第100話●○早緑美愛の冬はさみどりいろ初回放送!
百合のオーディションが無事に終わると太田さんは直前まで隠し球として内緒にしておく鶴本さんの予定が空いているタイミングを確認する。明後日30日なら、13時から14時まで仕事で事務所に来ていて、そのあとは16時までは事務所にいられるとのことで、その時間にすべく、太田さんから父さんへ連絡を取る。そして電話で日程の調整が行われ、無事、30日14時に事務所へ両親がやってきての話し合いをすることが決まった。課題は全部クリア出来ている。鶴本さんもOK。あとはうちの親に納得してもらうだけだ。
そして、今日、ついに未亜の初めての冠番組「早緑美愛の冬はさみどりいろ」が初オンエアだ。「早緑美愛の冬はさみどりいろ」という番組名は、未亜がいくつか出した候補の一つで、個人的に一押しだったのでこれに決まってくれてとても嬉しい。
当初は家で録音をしながら聴こうと思っていたのだが、いま俺はなぜか浜松町の文明放送にいる。
「美愛の初冠番組よ。先生が立ち会わずして誰が立ち会うのよ。しかも今回は立ち会うのが仕事よ。ギャラもちゃんと出るから来てね。」
もちろん、太田さんの発言。
太田さんによると先日の記者会見のおかげで、二人の関係がきわめて強固なのが知られただけでなく、世の中の見方がなぜか「結婚秒読みか」という方向に行っており、記者会見の直後から二人セットでの出演依頼などが急に増えているそうだ。確かにこの前週刊民衆の記事を見せてもらったな……。
「雨東は顔出しNGなので」ということでお断りしてくれているが、顔も声も出さなければいいんですよね?ということで押し切ったのが、未亜の番組を担当しているディレクターの
どうも今日は「雨東晴西がスタジオの外にいる」というのが俺の仕事らしい。台本を見せてもらえなかったので、それがなぜ仕事になるのか判らないが、とりあえず、オンエアまであと5分。待つことしか出来ない。
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いよいよ、初オンエア!とても緊張しているけど、圭司が見守ってくれているので、わくわくもしている!
定時になった。ヘッドホンからトークバックで戸城さんのキューが出る。私はマイクのカフをオンにする。
「みなさん!こんばんは!早緑美愛です!ついに私のラジオが始まりました。ラジオでこうやって一人で話をするというのが初めてなのでものすごい緊張していますが、頑張りますので最後までお付き合い下さい!……早緑美愛の冬はさみどりいろ、この番組は浜松町の文明放送をキーステーションに全国21局を結んでお送りいたします。」
『CMはいります。』
ヘッドホンから戸城さんの声が聞こえたのでカフを下ろす。
『早緑さん、なかなかいい感じですよ。台本を上手く使いながらトークして下さいね。』
私は手を上げる。
『CMあけます。』
戸城さんのコールでカフを上げる。
「……あらためまして、早緑美愛です。この番組で私のことを初めて知ってくれた方とかもいらっしゃると思うので、まずは自己紹介をさせて下さい。名前はさみどりみあといいます。漢字では、早い緑に美しい愛、と書きます。アイドルシンガーをメインにしていますが、最近はいろいろな番組に出させていただいているので、ファンレターではお笑いのかただと思われている方もいらっしゃいました。一応アイドルなので、そこはよろしくお願いします。年齢とかは非公表だったんですが、少し前に週刊誌のインタビューに答えた際にいま大学生であることを公表しました。」
ここまで順調かな。話をしながら前に座っている構成作家の
「あと、私生活では、そのインタビューの時に公表したのですが、Web小説家の雨東晴西さんとお付き合いさせていただいています。あらためて、先日の番組会見では、皆様をお騒がせしましたことをお詫びいたします。あっ、今日、実は雨東さんがブースの外で見守ってくれているのですが、彼もほぼ同時にお辞儀してます。ラジオで、しかもブースの外にいるのでお辞儀しても見えないんですけどね。雨東さんはリアルではそんな感じの方です。」
ちなみにこれはほぼ台本通りのセリフ。お辞儀をしなかった場合は笑顔で見守ってくれている、という原稿の方になる予定だった。台本を見ていない圭司は呼ばれた理由をいま理解したみたいで苦笑いしているのが横目でも判る。
「ということで、私がどんなアイドルシンガーなのかを知っていただくべく、記念すべき一曲目は僭越ながら私の曲を掛けさせていただきたいと思います。この曲がラジオのリクエスト番組で話題になったおかげで、収録されている3枚目のアルバムがランキングに初めて入った、そんな思い出に残っている一曲です。では、聴いて下さい。早緑美愛で『私発あなた行き』です、どうぞ!」
『曲はいりました。曲からそのままCM行きます。CMあけにまたコールします。』
ここでカフを下ろす。
曲自体は5分くらいあるけど、ラジオなので1番だけ流れてそのままCMに行く。
『早緑さん、いいですよ。本当にラジオ初めて?そのうち、30分の番組とかもやってほしいなあ。』
構成作家さんが声を出さずに大笑いしている。私は赤くなって恐縮するばかりだ。
15分番組といっても前後にCMが入る関係で賞味10分くらい。曲や番組中のCMもあるので話す時間はもっと少なめ。CMがあけたらもうコーナー告知をしてお別れだ。
『CMあけます。』
戸城さんのコールで再度カフを上げる。
「今日は自己紹介などをさせていただきましたが、次回から『あなたの身近なさみどり』というコーナーをやっていきたいと思います。このコーナーでは、皆さんの見つけた素敵な植物を紹介していただくコーナーです。近所の植え込みに咲いている花がきれいとか、コスモス畑にいってきましたとか、初めて一輪挿しの花を生けてみましたとか、なんでもけっこうです。どんどんお寄せ下さい。採用された方には番組特製ステッカーをプレゼントします!そして、コーナー宛だけではなく、普通のおたよりも募集中です。どんな些細なことでもかまいませんので、ぜひこの番組までメールをお送り下さい。メールアドレスはさみどりあっとまーくじぇいえいきゅーあーるどっとしーおーどっとじぇいぴー、さみどりはえすえいえむあいでぃーおーあーるあい、です。皆様のメールをお待ちしています!」
よし、あと少し!
「さて、お別れの時間となりました。初めての番組いかがでしたでしょうか?こんな感じゆったりとお届けして参りますので、ぜひ来週も聴いて下さいね。この時間のお相手は早緑美愛でした!では、皆様、引き続きよい夜をお過ごし下さい!……早緑美愛の冬はさみどりいろ、この番組は浜松町の文明放送をキーステーションに全国21局を結んでお送りいたしました。」
『はーいおつかれさまでした。』
私はカフを下ろす。最初にしてはなかなか良かったんじゃないかな!
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