第118話 面会謝絶


それぞれの思惑が交差する中、僕たちは会食を続ける。

ふと、ジールコニア子爵が口を開いた。


「そういえば、王の体調がすぐれないとか?」


それが決戦の火ぶたとなった。

ジールコニア子爵は暗に「王に会わせろ」と言ったのだ。


「お気遣いをどうも。父はたしかに療養中です。歳も歳なのでね」


スカーレット王女は、あくまでなんでもないように言う。

しらじらしい。


「だったら、彼に見せたほうがいい。彼は優秀な治療師なんだ。私の友人でね。だから今回連れてきたのですよ」


ジールコニア子爵が僕を紹介する。


「スカーレット王女。僕で良ければぜひお力添えさせてください」


僕は改めてスカーレット王女を見据え、丁寧にあいさつする。


「それはどうも。だが、父は既に国有数の医師団によって診てもらっている。それでも原因不明の奇病で、目を覚まさないのだ。もう打つ手がないよ……」


スカーレット王女は、僕たちを王に合わせない気だ。

それでもジールコニア子爵は食い下がる。


「そう言わずに……! どうかお願いです! 彼なら必ずなんとかします」





【side:スカーレット・グランヴェスカー】


くそ、ジールコニア子爵め、しつこいやつだな。

こいつらを王にあわせるわけにはいかない。


シノビの里を襲ったのがこいつらだとすれば……。

きっと解毒薬を持っているはずだ。

そうなれば、王はあっという間に目を覚ましてしまう。

私の努力が水の泡だ。


ここは少々無理筋だが、なんとかお引き取り願おう。


「ジールコニア子爵、なにを企んでおられるので? まさか王を毒殺しようとお考えで?」


「な、なんですと……!? そんなはずはありません!」


「でしたら、面会を許す代わりに、すべての薬をこの場に置いて行ってもらおう。あらゆる荷物の持ち込みを禁止する。それなら面会を許そう」


「なるほど、病床の王に会うのだから、そのくらいの徹底は必要というわけですな。わかりました。それでも、王の顔だけでも見せてください」


「では、食後に案内させよう」


これでヤツらが解毒薬を使う可能性は封じた。

王との面会も許したが、まあそのほうが自然だからな。

あくまでも穏便にだ。

どうせ解毒薬なしじゃ、王に会わせてもなにもできまい。


なにか不審な動きをみせたら、不敬罪で逮捕してやる。


――あとで思い返すことになるのだが、このときの私は、油断していたと言わざるを得ない。





食事のあと、私は彼らを王の部屋へと案内した。

薬はすべて荷物検査で取り上げさせた。

彼らにはなにもできまい。


「さあ、ヒナタくん、王を起こしてくれ」


ジールコニア子爵が何やら耳打ちしている。

……?

いったいなにを始めようというのか。


「行きます……!」


なぜかヒナタが王に近づく。

まさか、こいつ……。

解毒薬なしでも、王を治療できるというのか……!?


シノビの秘薬で眠らせた人物は、どんな医師によっても、専用の解毒薬なしには回復できない!

だが、まさかということもある……。

もしかして、こいつはその不可能を可能にする男なのか!?


まずい、もしそうだとしたら、私はとんでもないへまをしたことになる。

だがこれはチャンスだ。

王になにかしようとした瞬間、不敬罪で殺してやる。


「いきます……! ブースt――」


「貴様! 王に何をする! 不敬な奴め! 殺してやる!」


「ヒナタくん! 構わない! 無視して続けるんだ!」


ジールコニア子爵が何やら叫ぶ。

ヒナタは私の制止を無視して――。


活性ブースト! 活性ブースト!」


などと繰り返している。

どうやら一回の活性ブーストでは回復させられないらしい。

ならばその無防備な間に殺してやる!


「うおおおおおおおおおおお!」


私は剣を抜き、ヒナタに襲い掛かる。

もうなりふり構わず、こいつらを殺すしかない!

後のことなど考えている場合ではないのだ!


「そうはさせないよ!」


だが、私の剣を、勇者が受け止めた。

そうか、そのためにこいつを同行させたのか――!?


私は勇者に阻まれ、ヒナタを邪魔することができない。

そうこうしているうちに、王の治療が完了してしまう……!


「よし! これで最後だ! 活性ブースト!」


「……っく!?」


あれほど深く眠っていた、我が父――アーノルド・グランヴェスカーが、ゆっくりと目を覚まし、起き上がる。


「お、お父様……!?」


「スカーレット……こ、これは……どういうことじゃ!?」


お、終わった――。

私は負けたのだ。


愚かな、無謀な策略だったのだろうか……。

私はもともと、戦のことばかりで、頭がそれほど良くない。

そんな私が、国を変えようとしたのが間違いだったのだろうか……?


私は私なりに、この国を思って……!



だが、私は潔く、その場に剣を置いた――。

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