第127話○二人の誕生会
ディナーショーはせっかくなので、うちの家族と圭司のご家族にも声を掛けた。さすがに弟の
そして、今日は二人の誕生ホームパーティ。18時から始めることにしているけどその前に私は5thアルバムの収録だ。南青山の収録スタジオに着くと古宇田さんが待ち構えていた。
「最後の7曲が出来てきました。いつも通りCD-Rに仮歌とオケを一曲ずつ焼いたので確認お願いします。あとこちらがタイトルで、作家の皆さんのお名前も入れてあります。」
古宇田さんからCDと紙を一枚受け取る。
「ありがとうございます!……儘田さんの曲も2曲あるんですね!」
「儘田さんはうちの主力作家ですからね。主力シンガーの早緑さんの曲を書いてもらうのは当然ですよ。5thを出すって決まった時点で最初に依頼したんですけど、3枚組になると決まったときにもう一曲追加発注して、最終的に締め切りギリギリに上がってきました。かなり気合いが入っていたみたいです。」
「嬉しいですね。」
今日の収録も順調に推移した。4thアルバムの時は本当に精神的にも辛い中で、かなり四苦八苦したけど、気持ちが変わるだけでこんなにも違うのか、とびっくりする。たぶん、圭司がいろいろと感想を話してくれるのも役立っているんだよなあ。二人で一緒に前に進めている感じがして本当に嬉しい。
南青山の収録スタジオを16時に出るとそのままタクシーで家へ帰る。時間がギリギリだけど、飾り付けなんかは昨日のうちに四人で済ませたから問題なし。おとといのうちに圭司が頼んだケータリングは、17時に早々と持ってきてくれて、そのまま警備員さんがうちまで運んでくれた、と圭司からRINEが来ていたから安心。飲み物も近くのスーパーで圭司が買ってくれたし、コーヒーも既に圭司が準備をしてくれている。こうやって確認すると全部圭司におまかせになっちゃっている!あんなことがあってまだそんなに経っていないのにここまで回復したのはみんなのおかげだよね……。
帰宅して、キスをして、荷物を部屋に置いてから、改めてセッティングを二人で確認する。
「よし、体制は万全だね。」
「うん、大丈夫だな。」
18時少し前に瑠乃と明貴子がやってきた。既に瑠乃は仮所属の手続き済み、明貴子は仮所属を飛ばして本所属になったけど、このマンションに住んでいるわけではないので、太田さん経由で入館の手続きを済ませておいた。太田さんから二人へ1階の警備員室で名前を名乗ると事前手続きがあるかを大崎のシステムで確認して、問題なければ警備員室のエレベータ操作で18階まで上がれる仕組みを説明してくれた。
次に紗和がやってくる。ここなちゃんが彩春・朋夏と一緒に来て、全員そろった。
発起人である彩春の発声で乾杯をして、みんなで話をしながらご飯を食べる。大人数で賑やかに食べるご飯もやっぱり楽しいし嬉しい。
賑やかに食事を終えて、デザートまで来たところで、彩春がここなちゃんと紗和に今日の感想を聴いた。ここなちゃんは普通に嬉しかったという感想を述べる。紗和の番が来て、私はいよいよあの話をするのだろうと思うとともに自分のことも考えて思いを新たにする。
紗和は立って話し始める。
「今日は本当にありがとうございます。いままでリアルでの友人がいなくて、ホームパーティをしたことのない私にとって、すべてがはじめてのことでとても楽しかったです。」
紗和が高校の時に引きこもっていたことは、朋夏が三人を連れ回している間に紗和から瑠乃と明貴子へ直接伝えた、と聞いている。
「明るいこんな集まりでこういう話をするのは良くないかもしれないんですけど、大好きで信頼している皆さんには私がなぜ高校に通えなかったのか、過去をちゃんと知って欲しくて。だから聞いて下さい。私の本名は甘巻紗和といいます。中学3年生の頃、雨東先生……いえ、高倉くんとは同級生でした……。」
だんだん声が震えてくる紗和。隣に座っていた私は思わず紗和の手を握ってしまう。びっくりした顔でこちらを見て一回頷くと再び話し始める。
「気がついた人もいると思いますが、高倉くんと一緒に被害を受けたもう一人の当事者は私なんです。それがきっかけで、私は男性恐怖症になって、外出も出来なくなって、中学には行けなくなり、高校も通信課程を選びました。」
紗和の眼から止めどなく流れる涙。
「縁があって、早緑さんに曲を書かせてもらって、報道で早緑さんの交際相手が雨東先生だと知って、そして雨東先生の事件報道で雨東先生が高倉くんだと判って。たとえ忌まわしい連中に強制されたとはいっても早緑さんの最愛の人と男女の関係になってしまっていた私の曲を歌っていただくべきではないと私は思ったので、東京まで謝罪に来ました。そうしたら早緑さんは……私と……そんな私と友達になろうっていってくれて……。」
私は紗和の抱えている輪廻を打ち壊したかったんだ。
「皆さんにはこの話を知っておいて欲しくて。二人にも許可をもらって、いま話をしています。私のことを軽蔑した人もいらっしゃるかもしれません。でももしよろしければ、いままで通り仲良くしてもらえたら嬉しいです。」
朋夏が突然立ち上がって、紗和に抱きついた。
「儘田先生!そんなに辛いことを話してくれてありがとう。高倉くんも未亜も儘田先生が話すことを認めてくれてありがとう。私はそれを聴いても儘田先生のことを親友だと思っているよ!いままで苦しんだ分はみんなで楽しんでさ、取り返していこうよ!私はいつまでも儘田先生の親友だよ!」
みんなうなずきながら泣いている。私も立ち上がって話し始める。
「私からも一ついいかな。」
みんなの視線が私に集まる。
「私は圭司からすべてを聴いていて、その上で紗和と友達になりたいって、そう思った。」
「未亜、ありがとう……。」
「うん、大丈夫だよ。それでね、いい機会だから、なぜ私がファーストネーム呼びにこだわるのか、今日はその話をして私の思いをみんなに伝えたいと思う。私の中学の頃の話なんだけど、聴いて欲しい。」
私はこの前、圭司と紗和にした話をみんなにする。涙が止まっていたみんなが再び泣き始めた。
「未亜にそんな過去があったんだね……。私全然知らなかったよ……。」
「朋夏、ごめんね。前に理由を聞かれたことがあったけど、この話をしちゃうとみんながみんなファーストネームで呼ぶのを強制する、みたいになるからね……。でも今日は、紗和が頑張って自分の過去と気持ちをみんなに伝えたから、私も自分の過去と気持ちを全部正直に伝えたかったんだ。」
「うん、ありがとう……。」
「未亜が私たちのことを信頼してくれているのがすごくよく判るよ。だから嬉しいっていう返答をするね。」
「こちらこそだよ、彩春が今日の機会を作ってくれたんだよ……。」
みんな泣きながら賛同してくれた。よかった……。でも、
「あっ!心菜ちゃんは年上を呼び捨ては無理だと思うから安心してね!私もちゃん付けで呼びたいし。」
「あっ、はい!ありがとうございます!」
うっかりしていたよ……。
私のわがままだけど、みんなが受け入れてくれて本当に嬉しい。やっぱり私が勝手にいろいろと思い込んでいるだけなのかも。もう少しちゃんと考えて改めて圭司に話をしてみよう。やっぱりこの関係はありがたい。本当にみんな、ありがとう……。
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