第213話○みんなでテスト、もうひとつのテスト

 いよいよ2回目のテスト週間に突入する。


 テスト中だけど最低限の仕事はあって、木曜日は紅白の衣装協力をしてくれたアパレルメーカー・オフエクセルさんの取材を受けるために日本橋へ向かう。紅白の時に着た衣装を再び着てインタビューを受けたけど、あの衣装はやっぱりとても素敵だった。3月と4月のライブでまた着られるのが楽しみ!

 金曜日は圭司が心療内科で、私はラジオ。ラジオの方はなんかもう台本があってないような感じになってきた!だいぶ慣れてきて、このまま終わるのがなんかもったいない感じもしてくるよね。


 そして、土日はみんなでデンキトに集まって最終日に試験のある「消費者行動入門」の試験対策。小論文と普通のテストが組み合わさっている一番の強敵ということで、圭司以外に明貴子とすっかり仲間内になった磨奈も持っていた講義情報雑誌ガイドブック試験対策号アンチョコ、そして幸大くんが履修要覧シラバスを持ち寄り、あれこれとディスカッションを実際にしながら授業内容の理解をもう一度深めていく。

 春学期の時は圭司と二人だけだったのがこんなにも多くのみんなであれこれ言い合いながらテストの対策を出来るのは本当に隔世の感がある。私にとっては圭司との出会いがすべての始まりだったわけだけど、誰一人欠けてもこうはならなかったわけで、きだまきしさんが「いつでも出逢いは偶然と必然の間」と歌っている歌詞が身に沁みる。あっ、実は6月に東京ユニオンフォーラム大ホールで開催されるきださんのコンサートへ本当にご招待いただいたので、10枚くらい出ているベスト盤からできるだけ曲が重複しないように購入して、圭司と一緒に聞いているんだよね。私がいままで聴いてきた音楽とは全然違った曲調だけど、とても素敵な曲と歌詞で、やっぱり長年活躍されているミュージシャンはすごいなあ、と感心している。

 ほんと、ここまでみんなで頑張ったんだからみんなで無事に全単位取得したいなあ。結果はもうあとは2月25日まで待つしかないけどね。


 そんなテスト最終日の1月31日、テストから無事に解放されたあと、大学の近くから私の手配したワゴンタクシーに私、圭司、彩春、朋夏、慧一くん、瑠乃、華菜恵の7人で乗り込んで事務所へ向かう。


 私は定期配信の3回目、圭司は事務所でKAKUKAWAの白子さんたちと打ち合わせをしたあとに私の定期配信に立ち会ってくれる。朋夏も久しぶりに事務所で配信、慧一くんと華菜恵はバイト、瑠乃はなんと本所属のための最終選考ということで、じゃあみんなで事務所へ行こうと私がワゴンタクシーを手配してみた!


 秋学期の試験前に瑠乃は太田さんから「レッスンは一通りOKが出た。コンプライアンスとかのテストも合格。あとは最終選考をするから1月31日の17時から時間頂戴ね。」といわれたそうだ。3か月って早いな、と思ったけど、瑠乃の意気込みはすごかったから相当頑張ったんだろうな。


「未亜も最終選考受けたんだよね?」

「うん、私も受けたよ。」

「どんな感じだった?」

「うーん、そうだなあ。」


 私が最終選考を受けたときは、審査員が3人と立ち会いのタレント1人、あとは事務を手伝うアシスタントさんという構成で行われた。審査員の3人は、マネージメント事業部事業本部長の笹原さん・アイドルセクションでセクションリーダーを務める米花よねか宏和ひろかずさんだった。立ち会いのタレントはなんと鶴本さん!アシスタントは米花さんのところでアシスタントマネージャをしている方が担当してくれた。立ち会いのタレントは演技試験で掛け合いの相手をするために同席している。ちなみに本所属になったあと、太田さんからは「ちゃんとオーディションとかに出せるレベルになっていないと営業する意味がないから、そもそもマネージャも最終選考のOK出さないのね。だから、よほどのことがない限り、実は不合格にならないのよ。まあ、えらい人も確認したよっていう形式的な儀式みたいなものね。」といわれたけど、もちろん瑠乃には話さない。よほどのことになっちゃうと困るからね……。


「私も一緒かな?」

「うん、審査員は同じじゃないかな?立ち会いのタレントは誰か判らないけど、私の予定が同じタイミングで抑えられているからなんとなく私のような気がする。」

「未亜だと嬉しいかも!」

「アシスタントさんは今回もいるのか判らないけどね。」

「それ、多分私のような気がする。私も試験初日にここは絶対バイトに来てねっていわれたよ。」

「おおっ!二人も親友がいるならこんなに嬉しいことはないなあ。」


 事務所に着くまでに瑠乃の緊張も少しほぐれたかな?

 ワゴンタクシーはそのまま地下一階に入っていく。みんなで降車したあとは、私・瑠乃・華菜恵の三人だけで11階の太田さんのデスクへ向かう。あとのメンバーはそれぞれの目的地へ散っていく。


 11階に着くとエレベーターホール脇のオープンスペースにある4人掛けのテーブルのところで、花束を持った女性が、笠原さん、米花さん、もう一人顔を見かけた記憶のある男性と泣きながら話をしている。泣いている女性の顔は見たことがあるようなないような。


「どうしたの?」


 あっ、太田さんのところに急がないと。


「ううん、なんでもない。」


 エレベーターホールからまっすく進み、最初のセキュリティドアをカードキーで開けて中に入って3つめの個室が太田さんのデスク。太田さんが中の机に座って仕事をしているのが見える。


「おはようございます!」

「瑠乃、おはよう。二人も。」

「「おはようございます。」」

「美愛は薄々気がついていると思うけど、今日の瑠乃の最終審査、立ち会いをお願いね。」

「判りました!」

「華菜恵は事務処理のところでお手伝いをお願い。」

「はい、判りました。」


 気がついたら太田さんが華菜恵のことを名前で呼んでいる。すっかり身内になったっていうことだね。


「瑠乃はトレーニングウェアに着替えてレッスンスタジオの19D01へ来てね。」

「はい!」

「二人には19D01で先に今日の流れの説明をするから一緒に付いてきて。」

「「はい。」」


 19D01に着くと今日の段取りについて、説明を受ける。基本的に私は演技の時だけ登場するとのこと。華菜恵は審査員が付ける点数をその場で集計して記録に残す役割だそうだ。今日の19D01には私が受けた時と同じように長机が2台とパイプイスが6脚、あとノートパソコンが1台用意されていた。


「美愛、そういえばこの最終選考の裏話はしちゃった?」

「してないです!」

「さすが、美愛ね。うん、それでOKよ。」


 説明をほぼ受け終わったところでちょうど瑠乃がやってきた。


「来たわね。じゃあ、審査員を呼ぶからそっちで軽く柔軟しておいて。」


 いよいよ瑠乃のもう一つのテストが始まるんだね!こちらも無事に終わりますように!

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