第128話●みんなの未来
誕生会は、紗和さんと未亜の話を受けて、ちょっとしんみりしたもののそのあとすぐに朋夏さんがいい感じに話題を変え、それに彩春さんが乗っかって、楽しくお開きになった。やっぱりこの二人は俺たちのムードメーカーだよ。
そして、あの瞬間からみんな何かをいったわけでもないのに紗和さんと俺の呼び方がファーストネームにきっちり変わっていたのはすごかった。心菜ちゃんに「圭司さん」と呼ばれたのはちょっと驚いたけど。
もちろん、事務所や現場では従来通りということで、話をしてある。
そんな感じでみんなの関係がより近くなった誕生会も終わり、秋はますます深まっていく。
未亜は朝早くから出かけて、ジャパン放送の「ザ・ヒットミュージックサンデー」というラジオ生放送で10時台コーナーゲストとして生出演したあと、午後はなんと一日消防署長の仕事をすることになっている。いまはちょうど秋の全国火災予防運動の期間中で、事務所の近くにある市谷消防署から「ぜひ早緑さんに」と依頼があったそうだ。そういう話を聞くと未亜はやっぱりアイドルなんだ、と改めて認識する。そのあと夜には18時から事務所でConConの取材。ファッション誌の取材も最近すっかり定番になっているなあ。
二人でモーニングを食べているときに自然と明日の話が出る。
「明日、いよいよ発表だな。」
「うん、緊張するけど、ConConの取材が終わったらそのまま帰ってこられるから今日はゆっくりしたいかも。」
「今日もまたご飯作っておくよ。」
「ありがとう!お願いします!」
未亜が出かけたあと、俺の方は主に5巻の書籍化作業、そして締め切りの近い単発の原稿で一日を費やした。気がついたら既に17時を回っている。作業に集中しすぎてお昼を食べ損ねた……。
スマホを見ると父さんからのメッセが届いている。ディナーショーで未亜のご両親が一緒の会場に来ることを伝えた件で、緊張するけど問題ないとの返信だった。未亜はテーブルにいないけど、まあ、陽介さんもいい人だからまあなんとかなるだろう。
メッセージの処理をしたあと、冷蔵庫の中身を確認して、今日はレタス炒飯を作ることにした。前はほとんど出来なかった料理も最近はレシピを見ないで作れるレパートリーが増えている。
20時過ぎて、そろそろ帰ってくるかな、と思っていたらチャイムが鳴った。
ピンポーン
「未亜、おかえり。」
「圭司、ただいま!」
おかえりのキスをして、今日はなんとなくそのままハグをしたら未亜が目を丸くして、顔を真っ赤にしていた。そういう所もとてもかわいい。
未亜が着替えている間に炒飯を炒めてしまう。IHなのでぱらっとは出来ないけど、まあそれなりの出来にはなった。
晩ご飯を食べながら明日からの話をする。
「昨日の誕生会で、みんな名前で呼び合うことになったけど、俺が名前呼びに変わる件を慧一と幸大にどう伝えようか。」
「うーん、そうだね。私からお願いしたっていうことでいいんじゃないかな。」
「未亜のお願い?」
「うん、名字で呼び合っているのがなんか他人行儀過ぎて違和感があるから私からお願いしたって。」
「うーん……。あっ、そうだ!未亜としては慧一と幸大にも名字じゃなくて名前で呼び合って欲しいんじゃない?」
「えっ!?うん、出来ればそうしたいけど……。圭司はともかくあとの二人は男性だし、みんなどう思うかな。」
「今すぐは難しくても提案すること自体で何かいわれることは間違いなくないよ。みんなちゃんと思うところを率直に言ってくれる。大丈夫、わかり合えたんだから。」
「……うん、そうだよね!」
「そうしたら俺から事務所仲間のグルチャで投げて、説明するよ。みんなの同意がもらえたら大学仲間のグルチャに未亜から名前で呼び合いたいって投げてもらうっていうことでどうかな。」
「いいね!そうしよう!」
事務所仲間のグルチャへ投げたところ、女性陣四人とも賛同してくれた。明貴子さんはかなり乗り気で、「そういうのってなんか仲間って感じがしていいよね!」っていっていた。こういうの好きなタイプだったんだな。紗和さんと心菜ちゃんにはよくわからない話だったはずだけど、「そういう関係いいなあ」ってうらやましがられた。
そのあと、未亜が大学仲間のグルチャに提案を投げた。朋夏さんが真っ先に賛成して、少し遅れて、彩春さんと瑠乃さんも賛成、明貴子さんはわざと「みんながいいならいいよ」って書いていたけど、さっきあんなに賛成していたのにって未亜と二人で笑い合った。慧一は普通に賛成。幸大は少し戸惑っていたけど、そういうことならってなって、週明けからみんなファーストネームで呼び合うことになった。
「私のわがままをみんな聴いてくれて本当に嬉しいな。」
「明貴子さんじゃないけど、ほんと『仲間』って感じがするよ。」
「この前相談したこともね、まだ自分の中で言葉が上手くまとまらないんだけど、私の勘違いなのかもって思うんだ。」
「そか。」
「うん、新しい友人関係を上手く軌道に乗せてくれた朋夏もそうだし、誕生会で話を聞いてくれたみんなもそう。あらためて接してみて、私が一人で勝手に思い込んでいるだけなんじゃないかって。もう少し考えてまた圭司に話をするね。」
「判った、話したくなったらいつでも聞くからね。」
「……圭司、本当にありがとうね。」
「ん?なにが?」
「私と出会って、好きになってくれて。」
「『全員がそれぞれ導かれる存在だったということね。その証拠にほらみんながみんな笑顔になっている。』だよ。」
「圭司が雨東先生の作品からセリフを!」
「……これでも原作者だからな。」
「あっ、そうだった!」
そういって、笑い合った。
この半年、本当にいろんなことがあったけど、未亜と出会えて本当に良かった。もし未亜と出会えていなかったら、と想像することすらできないくらい、本当に幸せだ。未亜と二人で、そしてみんなと一緒に幸せな未来を目指そう。
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