第289話○磨奈にいろいろと説明しよう

 部屋の話が一段落したあとは、みんな4月1日に会社を作っているので、なんとなくそんな話になった。


 朋夏と慧一くんは「合同会社シトラスポップチューン」っていう名前の会社を立ち上げた。朋夏のご両親が勤めている信金に会社の口座を作る関係で登記上の本店は朋夏の実家にしたんだって。


「お父さんに任せるのが一番だからさ。登記には書かないけど、扱いとしては、こっちが東京支店みたいな感じだね。」

「そか、そういうやり方もあるんだね。」


 彩春はもともと作っていた個人事務所「合同会社西陣配信事務所」を「安比星月合同会社」へ社名変更した上で、個人事業で運営していたペンションの方をメイン事業として定款を整えたそうだ。


「兄貴たちが帰国したら出資してもらうことになっているんだけど、私が代表になった上でペンションの方をメインの事業としておけば、何かあったときに私の稼ぎから資金を回しやすいからね。」

「確かにそれはありだね。」


 幸大くんと紅葉は志満たちアシスタントさんにも出資してもらって「合同会社チェリーブロッサムズニュータウンマンガオフィス」を作ったとのこと。


「私たちはアシスタントさんあっての活動だからみんなで一緒にやりたかったんだよね。ほかのみんなも漫画家としてデビューしたいっていう気持ちはまだまだ持っているから複数の漫画家が所属する会社になれたらいいなあって思っているよ。」

「そうなれるように頑張るよ!」

「しまっち、がんばって!」


 明貴子は「合同会社クレステッドアイビス」、朱鷺を英訳したのだとか。そうか!「朱鷺野」って新潟出身だからか!


 紗和と瑠乃、華菜恵は会社を作っていない。華菜恵は判るんだけど、紗和と瑠乃はなぜかな、と思ったら、二人とも当面はいまのままで気楽にやりたいということみたい。


「私はまだまだ駆け出しのアイドルだから節税しないといけないほどの稼ぎもないしね。その辺はいまのところ気楽に構えて、ランクがもっと上になったら改めてどうするか決めようと思っているよ。」

「それもアリだよね。私の方はあまり面倒なことを考えずにやりたいなあって思ってるんだ。将来的には判らないけど今のところはこのままかな。」

「なるほどなあ。あっ、磨奈が来たみたい。迎えに行ってくるね。」


 個人事務所の話で盛り上がっていたら磨奈が来たようだ。彩春は席を立つと会議室の外へ出て行った。みんなの関係を説明するだけなんだけど、なんか緊張するよね。特に私はさみあんモードのままだし。


 コンコン

「はいるよー。」


 彩春の声が聞こえて、扉が開く。彩春に続いて磨奈が入ってきた。


「こんにち……ええっ!?なんで大崎エージェンシーにみんながいるの!?」


 あっ、磨奈が固まった。


「磨奈、とりあえず、一番奥に座って。」


 すかさず後ろに回った彩春が磨奈を一番奥のお誕生日席へ誘導する。


「えっ、えっ、早緑美愛だよね、そこに座っているの!?なんで内々の打ち合わせに有名人がいるの!?なに!?私、これからなにされるの!?」


 私の後ろを通過した磨奈が大混乱してる。彩春はそのまま磨奈の背中を押し続けて、お誕生日席に座らせた。


「じゃあ、今日は、磨奈に改めてみんなが自己紹介するので、よろしくね!」

「よし、最初は私から行くね。ンンッしめなったか!日向夏へべすちゃが!」


 磨奈が驚愕の表情になったまま身動きしなくなっちゃった!


「隣に座っているのは歌い手やってるマスケイです。よろしく。」

「あまり知らないかもしれないけどイラストレーターの帯屋わたるです。」

「私は初めましてですよね。漫画家の桜内碧こと朱石紅葉です!」

「私は特に名乗るペンネームはないけど、あらためて紅葉のところでアシスタントやっている棟居志満です。」

「私も特にないんだけど、大崎で短時間社員をしている沼舘華菜恵です!」

「ねえ、彩春、磨奈がなんか完全に固まってしまったけど大丈夫かな?」


 本当だ、瑠乃がいうとおり、磨奈がなんか完全にフリーズしている。


「磨奈、大丈夫?」

「……はっ!えっと、なんかいつの間にか平行世界に迷い込んだような気がするけど、とりあえず大丈夫じゃないかな?」

「大丈夫そうなら私からでいいかな?」


 私から立候補してみた!明貴子は最後にしたいからねー!


「私より先に未亜でいいよ。」

「明貴子、ごめんね!」


 私はウイッグを取り外す。


「ああっ!?ええっ!?ウイッグ!?」

「早緑美愛こと西脇未亜だよ!」

「ええっ!そういうこと!?私、紅白歌手と親しく話しちゃってたの!?」


 磨奈からもそういうコメントが出るって、やっぱり紅白って大きいんだね!


