幕間◇聴いたことのある曲
「第05話●久しぶりのファミレスにて」の未亜視点です。
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五月の連休明け初日、ランチを食べながら圭司と話をしていると予想もしなかった曲が流れて思わず思考が停止する。
「ごめん、うっかり電源切り忘れてた。ちょっと電話してくるわ。」
「あっ、うん、行ってらっしゃい。」
えっ、ちょっとまってまってまって!?なんで圭司のスマホから
実は、私はいま
子どもの頃から女優に憧れ、中学に入ってからは本格的に女優になりたいと思うようになっていた私。でも、引っ込み思案な性格が災いして芸能界という世界に飛び込むのをためらっていた。
高校1年生の5月、このままではダメだ、自分を変えるんだと一念発起して、女優の前にまずはいろいろなことにチャレンジできるアイドルになろうと考えた。幸いなことに高校は芸能活動を許容してくれる環境で、さらに元々親は私をアイドルにしたかったらしく、喜んで後押しをしてくれた。
調べたらいろいろな事務所のオーディションがあったけれど、私が狙っていたのは業界上位に位置する総合芸能プロダクションである大崎エージェンシー。
この事務所は、ユニットで活動することが多い最近のアイドル業界の中では珍しく、基本的にソロでの活動をメインにしている。人と群れて共同生活を送るのが苦手な私にとっては、うってつけだったのだ。さらに仕事の幅も広く、アイドル卒業後に女優として活躍している人もたくさんいる。
しかも恋愛に関してはオープンで、先輩の中には彼氏がいることを公言している人のみならず、結婚しているアイドルまでいるという本当に不思議な事務所だ。その頃は今すぐ恋愛がどうとは考えていなかったけど、私も女の子、やっぱり好きな人が出来たらお付き合いしたかった。いままさに叶っているけどね。あ、もちろん、彼氏が出来たことは既に事務所には報告済み。マネージャの
不定期に開催されている大崎エージェンシーのオーディションが夏休みに開催されるということで受けたところ、いろいろな審査を経て、最終的に秋に合格をもらえた。歌やダンスのレッスンでみっちりとしごかれたあと、高2の秋にはデビューとなった。アイドル、そして女優へ向けての一歩を踏み出すことが出来た、といってもいま最も評価されているのは歌だった。女優とは方向性は違うけど、まずは評価をもらえたところで頑張っている。
デビューシングルはものすごい売れたわけではなかったもののランキングチャートに引っかかってくれたおかげでCDショップ店頭での手売りにもそれなりに人が来てくれた。その後は、ファーストアルバム発売記念のCDショップ店頭ミニライブから始まり、サンセットシティの噴水広場、下北沢LOSTなどなど、ライブも毎月のように開催して八割から九割は埋まってくれた。
「さみあん」という愛称が付いたのもこの頃。大崎の先輩アイドルである
デビューから半年経ち高校三年になったタイミングで出した2枚目のアルバムは、デビュー曲より伸びてくれて、リリース記念ライブは300人規模の会場で成功させることが出来た。
ライブもそこからさらに埋まるようになっていて、年明けに出した3枚目のアルバムは、収録されていた「私発あなた行き」がラジオ番組のリクエストコーナーで話題になったのをきっかけにスマッシュヒット。配信とCDの総合ランキングを発表しているブルウォールチャートでデイリーのトップ10にランクインした!この連休にはついにアイドルの聖地・中野ムーンプラザで満員SOLD-OUTのライブを成功させることが出来た。まだまだ新人だけど、私らしく着実に知名度を上げているのが何より嬉しい。
この日、彼のスマホから流れた曲は、そんな私の「アイマイ」というデビュー曲、しかもデビュー当時、まだ100人ちょっとしかいなかったファンクラブ会員にだけ期間限定で発売したアレンジ版インストというかなりレアな音源だった。初めてライブに行った浅いファンだなんていっていたけど、この音源を持っている時点で割と初期から応援してくれているディープなファンなんだよね……。
ランチを食べ終わったあと、私はいつも通りレッスンを受けてから家に帰ってお風呂でのんびり考える。
「まさか、圭司が私の熱心なファンだっただなんて……。」
アイドル活動をしているときはフルメイクをしっかり決めて、ウイッグを使い、ライトブラウンのロングヘアへとチェンジする。そして眼はダークブラウンのカラコンで変装している。
「それにしてもウイッグとカラコンとお化粧の力はすごいんだなあ。全く気がついてない感じだもんね……。」
湯船で手足を伸ばしながら考えを整理してみる。
「とりあえず、適当にごまかしちゃったけど、応援しているアイドルが実は彼女でした、だなんて判ったら理想と現実のギャップで嫌われちゃうかな。やっぱりこのまま隠しておく方がいいのかな。うーん、悩ましいなあ……。」
思考はぐるぐる堂々巡りを繰り返すばかりでいいアイデアが全く浮かばない。
「でも、事務所にもちゃんと紹介しておきたいし、やっぱりタイミングを見て、私が早緑美愛だって伝えないと。明日、事務所へ行って、太田さんに相談してみようかな?」
そう考えた私はお風呂から出ると早速太田さんへRINEを飛ばした。
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