第002話○私って意外とチョロい?

「なんとかなるもんだなあ……。」


 私は昔から奥手で人見知りだった。特に男性にはどう接したら良いか判らなくて、友達から男子校との合コンに誘われても断り続けていた。そんな自分を私生活から変えていきたいと大学はあえて周りの友人達が志望していないところを狙った。もちろん、所謂大学デビューをしたかったからだ。


 高校に来ていた指定校推薦の1枠が無事に取れた私は、ファッションに詳しい知り合いに相談して、自分に似合いそうなブランドの店を教えてもらい、店員さんに相談をしながら服をそろえていった。そのおかげでおしゃれにも目覚め、フェミニンなものからラフなスタイルまでいろいろなコーディネートを楽しむようになった。日常生活では眼鏡だったのをコンタクトにしたのもこの頃。誕生日が1月だから運転免許を取ったのは卒業直後だけどね。


 武道館での入学式には感動したけど、あわよくば誰かと仲良くなんて思ったのも結局難しくて、大学の授業開始に賭けてみたけどいざとなるとあと一声が出なくて。

 周りから声がかかるかな、と一縷の望みに掛けてみたもののとても美人とはいえない私にはナンパの声すらかからない。


 授業開始から3日も経つと周りはそろそろ少しずつ友達を作り始めている。全くきっかけがつかめずにいた私は未だに知人すら出来ずにいた。高校の時の友達が全くいない環境は逆にまずかったかなあ、という後悔の念に駆られながら、初めて階段教室なる教室に入る。


「大きい……。」


 高校の時にはなかった、まるでコンサートホールのような階段状になった教室は一席ずつ開けながらほぼすべて埋まっている状態だった。


 入り口から見渡すと最上段、二人がけの片方が開いていた。特に気にせず近づくと既に座っていた男性はよそを向いている。本当は座って欲しくないのかな、でも座れないからしょうがないよね。完全に登り切ると私は声を掛ける。


「ここ空いてます?」

「はい、空いていますよ。」

「すみません、となり座らせてもらいますね。」


 授業自体は可も不可もなく。隣に座っている男性はイケメンではないけど、誠実そうで清潔感もある感じの男性。いままでの私だったら見ているだけだったけど、大学に入ったんだから変わるんだ。

 授業が終わって、伸びをすると隣の人も同じように伸びをする。なんとなく目が逢う。今がチャンスだ、頑張れ私。


「学部はどちらですか?」


 第一声は上手くいった。あとはなんとなく流れで会話が続く。お昼のお誘いにも乗ってくれた。ファミレスになったのは想定外だけど、カツカツではないからまあ大丈夫。RINEチャットアプリも交換して、授業もあわせて。こんな風にやればいいんだって言ういい練習になった。


 いったん勇気が出るとほかの授業でも声を掛けたり、逆に声を掛けられたり。男女問わず少しずつ知りあいが出来て、大学デビューは上々の出来じゃないかな、と嬉しくなる。


 でも、最初に出来た男性の知りあいたかくらさんは、ほかの人とはちょっと違っていた。「男子校出身だし奥手だよ。」なんて笑うけど、ちょっとした振る舞いがいつもレディファーストで、何人かでご飯を食べに行ってもお店の人に横柄な態度を取ることもなくて、いつもこちらが考えていることを先読みして対応をしてくれる。それに話をしていても同い年とは思えないほどいろいろなことを知っている。でも自慢するのではなく、さりげない。ほかの知りあいおとこのひとと比べて、同い年とは思えない立ち居振る舞いと大人な対応に特別な感情こいごころを持つのには時間がかからなかった。


 我ながら単純な性格だチョロいと思うけど、一日を過ごす度にこの人ともっと一緒にいたいという感情はどんどん強くなっていって。出会ってから2週間、4月の下旬にはすっかりこの人も私のことを好きでいてくれたらいいなあ、なんて、すっかり乙女になってしまっていた。

 そんな私に高倉さんは知ってか知らずかこんなお誘いをしてくれる。


「西脇さん、連休に入ったら一日二人でどこかに出かけない?」

「うん、いいよ。連休は用事がいろいろあるけど一日くらいなら空けられると思う。30日とかどうかな?」

「30日なら大丈夫。どこか行きたいところある?」

「うーん、高倉さんに任せてもいいかな?」

「わかった!じゃあ、いい機会だから横浜の都心部をぶらぶらしない?」

「いいね!関内とか桜木町とかのあたりって近いからなかなか行かないよね。たのしみにしているよ!」


 二人でお出かけなんて、とても楽しみ!実質デートだよね!

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