第341話●ナインショートメンバーとの食事会

 わいわいと雑談をしていたら中久保さんあらため赤梅さんがしみじみと話し始める。


「私たちは7月26日に転居したんですけど、実はお話を聞くまで、みなさんもあそこに住んでいらっしゃるとは思いませんでした。」

「本当だよねー。」

「まあ、一緒に仕事しても住んでいる場所のことなんて言わないもんね。」

「皆さんはどうしてこちらへ?」

「大学の近くにある借り上げマンションに割とみんなで住んでいたんですけど、こっちに新しい社宅が出来るから移るのはどうかって提案されたんだよね。」

「へべすちゃんが会社に要求したのかと思った、新しい社宅へ住まわせろって!」

「クリスちゃん!?」

「ナインショートの皆さんは?」

「雨東先生が私たちに興味あるって!」

「こはくさん、そういうことではないと思いますよ。あの、元々私たちは武蔵小杉のタワマンで同じフロアをみんなそれぞれが借りて住んでいたんです。事務所ももちろん同じフロアに借りてました。」

「小杉って高い割に不便なんだよね。」

「秋桜さんのいうとおりで、最近、アバターが投影されるリアルステージへ出演する機会も増えているので、神奈川県内だと不便だったんです。」

「それで都内へ移ることにしたんだよね。でも、タワマンはエレベーターがなかなか来ないし、住みにくいから嫌だなーって、クリスちゃんとも秋桜ちゃんともいってたんだけど。」

「でもセキュリティが一番安心なのもタワマンなんで、どうしようかな、と悩んでいました。そんな折、共同個人事務所の会社移転にもなるので、椎峪しいたにさんと打ち合わせをした際に都内へ移転を考えている旨を話したら『巣鴨の社宅ならタワマンじゃないし、空いているからどうか』って打診されまして。お伺いしたらセキュリティは下手なタワマンよりも圧倒的に高いですし、それでいて家賃はいままでより格段に安くなります。その上、会社としての打ち合わせは1階のミーティングルームを使わせていただけるとのことなので、それじゃあって。」

「結局、1K以外は空いているのかな?」

「ああ、みあっちと同じことを思ったから太田さんに聞いたんだ。C棟の方は駅から近いのもあって、2LDKも3LDKも全部タレントさんと社員さんで埋まっているっていってたよ。」

「私もバイトの休憩時間に大石さんと雑談していて聞いたけど、こっちの8階と9階はタレントが入りたいといったときのために今のところはまだ空けてあるんだって。特に9階は私たちがたくさん住んでいるからなるべく関係性の近い人を入れたいっていっていたよ。」

「これだけいい場所ですもんね。たまたま空いていただけみたいで本当に運が良かったです。」


 住んでみて判ったけど、確かにここはいい場所だよなあ。


「そういえば、ナインショートの皆さんが大崎に所属したのは驚きました。」

「あー、美愛ちゃんのライブで発表したから余計そう感じるのかも。」

「いろはもへべすも事前に聞いていたみたいだったけど、私はあの場で聞いたから四人で仲良くやっていたのになんで大崎へ移籍したんだろうってビックリしたんだよね。」

「美愛さん、私から説明します。実は誹謗中傷がすごくて私たちでは対処しきれなくなったのが原因なんです。」

「私から補足するとVって、なんか知らないけど、適当なことをいわれて炎上させられやすいんだよね。ほら、私もそれで一回Vやめてるでしょ?」

「そういえば!」

「西陣さん、補足ありがとうございます。それで、西陣さんと日向夏さんを通じて、大崎さんと話をする機会をいただきまして。」

「安比の直後だったよね。相談された内容にビックリしちゃって。これはデジタルセクションの方がいいと思ったからへべすから上げてもらってね。」

「そうだったね!」

「沢辺さんから椎峪さんへつないでもらって、会社としてまるごとお世話になることになったんです。」

「大崎ってすごいよね。ビックリしちゃったよ。」

「こはくちゃん、本当にすごいよね!バンバン開示請求して、どんどん民事訴訟して、ガンガン勝ちまくってるもんね!」

「もう、秋桜さん、いい方が良くないですよ。」

「ほへー、大崎の顧問弁護士さんたちってすごいんだね。」

「私も最近知ったんですが、大崎の顧問弁護事務所って『田中・松尾・稲葉法律事務所』なんですけど、知財訴訟に強い法律事務所さんだそうで、最近では知財の延長でM&Aとかエンターテイメント系の名誉毀損訴訟とかにもすごい実績があるみたいです。」


