第061話●その顔は見たくなかった※胸糞注意
早緑美愛ライブツアーも終わって、一日のんびりした翌日はマツノキ出版から折り入って話があるということで、足を運ぶ。契約周りは太田さんにおまかせしているものの執筆関係の細かい話は直接やった方が早いので、スケジュール管理も含めて全て自分でコントロールしている。
「本日小林様とお約束を頂戴している雨東と申しますが。」
「少々お待ちください。……はい、承っております。こちらを下げていただき、そちらの応接室Aでお待ちください。」
正直、ここの入館証は本当に形式的なものだ。受付を通らずにそのまま応接室に来ている人もけっこういる。セキュリティは大丈夫なのかな、と思いながら応接室でまっていると連絡をくれた小林さんが入ってくる。
「先生、お世話になります。急な話で申し訳ないのですが、実は、私が担当を離れることになりまして、後任の担当者を紹介させていただきたいのですがよろしいでしょうか。」
「おや、そうでしたか。はい、ぜひ新しい方を。」
「ありがとうございます。いま呼びますので。」
小林さんは内線で新しい担当者を呼んでいるようだ。
「失礼します。」
入ってきたその人の顔を見た俺は固まってしまった。
「先生、紹介します。
「松埜井です。お久しぶりですね、高倉さん。いや、いまは雨東先生ですかね?」
「
「もちろん。先生が中学3年、私が高校3年の時にいろんな仲間と一緒によく遊んだ仲ですから。先生は突然転校されてしまって。そのあとは遊べなくなってしまったのが本当に残念ですよ。いやあ、こんなところで会えるなんて奇遇だなあ。」
「……ええ。そうですね。」
くそっ、なんでこいつがここにいるんだ。お前のその顔は見たくなかった。
「じゃあ、問題なさそうですね。すみません、私はちょっと別件が入っているので抜けさせていただきます。では、先生失礼します。」
小林さんがそそくさと退席をすると部屋の中は沈黙が支配する。その沈黙を破ったのは松埜井だった。
「……ふふっ、最近、うちの雑誌の売れ行きが特定の号だけ伸びることがあるから、何が要因かと思ったら『雨東先生』の読み切りラノベが理由だと聞いてな。それで『雨東先生』の契約書を確認したらお前の名前があってびっくりしたよ。これは神様がまた高倉と遊びなさいっておっしゃってるんだと思ってな。それで担当者を変わってもらったんだよ。」
「……あんた、なんでこんな所にいるんだ。まだ大学生じゃないのか?」
「ん?知らないのか?ここは俺の親父の会社だよ。来年春にはここに入社して将来は継ぐからな。いまからあいつらと一緒に
「そうだったのか……。」
こいつの取り巻きまでこの会社にいるのか……。
「それにしても先生と呼ばれるなんておまえもずいぶんとえらくなったもんだな。」
「……。」
「何も言えないのか?おまえ、俺にそんな態度とっていいのか?あのときの映像はまだちゃんと残ってんだぞ?」
「……くっ!」
こいつまだ持ってんのか。
「あのときの
松埜井がニヤニヤと嫌らしい笑顔を浮かべて語り続ける。
「あんなに二人とも楽しんでたのになんでいなくなったのかは判らないけどなあ。まあ、こうやってまた遊べそうで楽しみだよ。」
一方的に松埜井は話し続ける。
「今後も楽しく遊びたいからよ。おまえ、うちの専属な。」
「……なにいってんだ?」
「おやおや、なに反抗的な態度取ってんだ?おまえ、そんなこと出来る立場だと思ってんのか?おまえと甘巻の素敵な映像をうちの写真週刊誌で紹介してやってもいいんだぜ?」
まずい、昔のことが脳裏をよぎって体がこわばる。頭がぼんやりしてくる……。
「それとおまえごときがアイドルと付き合ってるとか何様のつもりだ?」
「……それは関係ないだろ。」
「俺に譲れよ。」
「はあっ?」
「聞こえなかったか?早緑美愛を俺に譲れって言ってんだよ。」
「何をバカなことを……。」
「バカなことじゃねーだろ?俺は前からああいう女を抱きたいと思ってたんだよ。おまえがちょっと声を掛けて俺の自宅まで連れてくりゃ、あとはこっちでかわいがってやるよ。少しかわいがりゃ、甘巻みたいにすぐ自分から動くようになるからよ。」
「ふざけんな!」
「なんだ、おまえも一緒に楽しみたかったのか?そりゃ毎晩お楽しみだろうしなあ。俺たちの前で甘巻と勝手にやりはじめた時みたいにまた俺たちの前で早緑美愛と勝手にやりはじめてもいいんだぜ?」
「……黙って聞いてりゃ……。」
松埜井はテーブルを大きく叩き、声を低くして俺のことをさらに脅しはじめる。
「……おまえ、自分の立場、勘違いしてねえか?あのときの映像をうちの雑誌でばらまけば、おまえのいまの地位は全部おしまいだぜ。彼女にも幻滅されて別れるのがオチだって判らないのか?」
ダメだ、体が震えて、頭が回らない。これはいまはいったん引くしかない。
「……すぐには……回答……できない……。」
「まあ、いいだろう。だが、どうせ結論は出てるんだ。週明け月曜日15時、ここに来い。来なかったら判ってるよな?」
そういうと松埜井は席を立ち応接室から出て行った。
何処をどうやって帰ったのか憶えていないが気がつくと自宅のベッドで布団をかぶっていた。そして、思い出したくもない中学時代の
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