第346話○掛札亜香音として受け入れてもらえるのか

 声出し部屋でストレッチなんかを済ませて戻ってくるとななかさんも到着していた。今日華さんを紹介しようと思ったら、既に二人で仲良く話をされている。ななかさんにご挨拶したら既に何度か共演されていて、面識があったんだと教えてくれた。そのやりとりを聞いていた今日華さんが笑顔で話し始める。


今日華「今日、私、ソロ曲と全体曲しかなくて、他の人とあわせる必要がないから、三人でウォーミングアップしよう!」

未亜「えっ、いいんですか?」

今日華「もちろん!二人がどんな感じでやっているのは勉強したいからちょうどいいんだよね!」

ななか「私も今日華さんの準備方法を勉強させて欲しいな!」

未亜「じゃあ、皆さんでいつもどうしているか話しながら進めたいですね。」

今日華「美愛ちゃん、それいいね!ななかちゃんもいいよね?」

ななか「もちろん!」


 ななかさんは小学生の頃からこんプロのメンバーとして活躍していたので、芸歴だけみると圧倒的にななかさんの方が長いのだけど、声優として本格的に活動をはじめたのは今日華さんよりもあとということで、同期と変わらないような砕けた感じになっているんだって。事務所によって芸歴絶対主義だったりするから、お二人の所属している事務所はどちらも自由度が高いのかもね。ちなみにななかさんより今日華さんの方が年齢は二つ上。


 そうこうしている間にも時間は過ぎていく。皆さんと一緒のアイドル衣装に着替え、前打ち合わせからリハへと進み、ケータリングをもらって、いよいよ本番が近づいてくる!


仲町「17回目のアニバーサリーライブ、千秋楽です。今日は5人の新しい仲間も加わります。最後までプロデューサーさんとファンのみんなのために全力を尽くしましょう!いくよーーーーー!ドルプロ、ファイトーーーーー!」

全員『オーーーーー!』


 ライブ前には仲町さんのあいさつからのかけ声で全員並んでの円陣!資料映像で事前に見せてもらっていたから知っていたけど、実際にキャストとして加わるとすごい高揚するね!


 円陣のすぐあと、いよいよライブがスタートした!最初は通称「歌ドル」と呼ばれている、その名も「アイドルプロデューサー」という表題曲からスタート。会場のプロデューサー、もとい亜香音流に呼ぶとプロプロたちのコールが会場中に響いている。私の出番はアンコールのあとなので、基本はバックステージで待機になる。ななかさんは精神を研ぎ澄ませたいのか、声出し部屋にこもっているので、私は一人で楽屋にいて、皆さんのパフォーマンスをモニタを通じて見させていただいている。キャストさんたちは入れ替わり立ち替わりパフォーマンスをしていて、本当にレベルが高い。自分が演じるアイドルを担当しているプロプロにベストパフォーマンスを見せたいという気持ちが伝わってくる。そのおかげかすごく騒がしいのだけど、空気はピンと張り詰めていて、とても清冽。私の感覚もどんどん研ぎ澄まされていく。あっという間にアンコール前の全体曲まで終わって、さあいよいよだ! 


スタッフ「早緑さん、下手裏の朗読ブースまでお願いします。」

未亜「はい!」


 スタッフさんの案内でブースに着くとななかさんたちは既にスタンバイしていた。アンコールのあと流れていた告知映像が終わり、目の前のスタッフさんが指を折り曲げて数を示してくれる。0になって朗読劇がスタート、5人ともとちることもなく、無事に5分くらいの朗読劇が終わった。会場のどよめきはどういうどよめきなのだろう……。少し心配になるけど、いよいよ仲町さんの呼び込みで入場して自己紹介、あとは最後の全力を見せるだけ!


今西「えりちゃん、朗読劇すごかったね!」

仲町「本当にすごかった!じゃあそのすごかった五人に早速入ってもらおう!みんなー、おいでー!」


 すごい歓声の中、私が最後に下手からステージへ上がると歓声だけでなく、ものすごいどよめきの声が上がりはじめた。ええっ、これはどういうどよめき!?ちょっと心配になりつつもあっという間に自己紹介の出番が回ってきたので、いまの全力で表現するぞ!


未亜「プロプロー!またせたねー!キューティビューティな亜香音ちゃんがついに与野ウルトラアリーナへ参上したよ!」

観客「ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

未亜「はい!掛札亜香音役を務めさせていただくこととなりました早緑美愛ともうします!プロプロのみんなー!よろしくねー!」

観客「わああああああああああああああああああああああああ!!!」


 すごい大歓声!嬉しい!


仲町「すごい歓声だね。」

今西「本当だよ。」

仲町「いやあ、私のパフォーマンスにみんな見とれたかあ!」

今西「えーりーこー!あんたじゃないよ!」

仲町「えー!いまにしさーん、ひーどーいー!」

今西「ひーどーいー、じゃないの!それにしても今年のドルプロはどうしちゃったのかね?これがデビュー作のメンバーから声優大賞助演女優に紅白歌手まで、勢揃いだよ。」

仲町「しかもみんなすごかった!」

今西「新しい仲間も加わって、ますます頑張っていくからね!」

仲町「そうだね!プロデューサーさん!新たな仲間にもう一回大きな拍手を!」


 すごい!割れんばかりの拍手!


仲町「それじゃあ、最後の曲いっちゃう?」

今西「いっちゃおう!曲名コール行くよ!せーの!」

全員『ありがとう!シンデレラ!』


 初めての歌唱もなんとか上手くいった!MCを務める仲町さんと今西さんの軽妙なトークのおかげで大盛り上がりのまま、大団円となった。


 楽屋に戻り、着替えを済ませてしまって、白湯をいただいていると太田さんが楽屋へやってきたので、準備の整った彩春、彩春の付き添いをしていた磨奈と一緒に皆さんへご挨拶をしつつ、地下駐車場から社用車に乗り込もうとすると圭司のほかに紗和がいる!?ドアを閉めた途端、圭司が興奮してスマホを見せてくれる。


圭司「お疲れ様!未亜、すごいよ!みてこれ!」


 表示されていたのは今日のライブの感想ツイストを「亜香音」で絞り込んだもの。批判が一つも見つからない、びっくりするような大絶賛の嵐だった!


彩春「未亜、おめでとう!私の感想は大げさじゃなかったでしょ?」

未亜「本当だね!彩春がいろいろとアドバイスしてくれたからだよ!」

彩春「いやいや、これは未亜の努力の結果だよ。」

未亜「そうかな?」

圭司「彩春さんがそういうならそうだよ。」

未亜「そか!嬉しいな!」


 とても嬉しくなってニコニコしていたら前の席から紗和が話しかけてくる。


紗和「招待されて関係者席から見ていたら、いきなり未亜が出てくるんだもん、びっくりしたよ!」

未亜「出てくるまで気がつかなかった?」

紗和「セリフを聞いただけでは判らなかったよ。すごいね、普通に声優さんだよ!」

未亜「そういってもらえると嬉しいなあ!」

紗和「私の作ったドルライ3周年記念曲と属性全体曲がどんな感じになるのかも楽しみ!」

未亜「楽しみにしていてね!」


 まずはプロプロのみんなに受け入れてもらえた!亜香音と一緒にどこまでも歩んでいくぞ!

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