第347話●早緑美愛公式チャンネル定期配信第十回前半戦

 ドルプロの興奮冷めやらぬまま、翌日である今日は定期配信の日となる。朝からテレビのロケに出かけていた未亜と事務所の20階で合流したのは18時少し前。お弁当を食べながら一緒に台本をチェック。今日は台本もドルプロの話がメインになっていて……ええっ!?未亜と二人で顔を見合わせる。


未亜「太田さん、今日、ゲストにななかさんと彩春が出るんですか!?」

太田「そうよ。スケジュールでオクダイナンコさんの無理を聞いてあげた代わりにもともと今日の定期配信でドルプロに関する話をする許諾をもらっていたの。」

圭司「それっていつくらいですか?」

太田「えーと、初顔合わせの少しあとだから7月の頭くらいだったかな?」

未亜「ええっ!?そんな前から!?」


 太田さん、本当に仕込みがすごいって。


未亜「人選もちゃんと狙ってますよね?」

未亜「私はあまり詳しくないんだけど、今日の配信へ岡里さんに出てもらう依頼を大石くんにしたら、どうせなら二人じゃなくて続橋さんも含めた三人がいいですよっていっていたから。ドルプロで有名なユニットなんでしょ?」

圭司「そこは大石さんの提案だったんですね。」

太田「うん、二人ともいまものすごい忙しいから調整はギリギリになっちゃって、ようやく一昨日確定したんだけどね。」


 確かに忙しい二人だもんなあ。


太田「もうすぐ二人とも来るからM02の副調整室で読み合わせよろしくね。」

圭司・未亜「「わかりました!」」


 お弁当を食べ終わったタイミングでM02へ呼ばれて移動する。 M02には、彩春さんといつもの配信スタッフの皆さん、太田さん、大石さんに加えて見慣れない方が同席されている。もしかしてあの方が。


太田「続橋さんはいまこちらへ向かっていて、あと5分くらいで来るから少し待っていてね。」

圭司・未亜「「わかりました。」」

太田「その前に大石くんが二人に紹介したいからって、ちょっと早めに来てもらったの。」

大石「二人は多分初めてですよね。紹介します、饒波のば嘉貴よしたかくんです。」

饒波「初めまして、饒波嘉貴です。よろしくお願いします。」

圭司・未亜「「よろしくおねがいします!」」

彩春「あっ、初めてだったんだ。」

未亜「うん、いままでお目にかかったことはなかったかな。」

大石「彼は元々別のマネージャの下でアシスタントマネージャをしていたんですが、いろいろあって、私の所へ来ることになりました。声優のマネージメントは1年の経験があるんですけど、バーチャルライバーに加えて絵師に漫画家といままでと毛色の違うマネージメント業務が加わったので、デスクワークとあいさつ回りをメインにしてもらっていました。だいぶ慣れてきたので、9月からはどんどん外に出てもらいます。お二人ともご一緒する機会があると思うので、よろしくお願いします。」

饒波「引き続き、よろしくお願いします。」

圭司・未亜「「こちらこそ、よろしくおねがいします!」」


 大石さんがそう説明した直後に続橋さんがやってきた。


ななか「おはようございます!」

圭司・未亜・彩春「「「おはようございます!」」」

ななか「さすが大崎さんですね。ビルがとても大きいです。」

彩春「ななかさんってこのビル初めてだったんですね。」

ななか「うん、だって、ここで何かを収録することなんてないもの。」

未亜「確かに!」

太田「じゃあ、台本の読み合わせしましょうか。」

圭司・未亜・彩春・ななか「「「「はい!」」」」


 太田さんの段取りで進んでいく。考えてみるとこの配信って基本的にプロデューサー的な役割を太田さんがしているんだなあ。面白い。台本の読み合わせが終わるとしばらく自由時間。とりあえずお手洗いを済ませて戻ってくると彩春さんと未亜が続橋さんへスタジオを説明しているところだった。


ななか「眺めがすごいいいね!あのビル群は渋谷かな?」

未亜「そうです、渋谷です。」

ななか「すごいきれいだね!」

未亜「私の定期配信は、ありがたいことにあの夜景が見えるここか隣でやらせてもらっているんですよ。」

彩春「ここが使えるのは美愛の実績だよね。」

未亜「そうかなあ。」

彩春「うん、リアル配信はここだときれいだからけっこう倍率高いんだってよ。大石さんがいってた。」

ななか「へー!やっぱり美愛ちゃんはすごいね。」

未亜「なんか照れますね……。」

スタッフ「そろそろ時間になるので着席お願いします。」

圭司・未亜・彩春・ななか「「「「はい!」」」」


 いつものようにブースに入ってマイクの音声確認をする。三人も胸元のピンマイクを調整してもらって、いよいよ本番だ!


