第十五章 安比旅行

第227話○久しぶりに太田さんと移動

 朋夏と慧一くんを苦しめていたストーカーが逮捕された翌日は土曜日なのだけど、BS鶴亀大崎の番組テーマソング収録日。朋夏は一日収録スタジオに詰めて、仕事の合間にやってくるみんなを待ち構えるそうだ。私は朝から無地逸品さんのCM収録をこなしたあと、南青山の収録スタジオに立ち寄って収録、となる。


 警察の事情聴取で出かける圭司と朝食を取りながら10日から連載している『単なる木こりなのに回復役はそんなにいりません!』の感想を伝える。


未亜「圭司の新作読んだけど、面白いね。」

圭司「ありがとう!まだ2回分だけどけっこうPVが伸びてて、いまはデイリーだとせまじょより多いんだよね。」

未亜「そんなに伸びているんだ!」

圭司「うん、恋愛ものを期待している人はやっぱり多かったみたいだな。」

未亜「狙いはバッチリだったね。」


 やっぱり雨東先生の恋愛ものは求められていたんだよ。なんかちょっと展開が急なところがある感じはしたけど、それも書き慣れてきたらきっと良くなっていくんだろうなあ。楽しみ!


 今日はメイキング映像の撮影もあるので、あらかじめさみあんモードになってから家を7時に出ると地下の車路で太田さんと合流、BS鶴亀大崎の入構証を受けとる。これがないと収録で毎回手続きしないといけないから無事に発行されて良かった!

 入構証をもらうとすぐに出発、CM撮影をする祖師ヶ谷大蔵の国際映像スタジオまで向かう。打ち合わせと台本の読み合わせをした上で、すぐ撮影に入ったけど、慣れていないこともあって、なかなか大変。監督さんやスタッフさんだけでなく、太田さんにもアドバイスをもらいながら撮影を丁寧に進めていく。駅とかに張り出す交通広告や店内ポスターなども含めたすべての撮影を17時少し前に完了。そういえば演技の基礎みたいなところは特に問題点を指摘されなかったから良かった!広告展開が楽しみ!


 楽屋で通常モードになってしまってから太田さんと一緒にテーマソングの収録スタジオへ。前の社用車に乗る時は後部座席に座っていたけど、新しい社用車は全体的に大きいので、ほかに誰かと同乗するときやさみあんモードになっているとき以外は助手席に座らせてもらっている。確かに会話しやすい装置はあるけど、やっぱり隣の方が会話しやすいんだよー。


未亜「太田さんとは久しぶりに移動する感じですね。」

太田「そうね。瑠乃がいま一番大事な時期だからどうしてもね。今日の瑠乃は、収録まで事務所でレッスンだし、美愛の初CMには立ち会いたかったからね。」


 太田さんは瑠乃にかかりきりだけど、デビューしたばかりの今の時期が一番大切だもんね。


未亜「いえいえ!あっ、そういえば、例の件、逮捕まで行きましたけど、特例でいろいろとしていただいていたのって解除されるんですか?」

太田「まだ調整中のところはあるんだけど、とりあえず業務委託でお願いしている件とかマネージャの送り迎えとかは2月末までになると思う。ただ、そのあとも何があるかまだ判らないから、エレベーターの停止設定はとりあえずそのままにしておくっていう方向で話が進んでいるわね。」

未亜「なるほど。じゃあまた改めてその辺は指示とかがある感じですね?」

太田「そうね。あなたたちが安比に行っている間に諸々の方針が決まると思うからゆっくり楽しんできて。」

未亜「判りました!」

太田「ちなみにあなたたちが安比へ行っているタイミングで私も3連休もらうことにしたから。」

未亜「あっ、そうなんですね。太田さんもゆっくりして下さい!」

太田「うん、ありがとう。まあ、子どもが二人とも卒業間近だからねー。」

未亜「そういえば進路は決まったんですか?」


 前に太田さんからお子さんが二人とも中学受験をされると聞いていたんだよね。


太田「二人とも第一志望に合格したわよ。息子は葛池かついけに受かってくれた。」

未亜「あっ、弟が葛池です!」

太田「あら?そうなのね。そうしたら後輩ね。」

未亜「でも、今年で卒業なんですよ。」

太田「まあ、でもあそこは同窓会がすごい強固だって聞いているから今後関わりもあるかもね。」

未亜「そうかもしれません!」

太田「あと娘は横宗女学院。」

未亜「娘さんは太田さんと百合ちゃんの後輩になるんですね。」

太田「そうなの!娘がまさか母校を選んでくれると思わなくてね。受けたいって聞いたときには嬉しかったわ。横宗大までいければ夫から見ても後輩になるからやっぱり嬉しいわよね。」

未亜「やっぱりそうなんですね。」


 収録スタジオまで移動する間、雑談が続く。瑠乃自身の話も話題になり、舞台やドラマの端役を中心にオーディションを受けていて、あとは大崎のタレントがMCをしているラジオ番組にゲスト出演させてもらって名前を売っているところだそうだ。やっぱり私ともここなちゃんとも戦略が異なるんだなあ。


太田「そうそう!瑠乃はトークがすごい評判なのよ。それで早いところ、MeTubeとスマイルに公式チャンネルを持たせたらどうかっていう話が出ている。」

未亜「えっ!?すごいですね。」

太田「米花さんが一番乗り気でね。なんかもう社内だけじゃなくてゴッゴル社やドニャンコ社ともやりとりはじめたって。開設されたらそのうちゲストに美愛をアサインするつもりだからよろしくね。」

未亜「ぜひ!楽しみにしています!」


 瑠乃もなかなかすごいんだなあ。私も負けないように頑張らないと。18時少し前くらいにスタジオへ入ると瑠乃がまだ収録をしていて、結局、瑠乃は時間ギリギリ18時まで収録して、OKが出たみたい。次の予定があるということでちょっとあいさつしただけで太田さんと一緒にすぐ立ち去ってしまった。


 私の方の収録は1時間くらいであっさり完了。いつもの南青山、しかもエンジニアさんとかも全員ブラジリアのスタッフさんばかりで、慣れた雰囲気で出来る安心感がすごかったからかも。自分の歌うパートだけを歌うのかと思ったら全部通しで収録された。みんな全部収録してあるのだとか。ソロバージョンをどこかで使うのかもね。

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