、朋夏さんと慧一が付き合うみたいな雰囲気だぞ!?それと考えてみれば、N管の定期公演に二人で行くって、それってもはやデートだよね!?もしや……。あとで、未亜にも確認してみよう。未亜も結構鋭いからなんとなく気がついているような気がするんだよね。
宮崎料理のフルコースを美味しく食べ、大渡さんが全部払うという所を押しとどめて、2分割の割り勘にしてもらう。大渡さん、紗和さんの分は普通に出すつもりでいたみたいだから、やっぱりそうだよなあ、という確信がますます深くなる。
店を出て、道玄坂のところで、もう一軒行く(!)という二人と別れて、タクシーを捉まえて帰途につく。
未亜「ねえ、なんかあの二人、すごくいい感じじゃなかった?」
圭司「あっ、やっぱり未亜もそう感じた?まだ付き合ってはいない感じだけど、なんか、両片思いって感じだよね。」
未亜「男性恐怖症だった紗和がそこまでになれたんだね。」
圭司「過去のことはまだ話していないみたいだけど、そこがもしかしたらネックなのかも。」
未亜「あー、そうかもしれない。」
圭司「何か相談があるとしたら未亜に来そう。」
未亜「うん。もし来たらいい感じにアドバイスするよ。」
圭司「俺も手伝えそうならそうする。」
未亜「お願い!」
紗和さんもついに誰かに恋出来るようになったんだなあ。なんかすごく嬉しい。できる限り、応援しよう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます