第124話 海を割る2
僕は凍り付いた海に向かって、手のひらをかざした。
「おっと、その前に」
僕の魔力でこの魔法を撃ってしまうときっとすぐに魔力が枯渇してしまう。
だから念のためだけど、僕自身も強化しておかなきゃね。
久しぶりに本格的な魔法を使うから、忘れるところだった。
「
僕は自分自身に
これで
もしかしたら、何発か打てるかもしれない。
「よし!
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
「え…………? あれ…………!?」
「ひ、ヒナタ君……!?」
なんと僕の放った
――
――ゴオオオオオオオオオオ!!!!
僕の目の前で、灼熱の炎が今にも飛び出しそうに燃えている。
まさかここまでの威力になる魔法だったなんて……!
「あ、バカヒナタ! 私はさっきかなり威力を抑えて撃ったのに!」
「ええええええ!? そ、そうだったんですか!? そういうことは言っておいてくださいよ!!!」
まったく、リシェルさんには驚かされる……。
まさかさっきの威力がフルじゃなかったなんてね……。
僕は容赦なく魔力をそそいでしまった。
「は、はやくその火炎弾を放つんだ! このままじゃヒナタくんまで燃えてしまうよ!」
僕の身を案じてユーリシアさんがそう言ってくれる。
だけど、僕は
そういった皮膚の耐久面も、
この
ありとあらゆることを
「せっかくなのでもっと威力を高めてから撃ってみます!」
「え…………? ヒナタくん……!? なにを言ってるんだ……!?」
きっとこのまま海に向けて放っても、それはそれでけっこうな意味があるだろう。
だが僕たちはこの近海を旅するんじゃないんだ。
もっと先の海まで旅をしなくてはならない。
どうせあとでまた行き詰るたびに氷を解かすのなら、ここで一発でかいのを決めてしまってもいいじゃないか。
「うおおおおおおお!
僕は手の中に燃え滾っている
すると――、火球はさっきにもましてどんどんその温度を上昇させていった。
「す、すごい……! 今までにみたことないくらいの魔法だ……!」
さすがのユーリシアさんも怖気づいて、一歩下がる。
まあ、近くにいると危ないかもしれないからね……。
僕は
「さあて……! いっけええええ!!!!
――ズゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
――ドシャアアアア!!!!
僕の手を離れた火炎弾は、まるで海を割るようにして氷上を奔る。
そして海の氷という氷が、一瞬のうちに溶けていった!
「うおおおおおおおおおおお! やったぁ! 成功だ!」
「すごい! さすがヒナタくんです!」
僕たちはみんなで抱き合ってよろこんだ!
「どひゃあ……たまげたなぁ……さすが勇者さんだぁ……」
と、地元の船乗りさんらしきおじさんが漏らす。
しかし、それをすぐにケルティさんが否定する。
「ヒナタくんは勇者じゃないんですよ……。勇者はこっちの彼女です」
「え……!? 勇者じゃないのにあれを……!? あんた一体なにものだよ……」
と、大変驚かれてしまった。
僕は勇者でもなんでもない。
「えーっと、僕はただのポーション師です」
「………………」
僕がそういうと、騒動をみにきていた野次馬の地元住民たちがみんな口を閉ざした。
そしてポカーンとした顔でこちらを見つめている。
しばし沈黙があったあと、
「どわっはっはっは! そんなわけねえわな! さっすが勇者さんともなると笑いのセンスもちがうや!」
なんていうふうに、みんなが一斉に笑い出した。
えぇ…………。
「いやだから……僕は勇者ではないんですけど……」
「まあまあ、よかったじゃないか。海が割れて。とにかく、これでようやく出航ができるな」
と、本物の勇者であるユーリシアさんはなにも気にしていないようすだ。
さすがは勇者さん、懐がひろいなぁ。
「ですね……。もたもたしていられません! 一刻も早く、精霊王をさがしださないと!」
僕は決意を新たにする。
そういう僕たちに、一人の地元漁師さんが話しかけてくる。
「いやいや、今回は本当に感謝だべ。オラたちもずっと漁にも出られないで困ってたんだ」
「いえいえ、こちらこそですよ。船を出してもらえるなんて」
「なに、そのくらいお安い御用さ」
世界が氷に包まれたことで、そんなところでも被害が出ていたなんてね……。
精霊王に会いに行って病気をなんとかしたあとは、氷のほうもなんとかしないと……。
なぜ世界がこうやって氷の世界になってしまったのかはわからないけど。
とにかくたくさんの人が困っていることはまぎれもないじじつだ。
僕にはなぜだかわからないけど、精霊王に会いに行って人々をいやせば、それと同時にこの異常気象も終わりを迎えるような気がしていた。
こんなに冷たい世界になったのは、きっとみんなの心が冷え切っているからのような気がしていた。
なにか、この二つのことにはつながりがあるような、そんな気がする。
「とにかく、僕は世界も世界の人々も、そのすべてを癒せるようになるんだ!」
「その意気だヒナタ君! ぼくたちがついているよ!」
こうして僕たちは出航の準備にとりかかった。
――つづく。
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