第118話 面会謝絶
それぞれの思惑が交差する中、僕たちは会食を続ける。
ふと、ジールコニア子爵が口を開いた。
「そういえば、王の体調がすぐれないとか?」
それが決戦の火ぶたとなった。
ジールコニア子爵は暗に「王に会わせろ」と言ったのだ。
「お気遣いをどうも。父はたしかに療養中です。歳も歳なのでね」
スカーレット王女は、あくまでなんでもないように言う。
しらじらしい。
「だったら、彼に見せたほうがいい。彼は優秀な治療師なんだ。私の友人でね。だから今回連れてきたのですよ」
ジールコニア子爵が僕を紹介する。
「スカーレット王女。僕で良ければぜひお力添えさせてください」
僕は改めてスカーレット王女を見据え、丁寧にあいさつする。
「それはどうも。だが、父は既に国有数の医師団によって診てもらっている。それでも原因不明の奇病で、目を覚まさないのだ。もう打つ手がないよ……」
スカーレット王女は、僕たちを王に合わせない気だ。
それでもジールコニア子爵は食い下がる。
「そう言わずに……! どうかお願いです! 彼なら必ずなんとかします」
◇
【side:スカーレット・グランヴェスカー】
くそ、ジールコニア子爵め、しつこいやつだな。
こいつらを王にあわせるわけにはいかない。
シノビの里を襲ったのがこいつらだとすれば……。
きっと解毒薬を持っているはずだ。
そうなれば、王はあっという間に目を覚ましてしまう。
私の努力が水の泡だ。
ここは少々無理筋だが、なんとかお引き取り願おう。
「ジールコニア子爵、なにを企んでおられるので? まさか王を毒殺しようとお考えで?」
「な、なんですと……!? そんなはずはありません!」
「でしたら、面会を許す代わりに、すべての薬をこの場に置いて行ってもらおう。あらゆる荷物の持ち込みを禁止する。それなら面会を許そう」
「なるほど、病床の王に会うのだから、そのくらいの徹底は必要というわけですな。わかりました。それでも、王の顔だけでも見せてください」
「では、食後に案内させよう」
これでヤツらが解毒薬を使う可能性は封じた。
王との面会も許したが、まあそのほうが自然だからな。
あくまでも穏便にだ。
どうせ解毒薬なしじゃ、王に会わせてもなにもできまい。
なにか不審な動きをみせたら、不敬罪で逮捕してやる。
――あとで思い返すことになるのだが、このときの私は、油断していたと言わざるを得ない。
◇
食事のあと、私は彼らを王の部屋へと案内した。
薬はすべて荷物検査で取り上げさせた。
彼らにはなにもできまい。
「さあ、ヒナタくん、王を起こしてくれ」
ジールコニア子爵が何やら耳打ちしている。
……?
いったいなにを始めようというのか。
「行きます……!」
なぜかヒナタが王に近づく。
まさか、こいつ……。
解毒薬なしでも、王を治療できるというのか……!?
シノビの秘薬で眠らせた人物は、どんな医師によっても、専用の解毒薬なしには回復できない!
だが、まさかということもある……。
もしかして、こいつはその不可能を可能にする男なのか!?
まずい、もしそうだとしたら、私はとんでもないへまをしたことになる。
だがこれはチャンスだ。
王になにかしようとした瞬間、不敬罪で殺してやる。
「いきます……! ブースt――」
「貴様! 王に何をする! 不敬な奴め! 殺してやる!」
「ヒナタくん! 構わない! 無視して続けるんだ!」
ジールコニア子爵が何やら叫ぶ。
ヒナタは私の制止を無視して――。
「
などと繰り返している。
どうやら一回の
ならばその無防備な間に殺してやる!
「うおおおおおおおおおおお!」
私は剣を抜き、ヒナタに襲い掛かる。
もうなりふり構わず、こいつらを殺すしかない!
後のことなど考えている場合ではないのだ!
「そうはさせないよ!」
だが、私の剣を、勇者が受け止めた。
そうか、そのためにこいつを同行させたのか――!?
私は勇者に阻まれ、ヒナタを邪魔することができない。
そうこうしているうちに、王の治療が完了してしまう……!
「よし! これで最後だ!
「……っく!?」
あれほど深く眠っていた、我が父――アーノルド・グランヴェスカーが、ゆっくりと目を覚まし、起き上がる。
「お、お父様……!?」
「スカーレット……こ、これは……どういうことじゃ!?」
お、終わった――。
私は負けたのだ。
愚かな、無謀な策略だったのだろうか……。
私はもともと、戦のことばかりで、頭がそれほど良くない。
そんな私が、国を変えようとしたのが間違いだったのだろうか……?
私は私なりに、この国を思って……!
・
・
・
だが、私は潔く、その場に剣を置いた――。
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