第288話●転居の話

紅葉「そういえば、大石さんのところに新しい人が配属になったって、さっき紹介されたよ。」

志満「もみーだけじゃなくて私にまで紹介してくれて驚いたよ!」

幸大「そりゃ、志満さんもうちの大事なメンバーだからだろうなあ。」

志満「私はしがないアシスタントなんだけどねえ。」


 大石さんのところに配属になったアシスタントマネージャさんは饒波のば嘉貴よしたかさん。太田さんと「近況報告」をしたときに教えてくれたのだけど、饒波さんはおととし入社の方で、去年の4月に仮所属も含めて7人の声優さんを抱えていた指原さしはら優太郞ゆうたろうさんというベテランマネージャさんのところへ配属されたそうだ。ところが、指原さんの担当している声優さんが少しずつ別の事務所へ移籍して、去年末には本所属になったばかりの新人2人のみになってしまった。逆に大石さんは、担当している3人の声優さんのうち、デビュー5年目となるつるぎ清悟せいごさんという声優さんが去年の夏頃からぐんぐん伸びていて、ゲームにアニメに引っ張りだこになり始めた所に彩春さんがバーチャルライバーへ復帰したおかげで急激に業務量が増えてしまった。しかも桜内碧こと紅葉さんと帯屋わたること幸大の二人も抱え、さらにデビュー3年目の声優である華頂かちょう知紗子ちさこさんという方も大石さんの指導が実を結びはじめたおかげで今年に入ってオーディションの勝率がぐんぐん上がりはじめているという状況もあって、異例なことではあるのだけど、饒波さんは1年で配属替えという状況になったそうだ。「移籍した人たちはみんなもともと指原さんが5年以上かけて育て上げたんだけどね。こういうタイミングってあるからマネージメントも怖いのよ。まあ、指原さんは大成功した『新世代声優セレクション』を企画した責任者だったし、すごい人だから新人のスカウトと育成に専念出来るのは逆にいいのかも。すぐに売り上げ上位に戻ってくるんじゃないかしら。」とは太田さんの話。もちろん饒波さんも問題があるどころかとても優秀な方で、おととし入社した6人の中では研修ラストの評価で二番目の成績を納めているそうだ。なんかマネージメントの陣容もだんだんすごくなってきているよね。


彩春「あっ、そろそろ新しい社宅の話もしないとだね。」


 雑談が一段落したところで、転居の話になった。


朋夏「つむぎがみんなに新しいところへ転居したいかどうか、あらかじめ意向を確認してくれて助かったよ。」

彩春「へべすが聞くかと思ったら聞かなかったから!」

朋夏「いやあ、誰か聞いてくれるかなあってね。そのかわりに沢辺さんからもらったマンションの間取りと部屋の一覧を印刷してきたよ。」

明貴子「へべす、ナイス!」

朋夏「あとなんか、マネージャを代表して沢辺さんがとりまとめてくれるんだって。全員転居希望だから出来れば今日どの部屋がいいか決めておいて欲しいっていわれたよ。」


 そういえばTlackで太田さんから送ってもらっていたのに間取りとか確認するのを忘れてたなあ。


朋夏「最上階の9階とその下の8階はまだまるまるあいているんだって。」

彩春「社員さんは誰も申し込んでないのかな?へべす、なんか聞いてる?」

朋夏「タレント優先だってさ、つむぎ。沢辺さんがいってたよ。」

未亜「なるほどね。あっ、いま住んでいるところと違って末尾4号室がある。」

瑠乃「本当だ!美愛、よく気がついたね。あれはあのマンションのオーナーさんがこだわっているだけなんだろうね。」

華菜恵「ねえねえ、るのっち、形も違うよ!逆L字型なんだねー。南側が3SLDKで、東側が2LDK、3SLDKの西端とエレベーターの脇は1K、2LDKの北端は4LDKか。カップル二組は3SLDKか4LDKがいいんじゃない?」

朋夏「マスケイさん、華菜恵の提案、どう思う?私は3SLDKがいいかなって。」

慧一「そうだな。ここのサービスルームとかっていうところ、4畳で狭くて窓もないみたいだから防音部屋に加工して歌みた収録にいいかも。4LDKの所は窓があるみたいだから窓がない方がいいな。」

朋夏「じゃあ、うちは3SLDKで!」

圭司「早緑さん、うちも3SLDKがいいよな。」

未亜「うん。負担金は20万円になるけど、広い方がいいよね。逆に4LDKである必要はないもんね。」

圭司「よし、3SLDKにするよ。」

彩春「2組とも3SLDKなら私は4LDKがいいな。」

明貴子「えっ、いろは、そんな広いところにするの?」

彩春「うん。実家から引き上げてくる予定の荷物が予想より多くて、大石さんにもう一部屋借りたいって相談してたんだ。だからちょうどいいんだよね。」

瑠乃「そういえば、へべすはもう一部屋借りるの?」

朋夏「そだよ。沢辺さんにも確認して、問題ないって。2部屋体制でやってみたら、オンとオフをしっかり分けられる感じになって、メリハリが付いたんだよね!だから4LDKじゃなくて、3SLDKと2LDKがいいな。」

