第十八章 二年生、始まる
第283話●二人で会社設立!
今日は4月1日。新年度がスタートするこの日にまず真っ先にしなければならないことがある。そう、会社設立だ。
実は少し前から未亜と何度か会社名に関する「会議」をしていて、そこで出てきた社名候補を
船渡さんからもらっていた定款のひな形を元に「合同会社アーリーグリーンレイン」という社名も入れた提出用定款の作成を朝一で済ませる。定款上の本店所在地は自宅のある文京区にした。もちろん、いまの住まいを会社の本店として各種届け出をしても問題ないことをあらかじめ太田さんに確認済み。資本金は多くもなく少なくもなくというところで50万円ずつ出して100万円。出資金の払い込みは共同口座へ未亜から払い込んでもらった記録を打ち出してある。
その辺を全て済ませた上で、未亜はこのあとのスケジュールが詰まっているので、自宅でさみあんモードになってから、あらかじめアポイントを取っておいた船渡さんのところへ二人で訪問する。登記申請なども含めて全て代行してもらう関係で、今日は司法書士の
「はい、委任状含めて、全部の書類がそろいました。今日の午後に法務局へ提出してきます。あとは都税事務所とか設立申請が必要なところは全てこちらで代行しますのでご安心下さい。なにもない時期ですと3営業日程度で完了するのですが、今の時期は会社設立のピークなので、一週間くらいかかるかもしれないですね。」
「判りました。設立日というのは全ての手続きが終わった日になるのですか?」
「いえ、法務局へ申請した日なので、今日が設立日になりますね。」
「なるほど、そういう換算なんですね。」
「登記が完了したら各種書類が発行出来るようになりますので、金融機関の取引口座の開設も出来るようになります。」
「銀行口座って、法人でもすぐに開設出来るものなんですね。」
「いや、実はメガバンクだと審査が厳しくて時間がかかる上にダメなことも多いんです。」
「えっ、作れないこともあるんですか!?」
「そうなんです。起業推進とかいっていますが、現実はかなり厳しくて、1円会社とかだとまあ、なかなか。それで『なんとか株式会社代表なにがし』みたいな会社の口座のように見える個人口座でとりあえず当面は対応するみたいなことも多いんです。」
「資本金100万円にしておいたのは無難だったんですね。」
「はい、これは良かったと思います。それで、会社設立後の会社口座は、メガバンクなどではなく、中小企業相手に商売をしている信用金庫だと作りやすいと思います。信金さんは
そちらで進めたいという話をすると安田さんが「登記が完了するまでのどこかで、弊所の担当窓口の方と面談できるかもしれないので、早速連絡を取ってみます」と会議室を出て行った。もちろん今日は口座を開設出来るわけではないのだけど、こういうのは下打ち合わせが大事なのだとか。
しばらくして戻ってきた安田さん、慌てた感じなのでどうしたのかと思ったら「今日の午前中なら理事長が会えるといっている」とのことで、急ぎ池袋にある思兼さんの事務所から安田さんの車で豊島信金の本部を訪問する。
「お忙しいところ、すみません。」
「いえいえ、思兼さんからの面会依頼ですから。」
「今日は、ご連絡させていただいたとおり、ご紹介したい弊所のクライアントがいまして、お邪魔させていただきました。」
「初めまして、雨東晴西のペンネームで執筆活動をしております、高倉と申します。」
「これはこれは、名刺をご丁寧にありがとうございます。豊島信用金庫理事長の村田と申します。孫が雨東先生の作品が好きで、先般配信されていたアニメを食い入るように見ていましたよ。」
「それは!ありがとうございます。それで、こちらが。」
「初めまして、私は名刺は持っていないのですが、アイドル活動をしております、早緑美愛と申します。」
「豊島信用金庫理事長の村田です。早緑さんにお目にかかれて嬉しいです。紅白を拝見しておりましたよ。早緑さんのCDは全部持っています。本当にいい曲を歌われていますよね。」
「ありがとうございます!」
「実はお二人が今度共同で個人事務所を開設されるんです。文京区に設立する『アーリーグリーンレイン』という合同会社なのですが、口座が必要となりまして。」
「それで当庫をご検討いただいているということですか。これはありがたいことですね。」
「今日の午後に登記手続きを行いますので、登記が完了次第、私が代理人で伺うことになろうかと。」
「判りました。リスク管理部の審査は私も関与出来ない領域ですが、お二人が設立される『アーリーグリーンレイン』さんの口座開設依頼が来ることは話しておきます。」
「ありがとうございます。」
そのあとは雑談をしばらくして、最後に秘書の方が色紙を6枚持ってこられた。太田さんにはその場で確認をしてOKが出たので3枚ずつサインをしてから辞去した。3枚中1枚は理事長の個人所有になるらしい。
「これでおそらく問題ないかと思います。」
「あっ、そうなんですね。」
「信用金庫ももちろん厳しい審査がありますが、都市銀や地銀に比べると地域の中小企業を支えるという使命から地元企業のスタートアップ支援に熱心なんです。とはいえ、設立されたばかりの合同会社はどうしても審査において不利なので、単なるスタートアップではなく、社会的な実績のあるお二人が設立する会社だということを認知してもらえれば、審査にその点が加味されますから。」
「審査の際にお話しするのではダメなんですか?」
「早緑さんのおっしゃることも確かなんですが、何らかの事業を営んでいる企業体ならばともかく、芸能人ということになりますと本人証明が難しいので信用してもらえない可能性があります。その点を私がフォローすることで確実に信用してもらえるようにした感じです。」
「なるほど、それで事前のご挨拶なんですね。」
「はい、そういうことです。」
会社の設立一つとってもなかなか大変なんだなあ。経営学部だけどそこまでは学べてない。2年生以降で取れる科目とかでその辺ももしかしたら学べるのかもしれない。大学の勉強もちゃんとしないと。
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