第222話○百合ちゃんの芸名と一人暮らし

 8日は朝からジャパンテレビの「のんびり街歩きの旅」をロケ収録するため、朝早くから出かける。「のんびり街歩きの旅」は前に東京地下高速の千代田線をロケしたことがあって、今回収録する東京地下高速日比谷線は2回目の出演。ロケそのものは予定通り夕方までで終了する。


 ロケ後は「打ち合わせ(事務所、W.先生)」という予定が入っている。移動している途中に太田さんからTlackで、事務所に着いたら着替えてしまってかまわないという連絡をもらったので、地下のタクシー降車場からそのまま更衣室へ行って着替えてしまう。


 連絡の来ていたミーティングルームSへ行くと太田さんと圭司の他になんと百合ちゃんもいた!


「早緑さん、おはようございます!」

「百合ちゃん、おはよう!改めて大学合格おめでとう!」

「ありがとうございます!」

「今日は百合から美愛へお願いがあって、集まってもらったの。あとは百合お願いね。」

「はい!大学に合格したのであとは本所属に向けてがんばるだけなんですけど、実は芸名のことで早緑さんに相談があります。」

「えっ!?どんなこと?」

「はい!私、さみどりゆりっていう芸名にしたいんです!」

「ええっ!?私と同じ名字にするの!?」

「そうなんです。早緑さんはこれまで色々な相談にも乗って下さいましたし、私にとっては兄のフィアンセで私の義理のお姉さんというだけじゃなくて、なんか本当のお姉さんみたいな感じがしていて、芸能界では同じ名字の芸名で活動したいって思うんです。」

「太田さん、今日、こうやって打ち合わせが設定されたということは事務所としては問題ないっていうことなんですよね?」

「そうよ。」

「雨東さんの実家は問題ないんですか?」

「実はそこも了承もらってある。」

「そうなんですね。雨東さんもOKなのかな?」

「うん、俺は問題ない。二人が仲良くしてくれるのが一番だから。」

「そっか!じゃあ、私も問題ないです。というか、うれしいです!百合ちゃん、よろしくね!」

「早緑さん!ありがとうございます!」

「あっそれ。百合ちゃんも早緑さんになるわけだから名前で呼んでね!」

「あっ、そうですね!改めて美愛さん、よろしくお願いします!」

「うん!ところで太田さん、百合ちゃんの芸名って、漢字はどう書くんですか?」

「優しいに瑠璃の璃で優璃ゆりよ。」

「へー!いい名前ですね!」

「ありがとうございます!一生懸命考えたんです!」

「正式デビューの折には先生の妹である、というラインで公表するけど、共演依頼は義姉ぎしであり、同じ名字の芸名になる美愛の方にたくさん来ると思うし、私もその方向で営業するからよろしくね。」

「大歓迎です!優璃ちゃん、一緒に頑張ろう!」

「美愛さん、よろしくおねがいします!」


 ミーティングルームSはしばらく押さえてある、ということで太田さんが瑠乃の営業連絡で席を外している間も圭司と百合ちゃんの三人で雑談をする。そんな中、百合ちゃんがぽつりと愚痴を漏らした。


「実は、大学に入学したあとは家に帰るのが大変になるので、一人暮らしをしたいんですけど、両親に反対されているんです……。女の子の一人暮らしは危ないからって。」

「それはうちの親も同じことをいっていたからなあ。」

「実は前みたいなことがないようにちゃんとアイドル活動も大学の勉強もしっかりやりたいから通学時間を減らしたいっていうちゃんと理由を説明しているんですけどね。」

「父さんならなんか妥協案を出してくれそうだけどな。」

「実はお兄ちゃんと同じ事務所のマンションならいいよって、いわれているんだよね。でも、太田さんに聞いたら1Kは空いてないっていうから。さすがにまだ新人アイドルの私だと大きい部屋の負担金は出せないんだけど、親に出してもらうのもおかしいからいやなんだよねー。」

