第003話●この人とお付き合いしたい

「よし、遊びに誘えた。あとは頑張るだけだ。」


 ほかにも大学の知り合いが出来て、そうした知り合いたちとの間柄が友達へと関係が進んでいくと西脇さんの性格の良さがよくわかるようになっていた。


 なんにでも真摯に取り組むところ、ちょっとしたときのフォロー、お店で食事をしているときの気遣いみたいなところがほかの女友達と比べて際立っていた。それに興味を持つ内容や会話のテンポ、食べ物の好み、いろいろなところが俺とすごくあっていて、一緒にいて心地よい。最初に授業をあわせたこともあって、一日のほとんどを過ごしていると自然と意識してきてしまう。


 こんなに早く2週間で人を好きになるなんて思ってもいなかったけど、中身を見る機会が多かったからその分早かったのかもしれない。まあ、単純にチョロいだけなのかもしれないけど。

 話をしている感じでは、多分西脇さんも少なからず好意は持ってくれていると思う。そう思うと他の人が告白する前に自分がっていう意識が強くなってしまった。


 よし、連休の頭に遊びに誘ってみよう。OKをもらえたらプランを考えて、一日の最後に告白するんだ。


「西脇さん、連休に入ったら一日二人でどこかに出かけない?」


 そこからはトントン拍子に横浜一日観光が決まる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 当日は10時に石川町の駅で待ち合わせ。


「今日はどうやって回るの?」

「最初は元町をウィンドウショッピングしながら港の見える丘公園に行くよ。そのあともいろいろと考えてある。」

「そうしたら、ニシマチでバッグをみてもいいかな?」

「もちろん!そうしたら、俺も財布とか買うかな。」

「いいね!お互いのセンスが試されるね。」

「俺、ファッションセンス無いよ!?」

「そんなこと無いと思うけどなあ。いつもきれいめなカジュアルで似合っているし。」


 元町商店街にある老舗の鞄店「ニシマチ」で買い物をして、ウィンドウショッピングを楽しむ。


「ここが元町・中華街の駅で、その先にあるのが港の見える丘公園。展望台まで階段上るから気をつけてね。」

「そっか、だから歩きやすい靴なんだね。」

「そうそう。ヒールだとつらいからね。」


 今日はけっこう歩く予定なので、事前に歩きやすい靴で来るように伝えておいたのだ。西脇さんにそんな注意をしながら展望台までたどり着く。


「すごい!」

「手前の住宅街から工場地帯、奥のベイブリッジまで、横浜港が一望できる。」

「いい眺めだね。」


 港の見える丘公園で景色を楽しんだあとは、少し遅めのランチを中華街で。


「中華街もほとんど来たことないと思うなー。」

「ハマの観光地!って感じするからね。」

「高倉さんはよく来るの?」

「さすがにそんなにしょっちゅうは来ないよ。」


 腹ごしらえが出来たらやっぱり定番のマリンタワー。そして、山下公園を散策する。


「横浜のこの辺はこの季節が一番歩き回りやすいね。」

「確かに風が気持ちいいね!市内なのにあんまりこっちの方には来ないから新鮮。」

横浜駅西口にしぐちで済ませちゃうよね。」

「ここからはバスで移動なんだけど。」

「えっなにあれ?あれがバスなの?」

「そう、『あかいくつ』っていうんだけど。」

「かわいいバスだね!」


 バスの中から赤レンガ倉庫を眺め、万国橋で降りる。


「西脇さんの大好きなカップラーメンの博物館!」

「こんなのあるんだ!」


 自分がまるでカップラーメンの麺になったような体験をしたり、有名な鶏ガララーメンの手作り体験をしたりしている間に楽しい時間は過ぎ去っていく。


「ディナーはちょっと奮発していいところを押さえたから。ここはおごるよ。」

「えっ、そんな悪いよ。」

「いいのいいの。ちょっとした臨時収入もあったからここだけは出させて。」

「そっか……。うん、高倉さん、ありがとう。」


 ぷかり桟橋にあるマリンレストランで夜景を眺めながら食事を楽しむ。このレストランは観光客向けでドレスコードがなく、ラフな格好で入れるのがありがたい。そして最後は臨港パークで芝生に座ってベイブリッジの夜景を眺める。


「きれいだね。」

「本当にきれい……。」

「なんかすごい……。思い描いていたようなデートコースなんだけど……。あっ、なんか変なこといっちゃったかな?えへへ……。」


 これは!きっといまだ!


「あのさ、西脇さん。」

「なに?」

「……好きです。俺と付き合ってください。」


 気持ちをできる限りストレートに。沈黙が支配する。怖い。だがもう賽は投げられた。待つしかない。吉と出るか凶と出るか!

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