第6話 彼氏の実家
朝は心華のお家で朝食を食べさせてもらい、久しぶりの心華の姿にうきうきしているのかミミが散歩をねだるので、朝の散歩を心華と隼で行ってきた。
今日はこのまま隼の家に行くことになっている。出掛けに心華のお母さんから手土産を受け取り、心華の家を後にした。
心華の実家と隼の実家は、2人の住むアパートを挟んで反対に位置しており、普段であればアパートの最寄り駅を回って行くけれど、せっかく時間もあるのでと普段とは違う経路で行くことにした。
心華が隼の実家に行くのは初めてで、同棲するとなった時も隼の両親はかなりあっさりとした返事で、心華の引っ越しの手伝いに来てはくれたけど、夜ご飯を一緒に食べた後2人でデートすると言ってすぐに帰っていったくらいだ。
隼には双子の姉がいて、その2人もまた自由奔放な性格であるからか、隼も同じようにやりたいことはなんでもさせてもらっていた気がする。もちろん末っ子というのもあるのだろうけれど。
心華の実家に比べたら田舎と言えるのは、住宅街ではあるけれど家同士はほどよく離れて建っているし、田んぼや畑もそれなりにあるからだろう。
「はぁ~、緊張する~。」
心華がオーバーリアクション気味に言う。
「俺の方が緊張したよ。うちは父さん母さんも姉たちも適当だから、あんまり気張らなくていいよ。」
「そう言われても。粗相しちゃったら。」
「普段どおりで大丈夫だよ。」
「う〜ん、がんばろ。」
2人でいつものように話して笑う。
「いらっしゃい、心華ちゃん。隼もお帰り」
玄関で隼の母が出迎えてくれた。
「お邪魔します。」
リビングに上がると、さらに隼の双子の姉が出迎えてくれた。
「わー、話には聞いてたけど、心華ちゃんかわいいっ。」
2人の姉が声を揃えて言う。
心華が照れて顔を赤くしているのをみて、隼がすかさずフォローする。
「あんまりいじらないでやって。」
「隼みたいな弟より、心華ちゃんみたいなかわいい妹がよかったわ。」
隼があきれて返事をせずにいると、2人の姉は隼をのけて、心華を間に挟んで話始めた。勝手に自己紹介を始める2人を横目に、隼は心華のお母さんからの手土産と、来る途中で2人で選んで買ったケーキを母に手渡す。
隼の母はすかさず、心華の母に連絡を取り話し込んでいる。父は仕事らしく、リビングのホワイトボードには「18時頃帰宅」と書かれていた。
心華が2人の姉、
隼の母が心華の母との電話を終えて、ようやく2人の姉を制止してくれた。
「碧も翠もそのくらいにしなさい。心華ちゃんはあなた達の彼女じゃなくて、隼の彼女でしょ。」
「いや、どうせ夜になったらいちゃいちゃするんやから、お昼くらいいいじゃん。」
碧と翠が結託する横で、心華は顔を真っ赤にしている。今更ながらだが、よく顔に出る性格だなと思う。
「隼と心華ちゃんは荷物を片付けて、少しゆっくりしたら。」
母が声をかけてくれて、隼の部屋に移る。
「はぁ、いっぱいお話して緊張した~~。お姉さん見分けつかないね…。」
「そう?家族だからかな。一番分かりやすいのは目元のほくろの位置だけど、ちょっとした行動とか性格とか結構違うよ。」
「そうなの~??」
「別に覚えなくてもいいよ、こんなこと。」
「いや、でも、隼くんの家族のことだし、ちゃんと覚えなくちゃ。」
それから少しの時間、心華が見たいと言っていた隼のアルバムを2人で見ていた。幼稚園の頃が女の子みたいでかわいいとスマホを取り出して写真を撮るほど熱心にみていた。
しばらく時間が経った後、1階にいる母から
「隼~、ちょっとごめん、おばあちゃんの家に野菜もらいにいってくれる?」と声がかかった。
家にいてもそこまですることもないので、散歩がてら心華と行くことにした。
祖母の家は歩いて10分ほどで、小さな家庭菜園がある。祖母の趣味で季節ごとの旬を食べられるようにと、色々な野菜を育ててくれている。
「もしかして、時々隼くんのお家から届いてた野菜って、おばあちゃんが育ててるの?すごいっ。」
「小さい頃からずっとそうだから、特別なことだと思ってなかったな。」
「私なんて、小学校の時にミニトマト育てたことしかないよ。」
「それはみんなやるやつだね。」
「そうだけど~。」
ぷうっと心華の頬が丸くなる。話しながは歩いているうちに祖母の家に着いた。
「ここだよ。」
「わー、おっきいお家とお庭だね。」
祖母は茄子やピーマン、キュウリにトマトなど夏野菜をこれでもかと持たせてくれた。
「家のほう田舎だから、心華のとこみたいにお祭りとか楽しいことなくてごめんね。」
「そんなことないよ。隼くんの家族に会えて嬉しいし、さっきもアルバムみたりして隼くんのことを知れて嬉しい。」
「それは俺も昨日そうだったよ。浴衣を着せてもらったの初めてだったし。」
「ふふ、おんなじだね。」
もらった2袋の野菜をそれぞれ片方ずつ持って、隼の家への帰路へつく。
家に戻ると2人の姉がバーベキューのセッティングをしていた。
「お姉さん、きれいなのにアクティブなんだね。」
隼に言ったつもりだったけれど、"きれい"という言葉に双子の姉は即座に反応する。
