第344話●志満さんの漫画家デビュー!

志満「いやあ、打ち合わせって慣れないなあ。」

圭司「まあ、そのうち慣れると思うよ。」

志満「うん、もみーにも応援されたし、そうならなきゃだもんね!」


 驚きの続いた二日間が去り、そしてあっという間に決まってしまった安比旅行二回目決定の翌日、未亜は「明貴子と瑠乃の親友たちに会えるのも楽しみだよね!」とニコニコ顔で朝早くにバラエティ番組のロケへ出かけていった。夕方からドルプロライブへ向けたレッスンが入っているので今日は帰りが遅くなる。俺のほうは、午後からKAKUKAWAで打ち合わせ。なんと相手はよろしま先生こと志満さん!


 以前から水面下で進んでいた志満さんの漫画家デビュー作戦だけど、実は明貴子さんの偽報道問題の裏で少しずつ進展していた。なぜ俺が知っているかというと8月8日、未亜が東鉄ホテルさんの全国ロケで出発したその日の午後、恒例となったせまじょ第5巻のサイン本プレゼント企画対応のため、KAKUKAWAへサインを書きに訪問したときのこと。


白子「実は朱鷺野先生の『隣のクラスの黒田くんに告白させる100通りのやり方』のコミカライズが決まったんです。」

圭司「おおっ!」

白子「昨日、弊社サイトでコミカライズする旨のみ、告知したんですが、朱鷺野先生から見せていただいたラフの漫画が素晴らしい出来だったと文芸事業部の担当者が喜んでましてね。実績がない方だったので、社内調整に手間取りましたが、ここまでたどり着いたそうです。」

圭司「あっ、ということは……。」

白子「はい、先生も棟居先生とはお知り合いだとか。」

圭司「そうなんです。大学の親友でして。」

白子「やはりそうだったんですね。」

圭司「でも、これって守秘義務のありそうな話のような気がするのですが、なにで私に?」

白子「ああ、肝心の本題を話してませんでした。なんでもせまじょのコミカライズを桜内先生のところで実質的にとりまとめていたのが棟居先生だと伺いまして。」

圭司「ああ、そうみたいです。桜内先生は自分の作品で割と手一杯だったみたいで、ストーリー構成と大まかなラフ画は棟居さんの方でまとめていた、と聞きました。」

白子「私もそれを伺って驚いたのですが、それならば、ということで、ヤン聖のコミカライズを棟居先生に手がけていただくということで正式に決まりました。」

圭司「えっ!?」


これは二重の驚きだ!


白子「コミカライズ自体は以前お話ししたように社内で動いていたんですけど、せまじょのアニメにぶつける形でヤン聖のコミカライズも出したいという話が編集部内で盛り上がりまして、今朝方、決済が下りたんです。」

圭司「なるほど、そういうことでしたか。」

白子「こちらとしてはもともとせまじょで活躍していた人を文芸事業部にだけ持って行かれるのもいやなので、こちらも発注して押さえることになったなんていう話もありますけどね。」


 あっ、これって社内派閥ってヤツだな!?


白子「桜内先生の漫画も好調なようですし、帯屋先生もいらっしゃって、あと詳細はまだいえないんですが、ほかもあるので、それも含めるとチェリーブロッサムズさんはだいぶすごい漫画家イラストレーター事務所になりますよ。」

圭司「本当ですね。」


 もしかして志満さん以外のアシスタントさんもデビューが決まったのかもしれないけどさすがに詳細はツッコめなかった。KAKUKAWAさん自体としては、藝秋砲の藝学秋日社がその辺を見過ごすことはまずないだろうという安心感から朱鷺野先生の盗作疑惑は飛ばしという判断だそうで、表向きはいったんいろいろな動きを止めているもののコミカライズにむけた志満さんの漫画家としての契約事務手続きなんかはヤン聖のほうを隠れ蓑にして順調に進んでいった。藝秋砲のおかげで疑惑が晴れたあとは、両方が並行して動くようになり、ついに志満さんの漫画家デビューが正式に決まった!ペンネームはサークル名から取って「よろしま」だそうだ。ちなみにせまじょのコミカライズはいまから名義変更は無理ということで残念ながらそのまま。ただ、次回刊行分からは「原作:雨東晴西、作画:桜内碧、協力:よろしま」という表記がされることになった。


 今日の打ち合わせはコミカライズの方向性の確認と単行本化の範囲確認ということで、すんなり終わる。次はサイン会のあとに導入部分に関しての流れをラフを元に確認することとなった。

 志満さんとはなかなかゆっくり話したことがないなあ、と思っていたら志満さんも同じことを考えていたようで、KAKUKAWAの本社近くにある個室の付いた喫茶店で少し話をすることにした。未亜にTlackDMしたらたまたま休憩中だったらしく、


 早緑美愛 15:44

 りょ!志満とゆっくり話してきてね!


との返信が届いた。未亜は本当に理解があるから助かるよ。喫茶店に入り、ホットコーヒーが届くとおもむろに話し始める。


圭司「志満さんもいよいよデビューだなあ。」

志満「なんか緊張するよね。」

圭司「紅葉さんにいろいろと聞くといいかもよ。」

志満「もう、いろいろ相談しちゃってるよー!実はもう一人デビューが決まってね、新規デビューの二人で二人に相談しまくり!」

圭司「おお、もう一人そういう人がいるんだね!」

志満「うん。そのうえ、既存のコミカライズとかイラストとかの仕事も結構あるからなかなか大変なことになりそう。」

圭司「なるほどなあ。いまこそ大崎の出番だな。」

志満「ほんとほんと。事務処理を丸投げできるのは大きいよー。交渉ごともやらなくて良くなったもんね。おかげでもみー、もう一本オリジナル作品の連載出来るようになったもん。」

圭司「連載二本かあ、それは売れっ子だな。」

志満「すごいよねー。やっぱり才能あるんだよ。なにしろもみー名義のコミカライズも一時期5本くらいやっていたからね。せまじょ以外は単行本1冊のコミカライズだったからもう終わったけど、グッズの展開はまだ続いているなあ。」

圭司「やっぱりグッズとかが上手く回り出すとけっこういいフィーがもらえるよな。」

志満「うん、大崎にマネージメント料出しても十分いい感じの収入になるね。」

圭司「俺もそれでだいぶ助けられているよ。」

志満「もみーは本当にすごいからね。」

圭司「たしかに。でも、いよいよデビューだし、志満さんも頑張らないとだね。」

志満「うん、どうも私は0から1を作るのはいまいちだけど、1を10にするのは得意みたいだからコミカライズをバンバン書いていこうと思っているよ!」

圭司「俺は応援することしか出来ないけど、せまじょにしてもヤン聖にしても困ったらいつでも相談してね。」

志満「うん、お願いすることもあるかも!」


 志満さんの絵は本当に素敵だし、物語アレンジも上手いからいい方向に進められるように協力していかないとな!

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