 そういえば俺のもらった名刺に「田中・松尾・稲葉法律事務所」って書いてあったなあ。あそこはそんなすごい弁護士事務所だったのかあ。赤梅さんによると大崎だけではなく、五大事務所は今年10月のプロバイダ責任制限法改正を前にタレントの誹謗中傷に対してものすごい数の開示請求と名誉毀損訴訟を繰り広げているらしい。明貴子さんの件で、出版社側が早めに手を打ったのってその辺もあるのかもな。赤梅さん、というか中久保さんは経営者だけあって、やっぱりその辺の情報収集は怠らないんだなあっていう話をいろいろと聞かせてもらった。そういえば、ナインショートのみなさんってマネージャさんは誰なんだろう?聞いてみようかな?


「そういえば、みんなのマネージャさんって誰なんだろう?」

「昔と変わらないよ!」

「え?っていうことは、いまでも赤梅ちゃんがマネージメントしてるの?」

「はい、私は引き続き兼任です。」

「それが大崎に決めた理由だもんね。」

「あっ、ほかの事務所とも話をしていたんだね。」

「私たちの今後が掛かっている話でもあるので、ほかも親しいライバー仲間に紹介してもらって話をしたんです。条件は大きく変わらなかったんですが、大きく違っていたのがマネージメントに対する考え方でした。」

「そんなに違うのかあ。」

「ほかの事務所さんは私がタレントへ全面移行して、マネージメントの実務は全部自分たちで進めるっていう話だったんですけど、椎峪さんは『タレントがマネージメントもして、組織的に私の部下にもなるなんて面白そうじゃない!』って、私の継続にすごい前向きだったんです。」

「椎峪さんって、もともと割と有名なMeTuberでね、MeTuberを引退した直後に『リアリズム&バーチャリズムコミュニケーション』っていう会社を立ち上げたんだ。そのまま会社経営に専念するのかと思ったら、タレントの将来性を考えて、会社の理念に共感した大崎に吸収される道を選んだっていう人だから話していてユニークだし、面白いよ。」


 ええっ!?椎峪さんがそんな経歴を持っていた人だったなんて知らなかった!


「へべす、椎峪さんとすごい気が合うよね。」

「つむぎもけっこう尊敬しているよね?」

「だって、椎峪さんって女性MeTuberとして一世を風靡した人だからね!顔出し実名って、当時としては画期的だったから本当にすごい尊敬していたんだよ。」

「女性なのに顔出ししたってすごいね!?」

「当時はまずあり得なかったなあ。」

「本当ですよね。私たち、特にマネージャ兼任の私が所属したので、椎峪さん、『ガワ作って、Vで配信復帰するのもありだなあ!』とかうずうずしていますよ。」

「椎峪さん、Vやるならコラボしたいかも!」

「面白そうだよね!」


 バーチャルライバーのみんながものすごい盛り上がって、椎峪さんのデビュー計画を作っていたけど、本当になりかねないよね!?


 2時間の食事会は大満足のままお開きとなった。またみんなで食事会もしたいよね、なんて思っていたらへべすTlackにいつの間にか4人も入っていて、あいさつしたんだけど、ランさんが普通に返答したら4人ともびっくりしてた!やっぱりランさんはすごいアイドルなんだよね。未亜が「追いついて追い越したい!頑張るぞ!」っていっていたけど、俺も未亜のことを応援して支えるぞ!

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