彩春「へべすの配信、最近さらに好調だもんね。」

朋夏「つむぎにそういってもらえると嬉しいね。去年の後半くらいから同時接続数どうせつが少し落ち込んでいたんだけど、2部屋体制にしたら前よりも伸びはじめたから、お金を出すメリットは十分あるかな。」

圭司「なるほどなあ。職場へ通うような感じで気持ちが切り替えられるんだな。」

朋夏「雨東先生のいうとおり!あとはみんなで集まれる部屋にも出来るからいろいろな意味でメリットもあるよね。」

慧一「ほかのみんなは?」

瑠乃「朱鷺野先生と私は2LDKっていうことで話していたよ。」

紗和「3SLDKがまだ余っているけどいいの?」

明貴子「うん、瑠乃と同じ意見だったんだけど、いまの部屋も二人でシェアハウスをしていた部屋よりも広いんだよね。それよりさらに広くなるから2LDKで十分。」

華菜恵「私とゆりっちも2LDKをシェアするよ。昨日の夜、ゆりっちと話してね。負担金は15万円だからいまの10万円より少し高くなるのと1Kを二つ借りるより高いけど、ゆりっちとお互いフォローしあえるメリットがあるから。」

瑠乃「それでも白山とか池袋とかでセキュリティのしっかりしたワンルームを1部屋ずつ借りるより安くて広いもんねー。」

華菜恵「うん。使えるものは使うよ!」

圭司「百合は池袋に通いやすくなるからむしろ転居は助かるかもな。」

華菜恵「うん、そんな話をしたよ。ゆりっちも本所属に向けて頑張っているから、シェアハウス出来る日が楽しみ!」

彩春「あ、そうそう。ここなちゃんは1Kにするって。広い部屋とかシェアハウスとかだと落ち着かないからっていってたよ。」

紗和「さすがいろは、確認済みだったんだね。私は2LDKがいいかな。こっちに来てから曲作りを寝室とは別の部屋でやっているんだけど、頭が切り替えやすくなって、曲作りが進むようになったんだ。」

朋夏「私が別室にするのと同じだね!」

紗和「うん、へべすと同じだね。」

朋夏「みんなの意向が決まったところで、部屋割りを考えようか。もしみんなが良かったら、こことここを使わせて欲しい。エレベーターホール挟んですぐだから突発配信とかで行き来しやすいんだよね。」


 そういうと朋夏さんは3SLDKの一番エレベーターホール寄りにある921号室とすぐ右上に書かれている2LDKの901号室を指さした。


未亜「雨東さん、うちは問題ないよね?」

圭司「問題ないな。」

紗和「私もOK!」

華菜恵「へべっちにまかせるよ。」

明貴子「瑠乃、いいよね?」

瑠乃「そうだね。」

朋夏「みんな、ありがとう!901でホームパーティとか勉強会とかいろいろやろうね!」

圭司「早緑さん、うちは922でいいよね?」

未亜「うん、そだね。」

朋夏「3SLDK側は決まったね。私が代表して沢辺さんに伝えるからほかも決めちゃおう!」

紗和「そうしたら2LDKのほうだね。私、902にしようかな?」

彩春「ママダP、こだわりがあるの?」

紗和「いや、こだわりは特にないんだけど、901でホームパーティするときに隣に一人暮らしの私の部屋があるとこっちでも料理の準備が出来ていいかなって。」

未亜「そか!」


 紗和さんがいろいろと前向きになれていて、本当に嬉しいなあ……。


華菜恵「そうしたら朱鷺野先生とるのっちは903にしたら?うちはエレベーターホールから遠くても問題ないから。」

明貴子「じゃあ、お言葉に甘えて。瑠乃、いいよね?」

瑠乃「うん、OKだよ!」

慧一「いろはさんは4LDKだと905だね。」

彩春「私は一択しかないからね。」

未亜「そういえばここなちゃんはどこにするんだろう?」

彩春「あっ、さっき、Tlackで聞いたよ!エレベーターに一番近い951号室がいいって!」

朋夏「さすがつむぎ!じゃあこれできまったね!」


 最終的に

 901 2LDK 朋夏さん配信部屋

 902 2LDK 紗和さん

 903 2LDK 瑠乃さん・明貴子さん

 904 2LDK 華菜恵さん・百合

 905 4LDK 彩春さん

 921 3SLDK 朋夏さん・慧一

 922 3SLDK うち

 951 1K 心菜ちゃん

 となった!転居の部屋割りも決まった!入居前に内見できるみたいだからそれも楽しみだ!


圭司「そうだ。うちは自宅で登記しちゃったから引っ越しで本店の所在地変えないとだめかもしれない。」

未亜「えーと、へべすが持ってきてくれた資料には、豊島区巣鴨仰高5丁目3番地って書いてあるね。」

圭司「文京区じゃなくなるんだなあ。定款の変更手続きを連絡しておくよ。」

未亜「お願い!」


 転居に向けて事務手続きも進めておかないとだな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る