第287話●ラジオに一人で出演!

 今日4月4日は、CBSラジオの「あかにぎり」という昼の帯番組にゲストとしてお招きいただいた。未亜が関係していないラジオ番組に単独で呼ばれたのは初めてで緊張する。ちなみに未亜はCBSテレビの「世界中のクエスチョン」というクイズ番組に彩春さんとペアを組んで出演するので一緒にやってきた。一緒に放送局へやって来て、違う番組に出るっていうのもなんか面白い。


 CBS赤坂放送センター1階の受付で太田さんたちと待ち合わせをして、入構手続きをする。未亜は入構証を持っているので手続きはしなくていいのだけど、こちらの手続きが終わるまで待ってくれて、一緒に中に入る。未亜はエレベーターを途中で降りていった。テレビのスタジオは4階にあるのだとか。俺たちは9階のラジオフロアまでそのまま乗っていく。

 最初の打ち合わせは太田さんと峰島さん、華菜恵さんも同席する。番組ディレクターの丘棟おかむね佳輝よしきさんから進行の流れなどの説明があり、パーソナリティの玉江たまえ赤穂あかほさんと顔合わせをしたあと、いよいよ本番となる。番組後半のゲストコーナーで1時間の出演となるのだけど、現在の時間は13時。番組が始まる前に訪問したこともあって、まだまだ時間があるということで、俺はそのまま番組を見学させていただき、太田さんたちはほぼ同じタイミングで収録をしている未亜の様子を確認しがてら、峰島さんと華菜恵さんを連れて局内各所にあいさつ回りだとか。未亜も最初はいろいろなところを回ってあいさつをしまくったって聴いたけど、マネージャさんも一緒なんだなあ。それにしても華菜恵さんも名刺をもらっていろいろなところへあいさつ回りって面白いね。

 そんなことを頭の片隅で考えながらラジオの現場を見学しているとあっという間に出演の時間が来てしまった。


玉江「玉江赤穂のあかにぎり、15時台のゲストは作家の雨東晴西さんです。」

圭司「雨東晴西です。よろしくお願いします。」

玉江「雨東さんとは初めましてなんですが、最近こういうラジオ出演を解禁されたそうで。」

圭司「はい、そうなんです。ありがたいことに作品について話を聞きたいとおっしゃってくれるオファーが増えまして、これは出不精をしているわけにもいられないなと。」


 本当はBSの出演がきっかけだったのだけど、公式にはこういう建前になっている。玉江さんの軽妙なトークのおかげもあって、普通に話が出来て、無事に出演を終わらせることが出来た。そういえば作品の話とかがメインで未亜の話は全く出なかったな。未亜との関係も普通に周知されて、世の中的にはもう当たり前になったのかもしれない。


 こちらの番組出演が終わったタイミングで太田さんたちが迎えに来てくれたので、一緒に休憩スペースやコンビニがあるという12階まで上がる。実は今日、このあと、17時から事務所で磨奈さんに俺たちのことを説明して、そのあとは朋夏さん主催の食事会がある。週頭の月曜日だけど、磨奈さんを事務所へ招待する彩春さんがみんなの都合を確認したらこの日がちょうど良かったそうだ。ついでに転居の件も話す予定。みんな転居に賛成だったから割と簡単に話はまとまると思うけどね。段取りとしては、16時にいったんみんな集まって、転居の話を済ませておいて、磨奈さんが17時に事務所の一階へ着いたら彩春さんが迎えに行くことになっている。

 12階の簡単な説明をしてくれた太田さんは、峰島さんと再びエレベーターで降りていく。俺の方は、コンビニで飲み物を買って、イスに座って飲んで、番組の余韻に浸っていると彩春さんとさみあんモードの未亜がやってきた。今日は、磨奈さんに説明をする関係で、さみあんモードのまま、一緒に事務所へ向かうことになっているのだ。


未亜「ごめん、待った?」

圭司「いや、ゆっくりしていたから問題ないよ。」

華菜恵「なんか二人のデート現場に鉢合わせちゃった感じだよ!」

智沙都「沼舘さん、間違ってはいないような気がするよ。ですよね、太田さん?」

太田「そうね。まあ、上手くいっているっていうことで。」

彩春「私も彼氏欲しいなあ。」


 華菜恵さんが顔を真っ赤にしたのに対して峰島さん、太田さん、彩春さんは飄々としている。普通に会話しているだけなんだけどなあ。そうそう、峰島さんはしばらく敬語だったのだけど、今日の行きがけに太田さんから「そろそろ敬語崩してもいいと思うわよ。智沙都の方が年上なんだし。」といわれて、敬語を崩してくれるようになった。ずっと敬語だとなんか壁がある感じになりそうだったから良かった。

