第052話○横浜公演のセトリ

 今日は、東京公演あらため横浜公演について、構成をどうするのか、という打ち合わせの日だ。大山おおやまさんがアイデアを持ってくるということで楽しみ。


 参加メンバーは、大山さん、ブラジリアミュージックエンタテインメントで私の担当プロデューサーを務めてくれている古宇田こうださん、大崎ライブクリエイティブの近藤こんどうさん、そして太田さんと私。バンドメンバーはほかの仕事があるということで、参加できず。


 バラエティ番組の収録が押した関係で少し遅れて太田さんと私が4階の大会議室に入ると打ち合わせ開始のあいさつもそうそうに大山さんがいきなりびっくりするような提案を繰り出してきた。


「セトリ、全部変えるよ。」

「えっ、いまからですか!?」


 すぐに反応したのは近藤さん。


「もちろん。」

「意図を伺っても?」

「近藤の眼は節穴なのかい?これだけ注目されて、しかも横浜にはライブ初参加の客の方が明らかに多い。だとしたら初参加の客と何度も参加した客の両方にあわせたいまのセトリじゃだめだっていうことよ。」

「だめですか?」


 もうだまっていられないとばかりに割り込んだのは古宇田さんだ。


「ああ、だめだね。初めて見に来た人にもっと早緑美愛の魅力が伝わるように組み直さないと。そもそも古宇田は美愛の魅力がちゃんと判ってんのかい?」

「判ってますよ、パワフルな歌声と繊細な節回しで歌うポップスが……」

「お前、全然判ってないじゃないか!」

「そんな!大山さんこそ、どうなんですか?」

「早緑美愛の魅力はね。バラードだよ。」


 えっ、バラード?確かに「渋谷バラード」は評価されているけど、あれは企画性もあるからじゃないの?


「美愛が最初に評価されたのが3rdの『私発あなた行き』だからみんな惑わされてんだよ。確かにあれはすごかった。でもあたしが美愛のライブをやりたいって思ったのはバラード。いまの若い子であそこまでいろんなタイプのバラードをものに出来る子はそうそういないよ。だからライブ初披露も4thからの新曲もほとんどバラードにしたんだよ。」

「確かに最近は歌番組でも『渋谷バラード』のリクエストが増えていますね。」

庸子ようこちゃんはちゃんと押さえてんねえ!だからさ、バラードを聴かせたいんだよ。ライブハウスって箱だとどうしてもバラードはキツいところもあるけど、今回の会場はアリーナ、しかも音響にこだわり抜いてるイプロプラスアリーナだからね。バラードを歌い上げるには絶好の環境だよ。」


 私は既にワクワクしている。


「大山さんはどんなセトリを考えてきたんですか?」


 近藤さんがそう聞くと大山さんが嬉しそうに語りはじめた。


「まず、ロックとポップスは初手の3曲、『アイマイ』『Magic Of The First Time』『私発あなた行き』に絞る。この三つは美愛のファンでなかった人もよく知っているからね。ここで初見さんにファンサしとくんだ。そのあとは徹底的にバラードを聴かせる。『First Impression』からライブ会場をテーマにした新曲3つで4曲。MCはさんで、今度は未披露のバラードと『新たなはじまり』で5曲。4thの新曲も含めた『渋谷バラード』と『カーテンコール』で中座。アンコール開けは『ハートを捉まえて』『神様が微笑む森』やってショートMC入れて『主役』で締め。」


 ええっ!「主役」をアンコールまで引っ張るんですか!新鮮!


「いままでのライブではやらなかったセトリですね!?」


 古宇田さんが驚いている。


「でも要所の定番はちゃんと押さえてんだろ?」

「たしかに。」

「美愛はどう?」


 太田さんが私の意見を求めてくる。これをやろうとすると本当に大変だ。私の場合、ロックやポップが体力を使うのに対して、バラードはとにかく精神力を使う。メンタルを相当しっかり作り上げないと途中で息切れしてしまう。でも私は。


「……やります。やらせて下さい。」

「美愛、いいのね。」

「はい。大山さんにそこまでいっていただいて、受けない理由がありません。」

「判った。バンドメンバーも大変だけど頑張ってもらうわ。古宇田さん、よろしくお願いします。」

「早緑さんと太田さんがそうおっしゃるなら。大山さん、ではそれで行きましょう。」


 横浜のセトリが決まった。頑張って練習していいライブにするぞ!

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