「ということで西脇未亜のフィアンセで、早緑美愛のフィアンセでもある、雨東晴西です。」

「まさかの雨東先生!アニメ見てたよ!二期おめでとうございます!」

「あっ、ありがとう!」

「そうしたら次いいかな?私も紅葉と同じで初めまして。今年の4月から哲大の科目聴講生になる儘田海夢こと甘巻紗和です。」

「ええっ!?ママダP!?良く聴いてます!そういえば、衝撃のあまりスルーしちゃってたけど、マスケイさんの歌みたも好きだよ!」

「おっ、嬉しいなあ、磨奈さん、ありがとう!」


 磨奈ってボカキャラ曲も歌ってみたも好きなんだね!


「私は全部判っているからパスでいいかな。」

「確かに瑠乃はそうだね。じゃあ、私かな?小説家やってます、朱鷺野澄華です。」

「えっ!?ええっ!!!!!明貴子ちゃんが朱鷺野先生なの!?本当に!?朱鷺野先生!大ファンです!ずっと追っかけてます!!!」


 ああっ!磨奈が号泣しはじめた!


「えっ!磨奈!?」

「私から説明すると磨奈って、朱鷺野先生の作品が大好きで舞台とかも追いかけているんだって。」

「えっ彩春、それ本当!?しらなかった!」


 明貴子は立ち上がると磨奈のそばまで行ってしゃがみ込んだ。


「ありがとう、嬉しいな。良かったら握手して欲しいかも!」

「どぎのぜんぜいー!」


 磨奈が泣きながら握手どころか明貴子に抱きついた!大好きな人と会えたら泣いちゃうよね。うん、すごくよく判る!

 磨奈が落ち着くのを待って、細かい話をしていく。磨奈が朱鷺野先生の作品に出てくるキャラクターのコスプレをしているなんていう話も聞いていたら扉をノックする音が聞こえた。


「「おはようございます!」」


 やってきたのは心菜ちゃんと百合ちゃんだった。


「上水ここなさん!?上水さんもみんなの仲間なの!?」


 磨奈がまた驚愕の顔をした。


「磨奈、心菜ちゃん知ってるの?」

「もちろん!よくグラビアで見かけていて、かわいいなあ、妹にしたいなあって萌えてたから!ファーストライブも行ったんだよ!途中で早緑さんも出てきて驚いたけどね!」

「えっ!ありがとうございます!なんか照れます……。」

「心菜ちゃん良かったね!」

「百合さん、ありがとうございます!」

「百合、心菜ちゃんと一緒だったんだね。」

「うん、一緒にレッスンしてたよ、お兄ちゃん。」

「百合さんのダンスがすごかったです!」

「うえっ?」


 磨奈が目を点にしていたので、百合ちゃんが圭司の妹さんでいまアイドルの見習いをしていることなんかも含めて説明もしておく。


「いやあ、私、こんなすごい人たちの集まりに声かけちゃうとかずいぶん怖いもの知らずだったんだね。」

「もともとは全然そんなこと知らずに仲良くなったから問題ないと思うよ。」

「そうそう、まなっちと同じで私も大崎で働いているだけのいっぱんぴぽーだからね!」

「私もそうだよね、単なるアシスタントで年二回ファジケに出てるだけだし。」

「えっ、志満ちゃん、ファジケ出てるの?サークル参加?」

「うん、そうだよ。甲冑謳歌島の『鎧しまったよろしま』っていうサークル。」

「ええっ!『鎧しまったよろしま』って志満ちゃんのサークルなの!?私、ファジケはコスプレエリアに張り付いてるからスペースには行ったこと無くて、いつも通販になっちゃうんだけど、毎回必ず頒布受けてるよ!?」

「本当?!嬉しい!」

色々威腹巻いろいろおどしはらまき紺糸威胴丸こんいとおどしどうまるのカップリングってあまり見かけないから貴重だよー。」

「あっ、そこ一緒なんだね!これは授業が始まってから楽しみかも!ちなみにうちのサークルがOKっていうことはリバ可だね。」

「もちもち!」

「いいね!今度語ろう!」

「おおっ!よろしまのサークルぬしさんと語れる日が来るなんて!楽しみにしているよ!」


 こんな所に志満のファンがいた!ということは磨奈もBL好きなんだね。会話の内容はほとんどわからないけど!


 のんびり雑談をしていたらあっという間に時間が来た。みんなで朋夏と彩春がよく使っているいつものお店に歩いて行く。本当に大所帯になったなあ。レストランでも話が大いに盛り上がり、親交を深めたんだけど、磨奈がへべすTlackに招かれて、この仲間内ではRINEの役割が終わってしまった!ここまでみんなが親しくなれたから新学期が本当に楽しみだなあ!

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