 こんなやりとりのあと、すぐにエレベーターに乗って、テレビ局地下に止められている社用車まで向かい、彩春さんも含めてみんなで太田さんの社用車に乗って事務所まで向かう。


彩春「太田さんの社用車って青みがかった黒なんですね。」


 太田さんの社用車に乗り込んだ彩春さんが太田さんに問いかけた。


太田「そうよー。大石くんは新しい社用車は赤よね。」

彩春「そうですね。最近変わったんですけど、少し黒みのある赤です。」


 大石さんの新しい社用車にはそういえば乗ったことがないなあ。


圭司「社用車の色って決まっているんですか?」

太田「私が乗っているパールブラックか大石くんの乗っているダークレッド、あとはパールホワイトのどれかね。」

彩春「へー!何か理由があるんですか?」

太田「岡里さんが知っているか判らないけど、うちのコーポレートカラーってげん深紅しんく灰白色かいはくしょくなのね。車の色とは微妙に違うんだけど、ファイアードで使える色の中から出来るだけ近いものを3色チョイスした感じ。」

未亜「玄ですか?」

太田「そうよ。黒の古名ね。実際には少し赤みがかった感じの黒。深紅のほうは平安時代には皇族と貴族しか使えなかった高貴な色。灰白色は要するにオフホワイトのこと。」

圭司「何か意味合いがあるんですか?」

太田「それは、智沙都に説明してもらおうかしら。はい!」

智沙都「えっ!えーと、玄は芸事の深遠を示し、そして玄人くろうとにも通じる色で、深紅はタレントの皆さんが自らの芸の道に邁進する高貴な姿勢を示す色、灰白色はタレントの皆さんの進みたい方向に合わせて何色にでも染まる白をベースに自分の確固たる意思を淡い灰色で表現したマネージャを意味している色です!」

太田「さすが!去年の新卒で最優秀の成績を取っただけあるわね!」

智沙都「ありがとうございます、ちゃんと憶えていました!」


 ええっ!峰島さんって、そんなに優秀な人なのか!?太田さんはまたすごい人を引っ張ってきたなあ……。


圭司「そういうことだったんですね。車の色は選べるんですか?」

太田「うん、元々専用車を割り当てられていたマネージャは好きな色を選べる。共用車を使うマネージャは建前としては選べないけど、いままでの社用車であれば三色どれももうだいぶ余ってきているし、新車なら複数台同時に入ってくるから一応希望を確認して、そのときに割り当てられる人の間で希望の色に極端な偏りがない限り、自分の希望が通る。まあ、割り当て時期はいくらでも前後させられるから実際に偏った場合は少し遅れて引き渡すことで自分の選んだ色にすることが多いけどね。」


 彩春さんは共用車の割り当てについて疑問があったみたいでその辺を質問して、太田さんがこの前教えてくれた実質的に専用車みたいなものという話を説明していた。


 なんとなく会話が途切れたところで未亜が思い出したように彩春さんへ質問を投げかけた。


未亜「そういえば、今日は磨奈になんて説明して呼んだの?」

彩春「磨奈ってレイヤーさんなんだって。それで、へべすが新しい衣装とかに悩んでいるからよかったら現役レイヤーの視点でアドバイスをもらえないかって。」

未亜「磨奈、コスプレやってたんだ!」

彩春「うん、ファジケで毎回レイヤーしてるっていってたよ。」

圭司「磨奈さん、そっちの方で有名な人だったりして?」

彩春「私も気になったから聞いたんだけど、基本的にファジケにしか出てなくて、完全に趣味だっていってた。」

未亜「そうなんだね。」

彩春「写真見せてもらったけど、ドルプロのレイヤーさんで、すごかった。」

未亜「へー!」

彩春「あと、朱鷺野先生の大ファンで、アニメ化された作品のコスプレとかの写真もあったよ。」

圭司「えっ!今日、明貴子さんが正体説明したらビックリしちゃうんじゃ。」

彩春「かもしれないね!でも、内緒ね。二人とも驚かせようよ。」

未亜「いいね!そうしよう!」


 ちょっとした作戦?も決まったタイミングで社用車は事務所の地下へと入っていく。今日の説明会?は、事務所3階の「会議室3F1」を朋夏さんが押さえてくれた。話が終わったら例の創作和食の店へ行くことになっている。


未亜「おまたせー!」

朋夏「まだみんな来てないから大丈夫だよ。」


 会議室に入ると朋夏さんと慧一しかいなかった。


彩春「けっこうみんなギリギリなのかな?」

朋夏「うん、なんかそんな連絡が来ていたよ。」


 6人で話をしていたらみんなやってきて、順次座っていく。10分くらい前に全員そろった感じかな。心菜ちゃんと百合は遅れてくるけどね。

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