スタッフ「配信入りまーす、5秒前、4、3……。」

未亜「……20時になりました!みんなー、こんばんは、早緑美愛だよ!昨日は掛札亜香音としてドルプロのライブに出演してきました!といっても朗読劇をやって、一曲歌っただけなんだけどね。いやあ、プロプロのみんなが温かく迎えてくれて本当に良かったよ。今日はね、そんな話をするんだけど、まずはレギュラー出演者!雨東さん!」

圭司「皆さん、こんばんは、雨東です。美愛さん、昨日は本当にすごかったね。感動したよ。」

未亜「雨東さんにそういってもらえると嬉しいよね。ありがとう!」

圭司「いえいえ、どういたしまして。」

未亜「よし、そうしたら次は突発ゲストの紹介をするよ!まずは私の隣の人!」

ななか「皆さん、こんばんは、そして初めまして、声優の続橋ななかです。よろしくおねがいします!」

未亜「続橋さんです!もうななかさんって呼ばせてもらっちゃってるんだ!そしてもう一人はこの人!」

彩春「こんばんは!岡里いろはです!」

未亜「最近私の配信にはご無沙汰だったいろはです!といってもBSを毎週見てくれている人は共演で楽しんでもらっていると思うけどね。今日はこの三人で昨日のライブについてお話ししていくよ!なお、この配信に当たっては、オクダイナンコエンターテインメントの許諾と監修の元で内容を精査しております。じゃあ、いったんブレイクでこちらの映像をどうぞ!」


 5thアルバムの宣伝が流れる。自前のコンテンツで合間のCMもまかなえることは実はすごいことなんだって、最近気がついた。もっとすごいのはきっとここに本当のCMを流すことなんだろうけどね。


未亜「……それじゃあ、まずは昨日のドルプロの話から。実は土曜日は関係者席で見させていただいていたんです。本当に初めてドルプロのライブを生で見たんだけど、なんかみんなものすごかった。」

ななか「美愛ちゃん、初めてだったんだね。」

未亜「ななかさんは何度かあるんですか?」

ななか「うん、事務所の先輩たちもけっこう出ているからね。」

未亜「なるほど、そうだったんですね。」

彩春「美愛はどの辺がすごいと思ったの?」

未亜「うん、年齢も体型も見た目も全然違うのに担当しているその子に見えてくるのが本当にすごかった。春陽はるようあつし役の参幣さんぺい優侑子ゆうこさんとか性別すら違うのに温くんそのまんまだったからね。いまステージの上にいる人たちは声優というよりも次元の壁を越えて本人を召喚することの出来る人たちだって思ったよ。」

圭司「美愛さんの表現はまた独特だなあ。」

未亜「いや、雨東さんもそう思わなかった?」

圭司「うん、思ったよ。本当にアイドルがそこにいるって感じられた。」

未亜「あっ、雨東さんは日曜日に見てくれていました。」

圭司「そういってもらえると嬉しいけど、美愛さんもその一人にちゃんとなっていたからね。」

未亜「そうなれていたなら嬉しいんだけどね。」

ななか「美愛ちゃんもすごかったよ!美愛ちゃんとは隣同士のマイクで朗読劇してたんですけど、『となりにいま亜香音がいる!』って感じながら演技していたよ。」

未亜「ななかさんにそこまでいっていただけると自信になりますね!」

圭司「声優関係には詳しくない方も多いと思うのでここで雨東から補足です。今日のゲスト、続橋ななかさんは昨年の声優大賞助演女優に選ばれた方です。以上補足でした。」


 これはもちろん台本!太田さんからインカムで指示が来たので割り込んで説明したよ。


未亜「雨東さん、ありがとう!」

ななか「改めてそういう解説されると照れるなあ。」

彩春「でも事実ですから!私はあのとき、出番待ちでセンター裏にいたんだけど、聞こえてくる朗読劇がみんなそのまんまで、今年もすごい人たちが選ばれているんだなあって、本当にびっくりしながら聞いていたよ。」

ななか「あの西陣さんにそういってもらえると私も嬉しいな!」

彩春「いやいや、いまはまだ駆け出しの新人声優ですから。」


 おっ、太田さんがプロンプターに「次へ話を進めて」って出したな。


未亜「そんな私たちなんですが、実はそれぞれが担当するアイドル三人で『まりあコンビ』と呼ばれるユニットをよくやっています。」

彩春「実は『まりあコンビ』というのは通称でね。まだ正式なユニット名は付いていないんだ。」

ななか「でも私たちが声を担当することになったからそのうちデレライでイベントもありそうだよね。」

圭司「はい、またもやここで雨東から補足です。ドルプロことアイドルプロデューサーというゲームは、アーケードゲームから始まり、家庭用ゲーム、ソーシャルゲームと続き、いまはメインのゲームは『アイドルプロデューサーシンデレラライブ』というスマホのアイドルプロデュース&リズムアプリゲームとなっています。これの略称が『デレライ』です。以上です。」

未亜「雨東さん、度々ありがとう!」


 これももちろん台本に書かれていることを太田さんからの指示で読んだだけだけどね!その後もドルプロの話が盛り上がり、番組は後半へと続いていく。

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