はしやすめ~柊真の日常~

PC室に真面目な話をしに行ったつもりだったのに、なんだか返り討ちにあった気分だった。


心華このかは幼なじみで仲良しで、妹みたいな……。それ以上もそれ以下もないと思っているし、この先も変わらない。はずだ。

はずだ、と歯切れが悪いのは渡川わたがわがヘンな事を言ってくるからだ。

俺が心華を好きだ、という。

ないない、それはない。


そんなことを考えながら部室に向かって歩いていたら、がつん、と渡り廊下の柱に頭をぶつけた。

「いってぇ…。」

ぶつけた弾みで、しりもちをつく。

「なにやってるんですか、柊真センパイ…」

頭の上から声が落ちてくる。声の主は、部活の後輩の御倉 未希みくら みきだった。

「御倉か。ちょっと考え事してたら、ぶつかった。」

「アホですか。」

御倉は1年生のクセに、年上にもズバズバとものを言うタイプだった。

「どうせ、考えたって答えも出ないような事を考えてたんでしょ。」

やれやれと起き上がれるように手を貸してくれる。

「ははっ、お前はいつでも俺のことお見通しだな。」

「柊真センパイが分かりやすい顔してるんですよ。他の人にも言われたことないですか?」

若干鼻で笑われた気もしたが、気にしないでおく。

「俺の顔ってそんなに分かりやすい?」

御倉がさらに呆れている顔になる。

「自覚ないんですか!?占い師とか心理学者じゃなくても、すぐに分かりますよ。そんな顔してたら。」

「あ、そう。」

占い師とか心理学者とか意味が分からなかったけれど、なんか知られてるってことかと思っておくことにする。

「それより、早く部室に行きましょ。今日は色々と決めなければならないこともあるし…。」

「え?今日なんか決めることあったっけ?」

「忘れてるんですか?ほんとバカですね。」

今日だけでなく、普段からさんざんバカにされている気もしなくはないが、あえて反論しないでおく。

御倉が立ち上がれるように手を差し出してくれたので、遠慮せずに手を借りる。

「ありがとな。」

「別にお礼を言われるほどのことでもないです。」

「かわいげないなぁ。」

御倉はなにか言いたげに半口を開いたが、思い直して口を閉じる。むすっとした表情で少し柊真を見つめてから前を向き直して、先に部室へと歩き出す。

柊真はぽりぽりと頭をかきながら、もう片方の手でズボンのお尻周りをはたく。御倉の後ろに続いて部室へと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る