「そりゃそうだろうな。でも、俺が少し出すって言うのも変な話だしな。」

「シェアルームしてくれる人がいるといいんだけど、高校の友達とするわけにもいかないから困っちゃって。」

「何かいいアイデアがないか俺も考えるよ。」

「私も考えるね。」

「お兄ちゃんも美愛さんもありがとうございます!」


 こればかりはなかなか難しいよね。シェアハウスともなるとある程度親しい人じゃないとダメだし。少し話が途切れたところで、ドアをノックする音がする。


「お待たせ。」

「あめっち、さみっち、ゆりっち、お疲れ!あっ、そうだ。ゆりっちの芸名が早緑さんになるって太田さんから聞いたよ!」

「華菜恵の耳にも入ったんだね。うん、嬉しい話をもらったんだ。」

「いい話だよね!うーん、そうしたらさみっちだと二人のどっちか判らなくなっちゃうから大学と同じになっちゃうけど、みあっちって呼んでいいかな?」

「もちろん!それの方が呼ばれ慣れているからね!」

「じゃあ、今日から職場でもみあっちって呼ぶね。」

「華菜恵、よろしく!」

「私が瑠乃の営業を掛けている間、三人は何の話をしていたの?」

「あー、太田さん、私の一人暮らしの件です。誰かシェアハウスしてくれる人がいるといいよねって。」

「えっ、ゆりっち、実家出たいの?」

「そうなんです。大学の勉強もアイドル活動もしっかりやろうとすると実家通いで片道1時間以上かかるのはキツくて……。親もお兄ちゃんと同じマンションならいいよっていってくれているんですけど、私でも払えそうな1Kは全部埋まっているらしいんですよ。」

「2LDKのところとか月10万くらいだったはずだから同居してくれる人がほかにもいれば住めるけどね。」

「私の場合、タレント同士じゃないとダメなんですよね?」

「百合、そんなことないわよ。というか、トップタレントの中には壊滅的に生活力のない人がけっこういるのよ。そういう人だと借り上げタワマンの最上階でマネージャと共同生活して日常の面倒までマネージャが見る、なんてケースも本当にあるの。だからタレントと社員の同居をNGにしちゃうとゴミ屋敷がそこらじゅうに出来ちゃう。」

「そんなことがあるんですね!?」

「太田さん、例えば、なんですけど、それってアルバイトとかでもタレントとシェアハウスするのは可能なんですか?」

「えっ?……あっ、華菜恵、なるほどね。それなら問題ないわよ。」

「相手はアルバイトさんでもいいんですね!?ということは、タレントさんのほうも誰でもいいんですか?」

「美愛がそう考えたくなるのはもっともだけど、このケースではタレントの方は本所属に限るの。少ないケースだけど仮所属のまま、契約満了っていうこともなくはないからね。でも、そこさえ充たせば、朱鷺野先生と瑠乃みたいに本人たちが合意して、さらに未成年の場合は保護者が許諾すれば、ほかの事務所は知らないけど、大崎うちとしてはOKよ。」

「ありがとうございます!そんなわけで、百合ちゃん、私とシェアハウスしよう!」

「ええっ!?いいんですか!?」

「うん、問題ないよ!」

「実は華菜恵から仕事が大変なんで、市川に帰るのは辛い、大学から近いあのマンションに住みたいって前から相談されていたの。大崎はアルバイトでも事務所の物件に住めるんだけど、あそこ1Kの負担金がほかの物件より安いからいつも満室なのよ。」

「私と同じ状況だったんですね。」

「うん、そういうこと。百合と華菜恵がそんなに仲いいって知らなかったからシェアハウスの提案しなかったんだけど、もっと早くしていれば良かったわね。」

「そうだったんですね。華菜恵さん!私の方こそよろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくね!」

「まあ、いま説明したように百合が同居出来るのは、本所属になってからだけどね。」

「あれ?私たちの時は雨東先生は特に大崎所属じゃなくても問題なかったですよね?」

「そうよ。本所属タレントと社員という組み合わせ以外の場合、本所属タレントと家族ないしは会社が認めた人、正社員と家族ないしは会社が認めた人は問題ないっていう決まり。雨東先生の時は交際を公表する予定だったから会社からの許可が下りて問題なかったの。今回のケースだと華菜恵が正社員だったら百合は雨東先生の家族だし、問題なく会社からの許可が下りたと思う。」

「なるほど……。」

「とりあえず、マスケイさんの件もあるから華菜恵は先に入居出来るように減額の部分も含めて、手配はしておくわ。二人ともこの書面にご両親の許諾を書いてもらって、提出してね。先に書面がもらえれば百合は本所属になり次第、すぐ入居出来るわよ。」

「「わかりました!」」


 あのマンションに住む仲間もどんどん増えるね!あと入りそうな人はいるかな?

 紅葉は、志満とか高校の時の漫研仲間にアシスタントに来てもらっているっていっていたから、事務所の物件で出入りに制限かかるこのマンションには住まないだろうし、幸大くんも紅葉の家の方に引っ越すっていっていたから、同じ事務所に所属している仲間内だともう入らない感じだね。それでもだいぶたくさんになった!またホームパーティしたいなあ。

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