「心華ちゃん、お世辞うまいわ〜。」
心華はびっくりしつつ返事する。
「いや、お世辞ではないです…。」
語尾が若干もごついてしまうのをみて、隼が呆れて言葉を加える。
「お世辞に決まってるだろ。キレイとアクティブがイコールになるわけない。アクティブって言ってるけど、がさ…」
言葉の途中で2人の姉に順番に叩かれる《はたかれる》隼。
「隼うるさいで~。こういうときは黙って素直に褒め言葉を受け入れるもんや。」
2人の姉の声が見事にハモる。
「なんで関西弁…。」
「それより、隼はさっさと手伝って。」
翠に言われて、隼は叩かれた頭を両手でさすりながら、呆れた顔でバーベキューのセッティングの手伝いを始めた。
「心華ちゃんは私と食材の準備しよ。」
所在なざげな心華には、碧が話しかけて作業をし始める。
碧と翠が冷蔵庫で冷やしていた缶ビールやチューハイなどのお酒とジュースを手際よくクーラーボックスに詰めて庭に運び出す。
「心華ちゃんは何飲む?お酒?いっぱいあるよ。」
「えっと…。」
隼に飲んでもいいかな?とチラリと視線を送る。
「こないだ20歳になったばかりだし、あんま飲ませないでよ。」
「そっか、隼と違って良い子やしな。隼は15くらいから飲んでたもんなぁ~。」
え、と驚く心華に呆れ顔で隼は答える。
「俺は姉さん達に飲まされただけなんだけど…。」
あくまで自分の意志ではないことを主張しておく。
「どうせ人前では父さんの晩酌~とか言い訳使ってたやろ。」
行動をそのまま言い当てられるのは姉弟だからか。隼はうっ…と後退り《あとずさり》しそうになる。あとで心華には改めて伝えておこうと思った。
隼の反応を見て見ぬふりをして、碧と翠は手際よくお酒をチョイスしていく。
「じゃあ心華ちゃんは甘いのがいっか。」
と言って心華にはピーチオレンジ味のカクテル風のお酒、隼には目新しいパッケージのビールを注いでくれた。
碧と翠は2人で高価そうなプレミアムと書かれているビールを、やっぱ泡が違うわ~と言い合いながらお互いにプラコップに注ぎあう。
「じゃあ、準備もできたし。乾杯~!」
碧と翠は1口でビールを飲み干して、お互いにお酒を注ぎ合いながら、さらにバーベキューグリルで肉や野菜を手際よく焼いて隼と心華に取り分ける。
何もしなくても碧と翠の2人でしてくれるので、隼と心華はひたすら食べて、時々絡んでくる碧と翠に適当に返事をしていた。
バーベキューを始めて30分くらい経った頃に隼の父が帰宅したが、碧と翠が焼き上がった食べ物をまとめて渡していく形で隼の両親はリビングで4人を眺めながら晩酌していた。
「そろそろお腹膨れてきたな…。」
隼はポツリと呟いたつもりだったが、碧と翠は聞き逃さず反応する。
「じゃあ今日は特別にうちらが片付けしとくよ~。」
「ツケとくわね。」
何に対してのツケか理解できなかったが、姉達に任せることにする。母がお風呂の用意が出来ているというので、そのまま心華と隼は順番にお風呂を済ませることにした。
隼が風呂から出ると2人の姉に捕まってタジタジになっている心華をみつけて、また助け船を出す羽目になった。
お酒にめっぽう強い2人の姉は普段は家での晩酌をしないのだが、今日は隼が久々に帰るのと心華という話し相手を得たためか、格段に饒舌だった。
「碧さんも翠さんも圧がすごかった……。」
2階にある隼の部屋に向かいながら、精気を吸われたような顔をして心華がいう。
「普段はそうでもないけど、2人ともお酒が入るとあのくらい陽気になるね…。」
「そうなんだ。普段の姿でもお話してみたいな。」
「あー、多分普通でも結構めんどくさいかも。」
「そうなの!?」
その後は隼の部屋でいつものように他愛のない会話をして過ごす。布団を1組出しておいたけれど、敷くのが面倒くさくて一緒にベッドで寝ることにした。
「ご両親にダメな子って思われないかな~。」
「そんなこと気にしないよ。」
「そうかなぁ~。」
「じゃあ別々に寝る?」
「それは…、一緒がいい。わかってるでしょ。」
「うん、わかってる。」
言って心華のおでこにキスをする。
お互いの熱を感じて、お互いにまた照れてしまう。
「そういえば、俺が風呂入ってる間、2人に何か言われなかった?」
「ん、大丈夫。」
「何話してたの?」
「…それは内緒。」
隼のことをどれだけ好きか言っていたなんて、今は口が裂けても言えない。
「ま、いいけど。」
「いつか、恥ずかしくなくなったら言うね。」
恥ずかしくなくなったら?隼は心華がどんな話をしたか想像がつかなかったが、その時までのお楽しみにしておこうと思った。
「じゃあ、その時まで待ってるね。」
「うん。」
「あー、本当今日は疲れた。姉ちゃん達が騒がしくてごめんね。」
「勢いがすごくてびっくりはしたけど、楽しかったよ。」
「それならよかったけど。」
ふふ、と2人で笑い合う。自然と片手を繋いで見つめ合っているうちに、どちらからともなく眠りに落ちていった。
なつやすみ すずみみりん @suzumimirin
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